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1998/01/31 毎日新聞朝刊
日教組・全国教研から 「子供の声が学校変える」――「いじめ」「校則」話したい
 
◇全体集会に平日を理由に出席阻まれた中高生、メロンで「管理」問う
 鹿児島県で22日から4日間開かれた日教組の第47次教育研究全国集会(全国教研)のテーマは、「子供の声を謙虚に聴くことから学校改革の論議を巻き起こそう」だった。初日の全体集会では、児童・生徒が「私たちからのメッセージ」を伝える試みが企画された。子供に運営のすべてを任せた「子どもフォーラム」も初めて行われた。子供たちは何を訴え、先生たちは何を考えたのか。現場から報告する。【福沢光一】
 突然25分間の「空白」が生じた。全国の先生たちが一堂に会した全体集会でのハプニングだった。
 空白の時間には、九州の中高校生5人がステージに立ち、小中高校生約20人が出演したビデオを流して、校則やいじめへの思いを訴えることになっていた。しかし、最後まで子供たちは現れなかった。代わってステージ上には、メロンとトマトが1個ずつ置かれていた。ビデオは流され、会場のスクリーンには子供たちの顔が映し出された。が、声は消されていた。
 事情を知らない全国の先生たちは子供が肉声で訴えるはずだった言葉をつづった台本に目を通しながら、無声ビデオを見つめた。
 「生徒が平日に学校を休んで教研集会に出ることに行政などの合意が得られなかった。出席できるよう必死に努力したのだが……」と日教組本部の上瀬雅美情宣部長は話す。数日前に、日教組関係者が生徒を交えて午前3時まで話し合い、決めたという。
 生徒たちは最終的には出席をあきらめたが、ビデオの音を消し、ステージ上にメロンとトマトを置く演出を考えた。それには学校で栽培しているメロンを盗んで食べると退学、トマトだと停学という九州のある高校の「校則」について問題提起したい、という意味が込められていた。
 
◇質実剛健だから、マフラーだめ!?
 「全体集会では残念ながら僕たちの声は無言のままアピールされたことになったが、今日は声を大にして言えるチャンスです」
 24日の「子どもフォーラム」で、司会者の大分の男子高生が呼び掛けた。約100人の中高校生が九州各県から鹿児島の会場に集まり、校則の実態やいじめ体験などを会場を埋めた200人以上の先生らに直接訴える企画だ。この日は第4土曜日で学校は休み。問題はなかった。
 会場には日教組の川上祐司委員長と文部省の河村潤子中学校課長も姿を見せ、席を並べた。
 生徒たちは校則の実態を自分たちの言葉で話した。ルーズソックス・マフラー禁止の校則に対し、「どこまでがルーズソックスか聞くと『それはルーズなソックスだ』としか言わない」「うちの学校は質実剛健だからマフラーは駄目」などという先生の「解答」を紹介すると、会場は失笑に包まれた。
 鹿児島の女子生徒は「私たちが校則の改正を訴えると先生は理由を聞くが、なぜこんな校則が必要なのかの説明はない」と訴えた。
 いじめ体験の告白も相次いだ。
 鹿児島の男子高生は中学時代、金を取られ、ゲームソフトを高値で売りつけられた。先生と相手と3人で話し合ったが、先生からは「お前も悪い」と言われた。ある女子生徒は日記を通じていじめを先生に伝えたら、「卑しい方法はやめなさい」としかられた。
 いじめ避難策として、転校を勧める女子生徒もいた。小学校時代いじめられ不登校となり、学区外の中学校に進んだ。「今の学校は楽しいけど、いじめられたことは心の中に残っていて思い出すのもいや。新しい学校でスタートするのが手っ取り早いと思う」
 子供たちの声は大人たちにどこまで届いたか。文部省の河村中学校課長は「時代が変われば校則は見直して良いと思う。いじめは絶対許さない」と感想を会場で述べた。ある男子生徒は「課長の意見は『なるほどな』と思ったが、それが学校で行われていない。学校で意見を言える場があるならば、わざわざ子供会議を開かない」と話した。
 
◇自治を学ぶ服装自由化
 校則やいじめなどの問題を議論する「自治的諸活動と生活指導」分科会では仙台市内の中学校の大木一彦教諭が、同校で今年度から実施した服装完全自由化について報告した。
 同校では、1994年度2学期から週1回土曜日「服装自由の日」を定めて以来、服装自由化を段階的に拡大していった。校則は、90年度以降、生徒の提出する校規改正案に基づいて、毎年少しずつ変わってきている。具体的にはヘアバンド着用、「服装自由の日」のかばん自由化などが認められた。大木教諭は「集団討議により、校規が変更されていくことを体験することが、自治、人権教育になる」と強調した。
 同分科会に出席していた福岡県弁護士会の八尋八郎弁護士は言った。「人間の服装や髪形を強制できる法律などどこにもない。もし文部省事務次官通達で学校現場が変わったら世間から笑われる。教員が意識を変えるだけでいい」
 生徒たちは先生と真剣に話し合う場を持ちたがっている。


 
 
 
 
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