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1997年7月号 正論
三十六年ぶりに公表された中曽根康弘「憲法私案」全文
 
序および高度民主主義民定憲法草案
中曽根康弘(なかそね やすひろ)(元首相)
 
 中曽根康弘氏の首相公選論はよく知られている。しかし、そのベースとなる氏の憲法私案を知る人はごく少ない。氏は、青年将校と呼ばれていた三十代から四十代にかけて憲法を本格的に研究し草案づくりに取り組んだ。昭和36年(1961年)1月1日付でまとめた「高度民主主義民定憲法草案」、いわゆる「中曽根憲法私案」は未定稿として長く発表されなかった。その詳しい経緯については、別項の編集長インタビューをご覧いただきたい。いずれにしろ36年ぶりに公表された中曽根私案は斬新かつユニークな項目も多く、これからの憲法論議に刺激的な一石を投じることは間違いなかろう。
 
 未定稿
 昭和三十六年一月一日
 高度民主主義民定憲法草案
 衆議院議員 中曽根康弘
 
 日本の政界においては、政変の度に次の総理大臣をきめるために大騒動を繰り返して、政治の空白が一ヵ月位続くのを常とする。岸内閣交替の場合もそうであるし、前の鳩山内閣、吉田内閣、芦田内閣の場合においても同様である。しかも通例この政変は、与党たる自民党内部における勢力交替という現象によって起こるのであるが、勢力交替は、党内派閥間における反逆あるいは連合という現象を通じて起こるので、派閥間の恩愛怨恨は長くあとを引き、それが政治の円滑な運営に常に障害となっている。党内において総裁を公選する場合においても、それは必ず重大なしこりを党内に残すと同時に、公選における第一回投票の第一位が必ずしも決選において一位として残ることなく、商議に成功した連合勢力がこれを圧倒しているのが例である。
 このようなことは、必ずしも民主主義の好ましい姿とはいえない。このような政変の前後には国政の機能は停止し、官僚はサボタージュし、恐るべき損害を国家国民は蒙っているのである。このような状態下に、国民は又常に後継首相の決定をめぐる派閥や政党間のかけひきを切歯扼腕して凝視しているのである。それというのも、首相の地位が国民の手の届かない場所において、国民の意識とはかけはなれた利害打算のうちに、談合の対象となっている場合が多いからだ。このような度々の政変において、国民の期待とは異なった首相が取引のうちに出現する場合が起こる。このような政変の姿は現憲法下では毎回起こりうるのである。それは、現在の議院内閣制が、日本において充分に機能を発揮しえない状態にあるからだ。そこで、これを打開する抜本策として、私は、首相の国民投票制を提唱したいのである。
 第一に、現在の日本の議院内閣制は、次の時代を切り開く原動力である科学と労働を中軸にする長期計画の推進力となっていなっていない。このことは、米国とソ連が、その政治体制は異なるとしても、いずれも大統領、首相の地位が全人民的基礎の上に直接立って、安定した政局下に強力に三ヵ年計画や五ヵ年計画の長期国策を断行しつつ国力発展のバックボーンとなって他国を遥かに引き離しているのに比べるとはっきりする。第二次大戦後の世界において、米ソが遥かに他国を引き離して優勝戦を競っている原因はここにあるのだ。
 由来、日本のような議院内閣制は、十九世紀英国の自由放任主義と予定調和の哲学に基づいており、資本主義順風満帆の時代、海外植民地からは膨大な収入が入り、階級対立も激化していない当時の英国では、充分適用できた。国富をもち、伝統と常識の国の英国の現実をみると、なおこの議院内閣制があてはまる余地がある。しかし日本の現実に果して通用するかどうか。労働と資本、老人と青年、都市と農村、大企業と中小企業等との間には深刻な背離関係が存在している。これらの利害は、政党内部にそのまま持ち込まれ、政党や更に国会の内部において乱反射し合い、この複雑な渦巻の中に、政党の総裁あるいは首相たるものは、党内の派閥の間を調整し、党を一本化するために全精力を使い、あるいは又国会が開会になれば国会乗り切りに全エネルギーをついやして、知力、体力を消耗し、国策を行なう余力は殆んどないといってよい。しかもこの議院内閣制は、本来政権争奪の制度なのである。
 したがって、政局は常に党内派閥間のバランスの上に立ち、噴火山上において踊っている。予算は各派闘の間でむしりとられ、神武景気のような好景気がくると思えば、たちまちデフレの淵に沈み、最大の被害者は常に農民や中小企業者であり弱い勤労者である。又、圧力団体の影響が大であることも周知の事実である。このことは、必然的に度々解散を誘発する。その解散は、国策を国民に問うということよりも、党内における他の派閥征服のための解散が多い。
