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1998/02/28 読売新聞朝刊
[社説]高校中退者急増で考えるべきこと
 
 高校は義務教育ではないから、基本的には中途でやめる自由がある。その中には、本人の自発的な意思で、積極的に新しい進路を発見する者も含まれよう。
 とは言っても、中退者が増えるに任せていいというものでもない。高校はすでに、97%もが進学する時代となっている。何よりも最初から中退するつもりで入学する者はいないはずだ。
 自らの生き方を考えた上での積極的な進路変更は、学校も支援しつつ、全体としては減らす方向で努力すべきだろう。
 文部省の調査によると、一九九六年度の高校中退者が、四年ぶりに十万人の大台を超え、中退率は過去最高の2・5%になった。生徒数が減る中での急増である。
 中退の理由は、さまざまな事情が重なっているから、単純にはくくれない。
 ただ、気がかりなのは、学校側が判断した中退理由のうち、「学校生活・学業への不適応」が、じわじわと増え、31・4%にも達したことだ。同じ時期に中学生の登校拒否(不登校)が上昇カーブを描いていることとも無関係ではあるまい。
 「進路変更」を理由とする中退者についても、別の高校や専修・各種学校に入りなおしたいとか、大検(大学入学資格検定)の受検を希望する者が約三割もいる。
 これらのデータは、今後の対応策としていくつかのことを示唆している。
 まず、高校の構造をさらに柔軟にし、生徒にとって学ぶ魅力と選択の自由のある場にすることだろう。
 普通科と専門学科の壁を取り払った総合学科高校は、新年度から全国で百七校に増える。単位制高校も二百三十三校になる。いずれも、生徒が自らのカリキュラムをデザインできるという特色がある。
 特に総合学科高校は、通学範囲に少なくとも一校配置する必要がある。文部省の教育改革プログラムも目標にしてはいるが、その達成にはまだほど遠い。
 異なる高校での学習を単位として認める学校間連携ももっと増やしたい。
 そうした個性化・特色化の情報の高校側からの発信と中学側の収集がスムーズになされるような仕組みも欠かせない。
 そして、教師主導による「進路指導」を生徒自らが模索する「進路学習」へと転換していく必要がある。
 中退者の「その後」を追跡したアンケートによると、「高校での生活や勉強がどんなものか、特色は何かをもっと教えてほしかった」と答える者が多い。目的意識をもち得ないまま入学し、中退していった者のこうした声は無視すべきではない。
 高校をやめることへの抵抗感が、本人だけでなく、親や教師の間でも薄らいできた感もある。特にせめて高校だけは、と「強要」した親が、子供と真剣に向き合わないまま、安易に「本人の自由意思に任せる」という傾向がありはしないか。
 高校選びの段階はもとより、入学後に進路を変更するかどうかを含め、それが子供本人の自立や成長につながるよう、親と教師との連携が必要だろう。

 
 
 
 
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