1997/12/27 毎日新聞朝刊
97年・揺れた教育界/下 問われた教師の力量、現場の危機感増す
1997年は教育職員養成審議会、教育課程審議会、大学審議会などの答申、報告が相次いだ。一方、教師の体罰、保健室登校、校内暴力などショッキングな調査結果もあり、地方教育行政に関する中教審の議論が始まった。
■教員養成
「教員の資質向上」が期待されているが、教育職員養成審議会(蓮見音彦会長)が7月、第1次答申を出した。教員養成カリキュラムを教科偏重型から実践力重視型へ転換し、中学教員志望者の教育実習を2週間から4週間へ延長するなどの具体策を提起した。
いじめや不登校に悩む教育現場の危機意識を反映したもので、新カリキュラムは2000年4月入学の大学生から適用される。少子化で教員採用者が減少するなか、情熱的で個性豊かな人材をどう育成するのかが課題となる。
一方、96年度中に「わいせつ行為」が理由で何らかの処分を受けた公立の小中高校の教員は、過去最多の116人(うち監督責任での処分者50人)、「体罰」での処分者も過去最多の599人(同206人)に上ることが文部省調査で判明(11月20日)。教員のモラル低下も指摘された。
■保健室登校
登校しても教室に行かず、保健室で過ごす「保健室登校」の生徒が1年間に1人でもいた中学校が約6割に上ることが、9月発表の文部省(日本学校保健会に委託)調査で分かった。全国の公立小、中、高校での保健室登校の児童、生徒数は単純推計すると1年間に延べ2万8400人になる。
1週間での単純推計では、6年前の前回調査からほぼ倍増。
不登校(登校拒否)の増加が影響しているようで、養護教員の役割の大きさを印象付けた。
■地方分権
来年50周年を迎える教育委員会制度などを見直すため町村信孝文相は9月、第16期中央教育審議会に「今後の地方教育行政の在り方」を諮問。地方分権と規制緩和の観点から教委の活性化策や、学校運営について審議を求めた。
教育長任命承認制が廃止された後の教育長登用のルールづくり▽管理規則や予算面での教育委員会の権限を学校長に極力移し、リーダーシップの発揮を可能にする方策▽学校運営や教育行政へ民意を反映させ得る制度の導入――などが主な検討課題となる。
■スリム化
2003年度の完全学校週5日制導入に伴うカリキュラム改編を検討している教育課程審議会(三浦朱門会長)の「中間まとめ」が、11月に発表された。焦点の各教科別授業時間数の縮減案も示され、新学習指導要領の骨格が固まった。
主な内容は(1)小、中、高校とも新たに休みとなる土曜日分に当たる「週当たり2単位時間」の削減(2)情報化、国際化、環境などの新しい教育内容を学ぶ「総合的な学習の時間」を「週2単位時間以上」導入(3)中学、高校とも選択幅を拡大――など。各学校の裁量で時間割を編成できるよう教育課程の大綱化、弾力化を提起しており、各学校と教師の力量が問われそうだ。
また、各教科・科目別ごとの改定のポイントも盛り込まれた。思考力や表現力の育成を主眼に、小中高校別の厳選例を示した。
「覚えるのは得意だが、考えたり、表現するのは不得手」な子供たちの学力の「奥行きの乏しさ」は、文部省が12年ぶりに実施した「新学力テスト」結果でも顕著で、主体的学力の育成がポイントとなる。
■大学改革
大学審議会の答申が12月提出された。(1)専門学校の卒業者に大学編入学資格を認める(2)通信制大学院(修士課程)の開設(3)マルチメディアを活用したテレビ会議式の「遠隔授業」を認める(4)大学に必要な校地面積の基準を現在の半分に緩和する――などが柱。生涯学習時代を踏まえ、多くの人々が高等教育に触れる機会を得られるように求めた提言だ。
これに先立つ10月、大学審議会に10年ぶりの包括的諮問があった。テーマは「21世紀の大学像と今後の改革方策」。18歳人口が減少する中で進学率は上昇し、今年度は47・3%と過去最高を更新し、同世代の半数が大学・短大に進む。大学生の質の低下も含めた「大学の大衆化」の検証が求められた。
具体的には、大学院の拡充と学部規模の縮小に向けた定員枠の在り方や国公私立大の役割分担、政府の行政改革会議の独立行政法人(エージェンシー)化論議で問われた国立大学の人事、会計面での改革などが検討課題となる。
■校内暴力
96年度に全国の公立の中学、高校で把握された校内暴力が10年連続して増加し、過去最高の前年度を2544件上回り合計1万575件に達したことが12月、文部省の「生徒指導の諸問題調査」で分かった。特に対教師暴力と器物損壊の増加が目立つ。
発生件数は調査開始時の83年度(4315件)前後の「荒れる学校」時代をも上回り、中学が8169件、高校が2406件。形態では生徒間暴力が最も多く、器物損壊は前年度に比べ中学で41・3%増、高校で55・8%増。対教師暴力は中学で48・2%増で、ストレスが短絡的な行動に結び付く傾向が気がかりだ。
一方、いじめは小、中、高校とも前年度より減少して合計で8552件減の5万1544件となった。【城島徹】
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