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1993/01/11 毎日新聞朝刊
「いけない差別」「共に生きる」 エイズ教育、中高生たちは――日教組の教研集会
 
◇教師には抵抗感も… 初の実践報告へ
 若い世代にもエイズ感染が広がる中で、エイズ教育の実践記録が十日から始まった日教組の教研集会で報告される。文部省は昨年高校生向けの教材を配布し、来年度には中学生向け教材の作成も予定するなど、取り組みも本格化しているが、性教育の経験に乏しい現場では「どうしたらいいのか」と戸惑いも多い。教研集会でエイズ教育をテーマにしたリポートが提出されるのは初めてで、古い意識を引きずりがちな教師たちの反応が注目される。
 エイズ教育のリポートが報告されるのは「保健・体育」「家庭科教育」「女子教育」などの分科会。
 広島県の村上恭子教諭は、患者・感染者との「共生」をテーマに高校二年生の女子を対象にした保健の授業に関するリポートを提出した。異性間のセックスで感染した男性と、妻へのインタビューを中心にした毎日新聞の記事やニューヨーク市作製の予防ビデオから、エイズという病気の実像、感染経路、患者・感染者や家族の気持ちなどを高校生に考えさせた四時間構成の授業で、ガラス製の模型にかぶせたコンドームを生徒に回して、感染防止教育も行った。
 授業後、生徒は感想文で「感染者は私たち以上に一生懸命生きようとしているのだから、私たちも一緒に生きなくてはいけない」「私はエイズ患者の人といっぱい話をして心の支えになってあげたい」と感染者に共感。「正しい知識を持てばエイズはこわくないと思った。お母さんにも教えてあげようと思った」などと記した。
 村上教諭は「初めは、自分が感染しないための質問が多かったが、授業を重ねるうち関心が感染者とのかかわり方に向き、自分が学んだことを家族にも教え、家庭からエイズ教育をしていこうという機運すら感じた」と記述している。
 また、福岡県の光安新次教諭は、中学校の保健の授業でバルセロナ五輪にも出場したプロバスケットの英雄、マジック・ジョンソン選手が引退に追い込まれたことから、感染者への差別の問題を取り上げた。血友病の治療に使った血液製剤から感染し、学校へ来ることを拒まれた米国の少年の話を聞いた生徒は「病気との闘いでなく、差別との闘いが一番苦しいことだと知った」「自分も感染するかもしれないから、絶対に感染した人たちを軽べつしない」などと感想文に書いた。
 エイズ予防を性教育の中に位置づけ、中学校理科での八時間の実践教育の成果をリポートしたのは、東京都の山中智子教諭。授業ではあらかじめ生徒が教室の後ろの黒板に性に関する質問を書き、これに必ず答えることにした。並行して男女の体の違いや出産、異性を愛することなどを取り上げた。
 避妊の授業ではコンドームの実物で正しい使い方を説明。公開授業を参観した保護者や他の教員と討論もしたが、生徒よりも教員に抵抗感が強く、性教育の必要性は認めながらも自分ではしり込みする人が多かったという。
 
◇予防を強調しすぎると
 横浜市性教育研究会顧問、渡辺信一さんの話 現場では予防教育が問題になるだろう。しかし、性教育が未熟な日本の現場で、予防を強調しすぎると「性とは何か」の最も大切な問題が置き去りにされる。
 
◇自立教育こそ必要
 “人間と性”教育研究所所長、山本直英さんの話 気になるのは、教育現場以外から十代の性行為そのものの管理を強めようとすることだ。性教育は自分で判断する自立教育でなければならない。


 
 
 
 
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