 このような状態では、長期計画の推進による国力発展など到底期待されない。解散の前後少くとも二ヵ月は政治の空白があるので、四ヵ月間は国の前進は停止することになる。戦後十四年間で七回の解散があったが、そうすると二十八ヵ月の国の歩みの停止があったわけである。すなわち二年四ヵ月の政治の空白があったことになる。これに対し、アメリカは国民の直接選挙による大統領制で、任期四年、平均二回当選するから在任八年、三ヵ年計画は三回繰り返すことができる。ソ連においては、権力的強制により、スターリンもフルシチョフも任期はその葬式まで続く。そして五ヵ年計画を既に数回操り返している。このような国々が飛躍的に前進し、日本やイギリスやイタリー、フランスのような国が追い付けない原因はここに明らかであろう。
 第二に、積極的に首相の国民投票制を主張する根拠として、マスコミの驚異的な発達をあげることができる。テレビ、ラジオ、新聞の普及により、国民は直ちに政治の動向を知ることができる。現在の選挙制度は大正十四年の普通選挙より発するが、当時はラジオもテレビもなく、地方では新聞が二日遅れるという時代で、代議士に首相を選ばせる理由があった。しかし、今日では国民は市町村会議員よりも、岸(信介)、大野(伴睦)、河野(一郎)、池田(勇人)といった中央政治家のほうをはるかによく知っている。
 国民はこれらの政治家の良し悪しを皮膚で感じとる。その感覚は平凡ではあっても多数集まれば正しいものである。現在の議院内閣制においては、議院のプールは十九世紀にイギリスにおいて予想されたように、必ずしもしかく清浄なものではない。ややもすれば濁り、ボウフラがわいているのである。そして国民の心のごとく国会議員が動くものとは必ずしも保証されていない。それはあまりにも国民からくる乱反射や選挙区における圧力が大きいからである。したがって、国民の感覚と国会の感覚とは全く別のものであることもある。このことがおいおいひどくなれば、必ずファッショや暴力革命主義を誘発する。ドイツにおけるヒットラー出現の前夜がそうであったし、最近までのフランスはこの病状が著しく、かくてドゴールの出現によりフランスの病気は治癒しつつあるのである。
 もし国民が直接国民投票によって首相を選ぶならば、選ばれた首相は派閥の思惑や利害とは無縁に、常に政治と大衆の心のギャップを埋めて政治を安定させ、象徴天皇のもとに民主主義をたくましく前進させる力となりえよう。
 また、近来におけるマスコミや交通機関の発達は、指導者の直接投票を行なったギリシャのアテネやスパルタのような都市国家と同じ大きさに政治的に日本をしているのである。ソクラテスやアリストテレスが演説して廻った範囲は、歩いて二時間の範囲であった。今我々は東京から北海道まで、あるいは九州までいずれも飛行機では二時間の範囲である。テレビやラジオを使えば、その瞬間に主張や思想は伝達される。九百万人の東京都民が都知事を直接選んでいるのに、九千万人の国民が首相を直接選べないということはありえないはずだ。
 もちろん、国民投票制には首相の独裁化の恐れがあるとか、反対党が多数党になった場合、政治の運営に支障をきたすといったいろいろな批判があることは十分承知している。しかし、それを計算してもなお首相の国民投票制はわが国にとって意義あることだと思う。特に、全体主義体制の下に驀進する中共に対抗してゆく点から、果して現在のような体制でよいものであろうか。首相の独裁化を防ぐためには、その任期を四年とし、たとえば三選を禁止し、国会議員の任期を四年にして解散をなくし、議員は辞任する場合以外には大臣になれぬこととし、一方、国会の権限を強化するなど、方策は十分あろう。とにかく、この国民投票による首相の直接選挙によって、閣僚は、首相が国の各方面から人材を集めることができる。議員からも任命する場合は本人が辞職をすればなれるのであるから、人材の簡抜も可能であろう。農業界や労働界や中小企業界からも、国会議員でなくとも縦横に人材を引き抜くことができる。そのことは内閣を更に国民に密着させ、国民的内閣の成立を促進する。
 最後に、いまの制度の首相の下で、いざ国難という場合、自衛隊は喜んでその命令に服するであろうか。戦前においては、軍隊の最高指揮権(統帥権)は天皇にあった。現在においてはそれは首相にある。が、自分の妻や親たちが勝っても負けても自分とともに直接選んだ首相のもとでなら、自衛隊員も責任を感じ、勇気を持つ。戦前の天皇制では、天皇の伝統的権威により国民は無条件で防衛に任じた。しかし、派閥の利害を背景に、国民と遊離した首相が出たとき、無条件に命令に服するだろうか。また、政党政治が堕落したり、一党の専制的状態が出現すると、軍隊は政党やその総裁勢力の私兵化する危険性はないか。憲法改正の基本的な問題は第九条にあるのではなく、むしろ、この点にあることを認識する必要がある。首相の国民投票制は普選からさらに民主主義を前進させる現代的高度民主主義の制度である。
 
