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1995/08/26 読売新聞朝刊
[戦後教育は変わるのか]日教組の路線転換(2)若い世代に熱視線(連載)
 
◆新任加入率低下 時代から遅れる
 「主任手当の拠出は今年度をもって終える」。先月二日に開かれた宮崎県高教組の定期大会。執行部が提起した第三号議案が満場一致で承認された。
 文部省令で「主任」が制度化され、手当が支給されることになった七五年以来、管理強化につながると反対する日教組は、手当を組合に拠出する運動を続けてきた。その旗を、日教組傘下の七十六単組で初めて降ろすという提案だった。
 全国に先駆けた〈決断〉の背景を同教組の畠中幸治書記長(47)が語る。
 「日教組はこれまで政治的な部分ばかりがクローズアップされてきた。それが若い世代を組合から遠ざける一因になっていた」
 昨年度、宮崎高教組に加入した新任教員は百十二人のうちわずか九人だった。加入率八%。七〇年代の初めには約二千百人を数えた同教組の組合員数は現在約九百人。しかも、その半数近くは五十歳代という。組織の先細りという重い課題が、のど元に突き付けられている。
 若い世代との微妙なすれ違い――。それは日教組が長年「官制研修反対」と唱えてきた初任者研修制度を巡っても、はっきりと現れている。
 各都道府県が初任者研修の一環として新採用の教員を派遣し、文部省が実施する洋上研修。夏休みに客船で航海しながら受けるこの研修には、今年も約二千四百人が参加したが、二年前の参加者の中に、定期的に“同窓会”を開いている十五人ほどのグループがある。
 そのメンバーの一人、岐阜県の小学校教諭(26)は「不安や迷いがある時に、他県の同世代の教師と知り合えて新しい人間関係が生まれ、意義深かった。なぜ日教組が初任者研修に反対なのかわからない」と語る。
 ちなみに昨年度の洋上研修に参加した教員の九三%が「有意義だった」と答え、その理由として九一%が「他県市の教員との交流」を挙げる。「地方分権の時代に中央主導の研修は不要」とする日教組幹部の感覚とのズレは覆いがたい。
 文部省の調べでは日教組の昨年の組織率は三四・一%。中でも新任者の加入率は一九・二%で、八九年に全教との組織分裂があったとはいえ、六〇年(七八%)当時の四分の一にまで落ち込んでいる。
 若い世代をどう振り向かせるか。傘下の各単組にとって、これが今や最大のテーマの一つになりつつある。
 茨城県教組は、六、七年前から取り組んでいる新組合員の歓迎集会のイベントに、今年は地元のJリーグチーム「鹿島アントラーズ」の試合観戦を準備した。
 支部単位で演劇の上演や模擬店などで交流を図る「青年部フェスタ」の開催(福岡県教組)、漫画で活動内容を伝える勧誘パンフレットの作成(大阪府教組)といった動きも各地に広がり始めている。
 しかし、「イベントに参加しても組合に参加するとは限らない。今の若い世代はおいしいものは食べるけど、考え方はクール」(駒崎孝司・群馬県教組委員長)という声も漏れ、豊かな時代に育った若い教員とどう向き合うかで悩む組合の現状も見え隠れする。
 首都圏で教壇に立って一―三年目の二十代の教員らを対象に、日教組が九二年春に実施したアンケート調査がある。「加入したくない理由」に、若い教員が抱く日教組のイメージが端的に表れている。
 「ともかく面倒そう」「具体的メリットを感じない」「プライベートな時間がなくなりそう」「闘争的なところが嫌い」
 「主任制度」に対して「非常事態」まで宣言し、粉砕を訴えてから二十年。「初任者研修」への反対を打ち出してからはほぼ十年。日教組は、この春、「あなたがはじめる日教組【新時代】」のコピーを掲げたポスターを作った。四七年(昭和二十二)に発足して以降、「これほど若者を意識したポスターは初めて」(日教組・組織部)という。
 来月の定期大会に提案する一大方針転換。それは、文部省への歩み寄りであると同時に、次代を担う若い世代への熱いエールでもある。

 
 
 
 
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