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1987/03/08 読売新聞朝刊
[社説]様変わり入試が残した課題
 
 受験機会の複数化で、大きく様変わりした今年の国公立大学の入試戦線は、なおC日程グループの一部公立大学や定員留保の二次募集などが残されているが、中心となるA、B両グループの日程を消化して、ほぼヤマを越した。
 合否の判定に入った各大学は、二十日までに合格者を発表、合格者は二十五日までに入学手続きを終えることになっており、これからはダブル受験のダブル合格者がどのように流れるかが大きな焦点になってくる。
 合格者が他大学へどの程度流れるかの見積もりは、私立大学にしてみれば、例年の作業だが、初体験で不慣れな国公立大学がどのように対応するかによっては、四月の新学期直前まで補欠合格、追加募集などが続くといった混乱も招きかねない。
 このため、文部省は各大学に対して、初めから定員を超えた合格者を確保する、いわば“水増し合格の奨励”ともいうべき要請をしている。
 入試改革の初年度で、この作業が容易ではないことは理解できるが、結果的に定員割れとなるよりも、むしろ多少の定員超過を見越しての適切な対応が望ましいと思う。
 さて、今年の大学入試についての総括は、各大学の最終的な入学者の確定を待って判断するのが適当と考えるが、すでにA、B両日程を終えたところで、さまざまな問題が生じている。そこで、今後検討を要する現段階までの問題点に触れておきたい。
 まず第一には、二段階選抜によって、約十万人にも上る大量の足切りが出たこと。次には二次試験で見られたかなりの欠席率。そして東奔西走の強行日程、足切り対象者への受験料返還問題などがあげられる。
 大量の足切り問題は、さきにもこの社説で述べたことだが、重ねて緩和への努力を強く望みたい。
 受験機会が複数化すれば、競争率もそれにつれて上がるのは自明の理だ。従ってある程度の足切りはやむを得まい。採点をていねいにしたいという理由もわかるが、果たして足切りを実施した全大学が能力の限りを尽くしたかといえば、大いに疑問だ。
 二次試験でかなり高い欠席率が見られたのは、競争率の高さ、A、B両グループ間の日程がきつかったこと、そして同一グループ内の重複出願などのためだ。
 このうち、同一グループ内の出願は、必然的に一校はムダを承知の出願である。いわば模様眺めのうえ受験校を決めるわけだ。制度上認められていることだし、一概におかしな出願ともいいきれないが、複数受験の本来の趣旨を生かしたかたちとは少しちがうように思われる。
 二校とも足切りにあった不幸なケースとともに受験生の出願選択にも反省が残されたといえるだろう。
 A、B両日程の間には、もう一、二日でも余裕があった方がいいのではないだろうか。グループ分けの偏った部分の手直しなどとともに検討が必要だ。
 初めてづくしの様変わり入試、受験生の側はもちろん、大学側にも手さぐりの部分が多かった。受験機会の複数化のメリットを失わせかねないさまざまな課題が残された。来年度に向けて是正への努力を望む。

 
 
 
 
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