高度民主主義民定憲法草案
日本国憲法
勅語
前文
第一章 日本国及び天皇
第二章 国民の地位及び国家の責務
第三章 国会
第四章 内閣
第五章 憲法評議会
第六章 司法
第七章 財政
第八章 防衛
第九章 地方自治
第十章 改正
第十一章 補則
 
勅語
 朕は、日本国憲法第九十六条により、国会が、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で議決して発議した改正案が、国民投票において過半数をえたことをよろこび、ここにこれを公布する。
 
前文
 わが国日本は、主権が国民に存する民主主義共同体である。日本国のすべての国権は、その源を国民に発するものであつて、国民の信託に基づいて、その代表者を通じ、国民の幸福を目的として行使される。
 国民は、ひとしく人間としての尊厳を保障されるとともに、共同体の一員としての責務を負担する。
 日本国は、世界の恒久平和を念願する。科学の発達は、人類に偉大な恩恵をもたらすが、倫理がこれに伴わないときは、人類の文明に恐るべき危機を招く。今や、世界の諸国民は、共同してその恩恵を確保し、その惨禍を防止する責任をわかつものである。このために、われらは、世界の諸国民が友愛と信義のもとに平和に共存すべき新しい時代に入りつつあることを自覚し、諸国民とともに従来の偏狭な国家主義の観念を克服し、国際民主主義の諸原理を着実に確立しつつ、究極的には、国家間の一体的な平和的秩序を樹立することを目標とし、特に戦争の禁止及び軍備の完全な国際管理を達成するため、世界の諸国民と誠実に協力することを誓う。
 われらは、長期に亘り、独立の民族として、固有の文化と歴史を形成し、運命をともにしてきた。民族の存立の基礎は、その伝統と新しい創造に対する共同の自覚と自治にある。われらは、この見地に立って世界の新しい平和的秩序を希求するとともに、わが日本国の輝かしい文化と歴史の形成を決意し、ここに、大日本帝国憲法及び日本国憲法の歴史的意義を想起しつつ、その経験を生かして、新時代にふさわしいわが日本国の根本規範として、すべての国民の名で、この憲法を確定する。
 
