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1997/08/02 毎日新聞朝刊
[社説]教員養成 いい先生を社会の支援で
 
 教育職員養成審議会の第1次答申のねらいは、いじめや不登校などの問題に対応できる、情熱的で個性豊かな若者が教師になれるシステムにしようということだ。そのための手段として、大学での教員養成カリキュラム改革と、社会人が教壇に立てる特別非常勤制度の充実など教員免許制度の弾力化を提言した。
 カリキュラム改革では、画一的な現状を改め、個性の伸長が進められるように大幅に弾力化。各大学が主体的に編成を工夫できるようにしたのが特徴だ。また、専門分野の知識のための「教科科目」よりも、教え方や子供との触れ合いを学ぶ「教職科目」に比重を置くよう転換。さらに、ボランティア体験、自然体験などの重視を大学側に注文した。
 こうした改革の方向は、基本的には妥当と思う。教育が困難な状況にある今、求められるのは触れ合いの中で、子供たちの「生きる力」をはぐくむことのできる教師である。大学の段階で、いくらかでも、そうした力量を身に着けることができるようなカリキュラムを目指そうという答申の意図は、理解できる。
 ただ、決して簡単ではない。個性や情熱より、知識の量の多い者や記憶力の良い者が合格しやすい試験になっているのは、教員採用に限ったことではなく、教育システム全体に通じる問題であるからだ。そうした中で、意欲のある個性豊かな若者を教員に、と求めても、果たして、大学側にそれに答えるだけの力があるのか、それができる環境にあるのか、不安な要素の方が多い。
 大学側の積極的な取り組みを期待したいが、それを支えるためにも、さまざまなバックアップが欠かせない。教育実習期間の延長や、介護体験は、行政や学校、福祉の現場の協力が不可欠だ。また、教職科目を増やすのはいいにしても、それを卒業要件の単位に組み入れられない現状のままでは、一般大学での教職免許取得が困難になる。答申は、大学の判断により組み入れ可能としたが、こうした配慮も必要なことだ。
 さらに、教師の置かれている現状の改革も急ぎたい。
 神戸市の小学生殺傷事件で、にわかに「心の教育」が言われ出したが、1クラス40人もの思春期の子供に、「心の教育」ができるだろうか。今、子供の数が減り、欧米並みの少人数学級に近づけるチャンスなのだが、現実には、文部省の教員定数改善計画にすら待ったがかかり、財政改革のもと、大幅削減が大きな流れになっている。教員採用者がごく少数のまま推移したのでは、学校によっては若い先生がいなくなるなど、深刻な影響が出てくる。
 さらに、それでなくても忙しい教師に、会議や研究指定、報告書作りなどを強いる教育行政の管理体制も見直されるべきだ。いくらカリキュラム改革を進め、個性的な教師を育てても、こうした環境に組み入れられたのでは、力を発揮しにくい。
 英国で戦後最大といわれる教育改革を主導したサッチャー元首相の回顧録に、「結局、改革を実践するのは、政治家ではなく、教師なのである」というくだりがある。サッチャリズムの評価は別としても、この点については、異議はないのではないだろうか。いい先生を数多く生み出し、その先生が力を発揮する環境を作る努力をしなければ、実のある教育改革にはならない。


 
 
 
 
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