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1998/12/31 読売新聞朝刊
[社説]「高校不適応」を減らしたい
 
 高校中退者が一向に減らない。文部省調査では九七年度の中退率は前年を上回り、実数でも十一万台に高止まりしている。対策は進んでいるのだろうか。
 中退の理由を見ると、約四分の一は就職するためで、これを含めた「進路変更」は四割を占める。この中には本人が積極的に自らの進路を見直したケースも多い。
 問題は、高校生活に熱意がなかったり、授業に興味がわかないなどの「学校生活・学業への不適応」が年々増え続けている点だ。今回は初めて三分の一を超えた。
 高校中退の増加については、従来から二つの問題点が指摘されている。一つは中学の進路指導に問題はないか、もう一つは高校のあり方が柔軟性を欠いていないか、という二点だ。
 埼玉県で業者テストの偏差値がそのまま高校に合否判定資料として提供されていたことが分かったのは九二年だった。偏差値追放の動きが高まり、文部省も各教育委員会に改善を強く促してきた。
 文部省によると、教師による「入れる高校」選びから、生徒自身による「行きたい高校」選びへと、進路指導は大きく変わりつつあるという。先生たちには、これをさらに進め、将来の生き方まで視野に入れた丁寧な進路指導をお願いしたい。
 高校生のうち授業が大体分かっているのは三割台に過ぎない、との調査結果があった。高校進学率が97%という時代には授業の内容はもちろん、高校の構造自体も弾力化、柔軟化する必要がある。
 高校の新しい指導要領は今年度中に示される予定だが、必修単位が減って、生徒の負担は幾分軽減されることになりそうだ。基礎に力点を置いた必修科目の選択も可能になる。生徒の実情に応じたきめ細かい指導が必要になろう。
 普通科と専門学科を一体化させた総合学科高校では、生徒が入学後、双方を自由に選んで履修できるため、進路を考え直した時でも必ずしも中退しなくてすむ。
 文部省は総合学科高校を通学区域に一校ずつ、計五百校前後設置することを目標としているが、まだ百余校しかない。学年ごとの区切りのない単位制高校を含めてもまだ二百余校というのが現状だ。進路をじっくり見極めたい若者のためのこうした高校をさらに増やして行く必要があろう。
 法改正で来春から公立でも可能になった中高一貫教育校も新しい可能性を秘めた学校だ。高校入試がなく伸び伸びと個性豊かな生徒が育つことが期待されているが、来春の開校予定校はまだ三校という。子どもたちの選択肢を広げるという意味では今後もっと増えてもいいだろう。
 中退者のうち半数強は、早々と高校一年でやめている。「もう少し頑張ってみれば楽しくなったかも知れないのに」と、残念がる高校関係者も少なくない。
 人生、道に迷って引き返すのも決して無駄ではない。しかし、いったん踏み出した道を最後まで歩き通すことの意味も小さくはない。高校生たちには、もっともっと悩んでもらいたい。

 
 
 
 
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