第一章 日本国及び天皇
 
(日本国の基本的性格)
第一条 日本国は、天皇を国民統合の中心とし、その主権が国民にある民主主義国家である。
(天皇の地位)
第二条 天皇は、日本国の元首であり、日本国を代表する。
(皇位の継承)
第三条 皇位は、皇統にある者が、皇室典範の定めるところにより継承する。
 2 皇室典範は、法律で定める。
(天皇の行為)
第四条 天皇の国務に関する行為は、この憲法の定めるものに限る。
 2 天皇の行為には、内閣の助言を必要とする。内閣は、天皇の行為について責任を負う。
 3 天皇の行為に関する文書には、内閣首相が、内閣を代表して副署する。
(天皇の権能)
第五条 天皇は、国民の選挙に基づいて内閣首相及び内閣副首相を任命し、内閣首相の指名に基づいて内閣委員を任命する。
 2 天皇は、内閣首相の申出に基づいて内閣委員を解任する。
第六条 天皇は、参議院の指名に基づいて、最高裁判所長官その他の最高裁判所裁判官及び会計検査院長を任命する。
第七条 天皇は、この憲法の定めるところに従い、憲法評議会委員を任命する。
第八条 天皇は、内閣の指名に基づいて法律の定める公務員を任命し、内閣の申出に基づいてこれを解任する。
第九条 天皇は、憲法改正、法律、政令及び条約を公布する。
第十条 天皇は、内閣の決定に基づいて次の行為を行なう。
 一 国会を召集すること。
 二 内閣首相及び内閣副首相の公選の施行を公布すること。
 三 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公布すること。
 四 条約の批准、外交使節に対する全権の委任、大使及び公使に対する信任その他法律の定める外交関係の意思表示をすること。
 五 外国の外交使節を接受すること。
 六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を行なうこと。
 七 文化及び芸術の奨励助長を行なうこと。
 八 栄典を授与すること。
 九 儀式を行なうこと。
 十 自衛力の発動につき、この憲法の定めるところにより国際法上の宣言を発すること。
(摂政)
第十一条 摂政を置く場合は、皇室典範の定めるところによる。
 2 摂政は、天皇の名で、その国務に関する行為を行なう。
 
