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2002/12/15 毎日新聞朝刊
[社説]全国学力テスト 「おおむね良好」と言うけれど
 
 「全体として、おおむね良好であった」
 今年1、2月、6〜8年ぶりに実施した小中学生の全国学力テストの結果について文部科学省は、そう評価している。しかし、いま一つ説得力に欠けるようだ。異なる姿が浮かんでくるデータもある。多角的な分析を求めたい。
 今回テストの対象となったのは小学校が5、6年生と、中学校が3学年の合わせて45万人である。人数は前回に比べ、2・8倍になっている。
 科目は小学校が国語、社会、算数、理科で、中学校はこれに英語を加えた5教科である。問題の約3分の1は、前回と同じ問題を出している。
 今回のテストは、規模が大きくなっただけでなく、「学力低下」を懸念する声が高まっているという新たな状況下で行われたところに特徴がある。今年4月からの完全5日制の実施と、小中学校で学習内容を約3割減らした新学習指導要領の導入により、懸念の声は一段と強くなっている。
 文科省は、「学力低下を裏付けるようなデータはない」と否定してきた。しかし今年1月、遠山敦子文科相が「学びのすすめ」を出すなど、70年代後半から進められてきた「ゆとり教育」に対する迷いや「ぶれ」もうかがえる。
 文科省が「おおむね良好」と結果を判断したのは、問題の難易度から事前に想定した正解率と比較してのこと。小学生の「延べ8教科」と中学生の「延べ15教科」のうち、中学1、2年生の理科、中学3年生の英語を除き、正解率は想定を上回っていたという。
 しかし、前回と同じ問題の正解の状況を比べると、文科省の判断に疑問がわいてくる。小中学生延べ23教科のうち、前回より上昇したものは3教科にとどまり、変化なしと、低下がそれぞれ10教科となっている。
 4割の教科が低下していながら、「おおむね良好」と受け止めるには違和感もある。
 今回のテストは、前回と同じ指導要領のもとで行われた。同じ条件下でなぜ下がったのか。特に、算数・数学や社会が低下した一方で、国語は良かったことをどう受け取ればいいのか。さらには、中学3年生の成績が比較的いいのはなぜかなど、「実力」に迫るには多角的な分析が必要だ。
 56年度から始まった全国規模の学力テストは、「学校の序列化につながる」という日教組などの反対や、行き過ぎたテスト対策を実施する県教委が現れた弊害で66年度に取りやめている。
 しかし、都道府県差や学校差を明らかにしない全国テストは、児童・生徒がどこまで理解しているのか、どこでつまずいているのかなどの学力の実態をつかみ、指導要領をどう見直していくかを考えるためにも必要なことだ。大きな改革となった新指導要領は、とりわけ綿密な検証を求めたい。
 学力の実態に迫るために継続してテストを行い、データを蓄積するとともに、より丁寧で厳密な分析を進め、役立ててほしい。


 
 
 
 
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