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1998/03/31 毎日新聞朝刊
[社説]教育の分権 しり込みしない挑戦こそ
 
 中央教育審議会が公表した中間報告は、都道府県や市町村の教育委員会、各学校が、地域の特色を生かし、創意工夫を凝らした取り組みを推進できるように、地方教育行政システム全体の見直しを求めた。
 日本の教育システムの特徴の一つは、国による統制が、極めて強いところにある。画一的で硬直的といわれるゆえんだ。しかし、これからの時代は、「生きる力」をはぐくむことを目指し、子供一人一人の個性を尊重した教育を展開することが重要になる。そのためには教育の地方分権が不可欠、との認識によるものだ。
 注目されるのは、中央統制の事実上の根拠になっている地方教育行政法の見直しを提言していることだ。
 教育行政は、戦前は国の事務とされ、国の指揮監督のもとで行われていた。戦後の教育改革で、教育の地方自治を保障するために創設された教育委員会に移る。教育委員は公選制で、「文部大臣は……指揮監督してはならない」(教育委員会法)ことになっていた。
 しかし、公選制が廃止され、教育委員会法に代わって、新たに地方教育行政法が制定された1956年を機に、大きく変わる。当時の与野党が激しく対立、乱闘国会で成立した同法は、文部大臣は教育行政のほとんどすべてにわたって「指導、助言するものとする」(48条)と明記。さらに「適正を欠き教育の本来の目的達成を阻害していると認めるときは、是正措置をとることができる」(52条)との規定も設けられた。
 この指導、助言は、本来法的拘束力はないとされる。しかし、現場では、強制力があると受け止められることが多かった。言われた通りやっていた方が責任を問われず無難という思惑もあって、現場では指示を待って対処する依存体質、横並び体質から抜け切れていないのが現実だ。 中間報告は「教育行政が対象とする生涯学習、学校教育などは、指揮監督による権力的な作用より、非権力的な作用によって、自主的・主体的活動を促進する必要がある」として、48条、52条の見直しを求めた。 さらに、都道府県教委と市町村教委の関係についても、同様の趣旨から見直しを求めた。また各学校が教委に対して自主性を確保できるように、校長の権限を強めることも提言している。
 いずれも妥当な方向だ。気になるのは、権限を移譲される側の教委や学校に、熱気が感じられないことである。長年の依存体質に加え、従来の経緯もあり、国が本当に分権に踏み込むのか半信半疑という思いもあるのかもしれない。
 確かに、中間報告でも、教育課程や学校設置基準など、国の事務として手放さない項目を、さしたる議論もなく固定化している。双方の境界のはっきりしないものも多い。
 しかし、それらは今後の議論次第という要素が大きい。関心の高い教育課程についても、中間報告は大綱化を改めて打ち出し、権力色の薄いカリキュラムセンターの設置を提言した。流れは分権にある。教委、学校の意欲と工夫によって相当のことができるということを、中教審が、法改正という裏付けを加えて、明確に示した意義は小さくない。
 自らの判断と責任でやれる範囲が広がるのだから、ここはチャンスである。学校も教委も、しり込みせずに、積極的に打って出てほしい。


 
 
 
 
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