第二章 国民の地位及び国家の責務
 
(国民の要件)
第十二条 日本国の国民たる要件は、法律で定める。
(基本的人権)
第十三条 国民の基本的人権は、尊重する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。
(自由、権利の限界)
第十四条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。また、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを使用する責任を負う。
(個人の尊重と公共の福祉)
第十五条 すべての国民は個人として尊重される。公共の福祉に反しない限り、生命及び自由に対する国民の権利を保障することは、国の義務である。
(法のもとの平等)
第十六条 すべての国民は、法のもとに平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
 2 貴族制度は、認めない。
(公務員の選定及び解任の権、公務員の本質、普通選挙の保障、秘密投票の保障)
第十七条 公務員を選定し、及びこれを解任することは、国民固有の権利である。
 2 すべての公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
 3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
 4 すべての選挙における投票の秘密は、侵してはならない。選挙人は、その選挙に関し公的にも私的にも責任を問われない。
(請願権)
第十八条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令、条例又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人もかかる請願をしたために、いかなる差別待遇も受けない。
(国及び公共団体の賠償責任)
第十九条 何人も、公務員の不法行為によつて損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
(思想及び良心の自由)
第二十条 思想及び良心の自由は、侵してはならない。
(信教の自由)
第二十一条 信教の自由は、何人に対しても保障する。いかなる宗教団体も、国家から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
 2 何人も、宗教上の行為、儀式又は行事に参加すること、又はしないことを強制されることはない。
 3 国及びその機関は、宗教教育その他一切の宗教的活動をしてはならない。
 4 公金その他の公の財産は、宗教上の組織の維持又は便宜のために支出し、又は提供してはならない。
(集会、結社、表現の自由、通信の秘密)
第二十二条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
 2 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
(居住、移転、職業選択の自由)
第二十三条 何人も、居住、移転、職業選択の自由を侵されない。
(学問の自由)
第二十四条 学問の自由は、保障する。
(婚姻における個人の尊重と両性の平等)
第二十五条 婚姻は、両性の合意のみによつて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力によつて維持されなければならない。
 2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊重と両性の平等に立脚して、制定されなければならない。
(家族生活の保護)
第二十六条 国は、家族生活が社会の倫理的発展の健全な基礎となるように、これを保護する義務を負う。
(生存権、国の社会的使命)
第二十七条 すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
 2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(教育を受ける権利、教育の義務、最高教育の保障
第二十八条 すべての国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
 2 すべての国民は、法律の定めるところにより、その保護する子供に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、無償とする。
 3 国は、法律の定めるところにより、国民がその能力を有する限り、最高の学校教育を受けることができるように措置しなければならない。
(教育の目標)
第二十九条 教育は、真理と正義を愛し、世界平和のための国際協力の理念並びにわが国の歴史と伝統を正しく尊重し、かつ、自主的で責任感をもつ創造的な国民を育成することを目標とする。
 2 国は、学校教育が常に政治的中立を保つように努めなければならない。
(年少者、不具者の養護)
第三十条 すべての国民は、その子供が、心身の健全な成長を遂げるように、これを保護し、養育する権利を有し、義務を負う。
 2 国は、児童及び不具者について、その養育及び保護が正しく行なわれるように意を用い、酷使その他不幸な状態に置かれることのないように努めなければならない。
(科学技術の助長)
第三十一条 国は、科学と技術の進歩が、文化の発展と福祉の増進の基本的条件であることに留意し、その育成助長に努めなければならない。
(文化財の保護)
第三十二条 国は、学芸の業績、歴史的遺跡、考古学的遺物及び風景その他この国土に特有の自然物の保存に努めなければならない。
(勤労の権利及び義務)
第三十三条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
 2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律で定める。
(勤労者の団結権)
第三十四条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動の権利は、保障する。
 2 公務員及び公務員に準ずる者については、法律の定める範囲内で前項の権利を保障するものとする。
(順法の義務)
第三十五条 すべての国民は、憲法その他の法令を順守しなければならない。
(防衛義務)
第三十六条 すべての国民は、国を防衛する義務を負う。
(財産権)
第三十七条 財産権は、侵してはならない。
 2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律で定める。
 3 私有財産は、正当な補償をして、公共のために用いることができる。
(国民経済の基調)
第三十八条 国は、企業がその種類及び規模に応じ、それぞれ国民経済の発達に寄与するように、調和ある発達を図らなければならない。また、国は、国民経済について、急激な変動を避け、長期的安定を目途として、その発達を図るものとし、かつ、すべての国民の福祉の増進を目的として、自由かつ公正な事業活動の基礎の上に、富の公正な分配が行なわれるように努めなければならない。
(中小企業の保護)
第三十九条 国は、商業、工業、農業、漁業その他の産業における中小の企業が、国民経済の重要な基盤であることを認め、その自主的運営を確保するとともに、技術的改善の助長等により、その地位を安定するようにしなければならない。
(納税の義務)
第四十条 すべての国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
(生命の不可侵及び強制労働の禁止)
第四十一条 何人も、犯罪に対する処罰のためにする場合を除いては、生命を奪われることがなく、また犯罪に対する処罰又は裁判所の裁判による保安処分のためにする場合を除いては、強制労働に服させられることはない。
(法定の手続の保障)
第四十二条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。
(裁判を受ける権利)
第四十三条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。
(罪刑法定主義及び二重処罰の禁止)
第四十四条 何人も、行為前に施行されている法律で、これに対する処罰を定めている場合のほかは、その行為について刑罰を科せられることはない。
 2 何人も、すでに裁判によつて無罪とされた行為について、改めて刑罰を科せられることなく、また、同一の行為について重ねて刑罰を科せられることはない。
(刑罰における人道主義)
第四十五条 刑罰は、人道に反する方法によつて苦痛を与えるものであつてはならない。
(人身の保護、公務員の権利濫用の禁止)
第四十六条 何人も、正当な理由がなくて人身を拘束されたと認める場合には、裁判又は第四十八条に規定する令状による拘束の場合を除いては、すみやかに自己及び弁護人の出席する公開の法廷でその理由を審査され、かつ、正当な理由のないことが明らかになつたときは、裁判所の命令によつて救済を与えられる権利を有する。
 2 人身の拘束は、いかなる場合においても、人間の尊厳を傷つけるような方法で行なつてはならない。
 3 公務員が権利の濫用によつて国民を圧迫することは、いかなる場合にも禁止する。
(人身拘束の際の理由の告知及び弁護の保障)
第四十七条 何人も、官憲によつて人身を拘束された場合には、直ちにその理由を告げられ、かつ、直ちに弁護人を依頼する機会を与えられる権利を有する。
(人身拘束の際の令状の保障)
第四十八条 何人も、現行犯の場合を除いては、司法官憲があらかじめ正当な理由に基づいて発する令状によらなければ、刑事手続のために人身を拘束されることはない。
(住居の不可侵)
第四十九条 何人も、現行犯人又は前条の令状にかかる者の逮捕に当つて必要な処分として行なわれるものを除いては、裁判官があらかじめ正当な理由に基づいて発し、かつ、捜査する場所及び押収する物を明示する令状によらなければ、その住居、身体又は書類その他の所持品について刑事手続のための侵入、捜査又は押収を受けることはない。
 2 捜査又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により行なう。
(刑事被告人の権利)
第五十条 すべて刑事被告人は、公正な裁判所のすみやかな公開裁判を受ける権利を有する。刑事被告人を罪人として扱うことは、許されない。
 2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を十分に与えられ、また、公費で自己のために、強制的手続により証人を求める権利を有する。
 3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼できないときは、国がこれを附する。
(自己に不利益な供述、自白の証拠能力)
第五十一条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
 2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。
 3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられることはない。
(裁判に関する国家補償)
第五十二条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
(裁判の処理)
第五十三条 裁判所は、裁判を迅速かつ適確に行なうように努めなければならない。最高裁判所は、毎年一回、裁判事務の進捗状況を国会に報告しなければならない。
 
第三章 国会
 
(立法権)
第五十四条 立法権は、国会に属する。
(両院制)
第五十五条 国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。
(衆議院の組織)
第五十六条 衆議院は、各選挙区から選挙され、全国民を代表する議員で組織する。
 2 衆議院議員の被選挙権を有する者は、年齢満二十五年以上の者とする。
 3 衆議院議員の任期は、四年とする。
(参議院の組織)
第五十七条 参議院は、広域別に比例代表制により選挙される議員及び推薦制により選任される議員で組織する。
 2 広域別に選挙される議員の定数は、参議院議員の定員の五分の四以上とし、法律で定める。
 3 内閣首相及び両議院の議長で構成する参議院議員推薦会議は、法律の定めるところにより、特定数の参議院議員を推薦によつて選任する。
 4 参議院議員の被選挙権を有する者は、年齢満三十年以上の者とする。推薦によつて選任される議員の被選任権についても、同様とする。
 5 参議院議員の任期は六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
(議員及び選挙人の資格、選挙に関する事項)
第五十八条 この憲法に定めるもののほか、両議院の議員及び選挙人の資格は、法律で定める。ただし、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別をしてはならない。
 2 選挙区、議員の定数、投票の方法その他議員の選挙に関する事項は、法律で定める。
(両議院議員兼職の禁止)
第五十九条 何人も、同時に両議院の議員となることができない。
(両議院議員の宣誓)
第六十条 両議院の議員は、その就任の際に、次に掲げる宣誓をしなければ、議席につくことができない。
「私は、全国民の代表であることを自覚し、日本国憲法を守り、良心に従つて、世界の平和を守りつつ、もつぱら国民全体の幸福と公共の利益を目標として職務を行なうことを誓う。」
(議員の歳費)
第六十一条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
(議員の不逮捕特権)
第六十二条 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
(議員の発言、表決の無責任)
第六十三条 両議院の議員は、議院で行なった演説又は表決について、院外で責任を問われない。
(常会)
第六十四条 国会の常会は、毎年一回召集する。
(臨時会)
第六十五条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
(資格争訟の裁判)
第六十六条 両議院は、おのおのその議員の資格に関する争訟を裁判する。ただし、議員の議席を失わせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
(定足数、表決)
第六十七条 両議院は、おのおのその総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
 2 両議院の議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
(会議の公開、会議録、表記の記載)
第六十八条 両議院の会議は、公開とする。ただし、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
 2 両議院は、おのおのその会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、かつ、一般に頒布しなければならない。
 3 出席議員の五分の一以上の要求があるときは、各議院の表決における賛否の氏名は、会議録に記載しなければならない。
(役員の選任、議院規則、懲罰)
第六十九条 両議院は、おのおのその議長その他の役員を選任する。
 2 両議院は、おのおのその会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、また、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。ただし、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
(法律案の議決、法律案議決に関する衆議院の優越、内閣首相の再議権)
第七十条 法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
 2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、両議院の可決があったものとみなす。
 3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
 4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会の休会中の期間を除いて五十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
 5 両議院を通過した法律案について同意しがたいときは、内閣首相は、その送付を受けた日から国会の閉会中の期間を除いて十日以内に、理由を示して、これを再議に付することができる。両議院が、それぞれ出席議員の三分の二以上の多数で再び同じ議決をしたときは、その議決は、確定する。
(衆議院の予算先議、予算議決に関する衆議院の優越)
第七十一条 予算は、先に衆議院に提出しなければならない。
 2 予算について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取った後、国会の休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
(条約承認に関する衆議院の優越、自衛力発動宣言、外交使節選任に関する参議院の権能)
第七十二条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
 2 自衛力の発動について、国際法上の宣言を発するには、国会の承認を経なければならない。
 3 大使、公使、その他法律で定める外交使節の任命については、予め参議院の同意を経なければならない。
(閣僚の議院への出席)
第七十三条 内閣首相、内閣副首相又は内閣委員は、議案について発言するため議院に出席することを申し出ることができる。また、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
(国政調査、行政査察)
第七十四条 両議院は、おのおの国政に関する調査を行なうことができる。
 2 両議院は、国政に関する調査のため必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を求めることができる。
 3 両議院は、行政の非能率、国費の濫費、国民に対する不親切等について、査察を行なうことができる。
(質問)
第七十五条 行政上の情報を得るため、両議院の議員は、いつでも内閣首相、内閣副首相又は内閣委員に対し、質問を行なうことができる。
(弾劾裁判所)
第七十六条 国会は、解任の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
 2 弾劾に関する事項は、法律で定める。
 
第四章 内閣及び内閣首相
 
(行政権)
第七十七条 行政権は、内閣に属する。
(組織)
第七十八条 内閣は、この憲法及び法律の定めるところにより、内閣首相、内閣副首相及び内閣委員で組織する。
(内閣首相及び内閣副首相の選挙)
第七十九条 現に職にある内閣首相の任期の満了前二十日以上五十日以内において、衆議院議員の総選挙と同じ日に選挙を行ない、各政党の指名する内閣首相及び内閣副首相の候補者について選挙人が投票し、法律の定めるところによりそれぞれ過半数を得たものについて、天皇が任命する。
 2 内閣首相及び内閣副首相の任期は四年とし、連続再選されることはできない。
 3 出生によつて日本国民たる者で、年齢満三十五年に達した者は、内閣首相及び内閣副首相の候補者になることができる。
 4 現役の軍人及び退職後三年を経過しない元軍人は、内閣首相又は内閣副首相の候補者となることができない。
 5 この憲法に定めるもののほか、選挙人の資格その他選挙に関し必要な事項は、法律の定めるところによる。
(内閣首相の宣誓)
第八十条 内閣首相は、その職務を開始する前に、次に掲げる宣誓を行なわなければならない。
「私は内閣首相の職務を忠実に遂行し、日本国憲法を守り、全力をつくして国際平和と国民の福祉の増進に努力することを誓う。」
(内閣首相及び内閣副首相の報酬)
第八十一条 内閣首相及び内閣副首相は、その勤務に対して定期に報酬を受ける。その額は、その任期の間、増減されることはない。
(内閣首相、内閣副首相及び内閣委員の兼職禁止)
第八十二条 内閣首相、内閣副首相及び内閣委員は、国会議員その他いかなる官職をも兼ねることができない。
 2 内閣首相、内閣副首相及び内閣委員は、営利を目的とする私企業に従事し、又は自ら営んではならない。
 3 内閣首相、内閣副首相及び内閣委員は、報酬を得て、前項の営利企業以外の事業に従事してはならない。
(内閣首相の権限)
第八十三条 内閣首相は、内閣を代表して予算、条約その他の議案を国会に提出する。
 2 内閣首相は、必要があると認めるときは、法律案の発議について国会に勧告することができる。
 3 内閣首相は、少なくとも毎年一回、国政の状況について国会に報国しなければならない。
(内閣首相の解職の請求及び投票)
第八十四条 内閣首相の選挙権を有する者は、法律の定めるところにより、その総数の三分の一以上の者の連署を以て、その代表者から、憲法評議会に対し、内閣首相の解職の請求をすることができる。
 2 前項の請求があつたときは、憲法評議会は、これを選挙人の投票に付さなければならない。
 3 内閣首相は、前項の規定による投票において、過半数の同意があつたときはその職を失う。
(内閣首相の職務代行)
第八十五条 内閣首相が、この憲法及びその他の法律の定めるところにより、免職され、死亡し、若しくは辞職し、又はその権限及び義務を遂行する能力を失つた場合には、その職務権限は、その残任期間、内閣副首相がこれを行なう。
 2 内閣首相及び内閣副首相がともに欠け、又は無能力となつた場合には、法律の定める公務員が、内閣首相の職務を行なう。この公務員は、内閣首相又は内閣副首相の無能力の状態がなくなり、又は内閣首相が選任されるまで、その職務を行なう。
(内閣首相及び内閣副首相の不逮捕、不訴追の権)
第八十六条 内閣首相及び内閣副首相は、その在任中、逮捕され、又は訴追されることはない。
(内閣委員の任命及び解任)
第八十七条 内閣委員は、内閣首相の指名に基づいて、天皇が任命する。
 2 現役の軍人及び退職後三年を経過しない元軍人は、内閣委員になることができない。
 3 内閣委員は、内閣首相の申出に基づいて、天皇が解任する。
(内閣の行なう行政事務)
第八十八条 内閣は、一般行政事務のほか、左の事務を行なう。
 一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
 二 予算を作成して国会に提出すること。
 三 外交関係を処理すること。
 四 条約を締結すること。ただし、事前に、事宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
 五 法律の定める基準に従い、公務員に関する事務を掌理すること。
 六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
 七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。ただし、事前に参議院の承認を経なければならない。
(緊急政令、財政処分)
第八十九条 天災地変その他異常な事態によつて大規模な社会的混乱が起こり、そのため公共の危害を生じ、又は急迫の危害を避ける必要がある場合において、国会が開かれていないときは、内閣は、憲法評議会の議決を経て、臨時に法律に代わる政令を発し、又は臨時に財政上必要な処分をすることができる。
 2 前項の規定による政令又は財政上の処分は、その承認を得るため、二箇月以内に召集される国会に付議しなければならない。
 3 第一項の規定による政令は、国会でこれを承認しない旨の議決があつたとき、又は国会の議決がされないままでその施行後三箇月を経過したときは、将来に向かつてその効力を失う。
(非常事態の宣言)
第九十条 前条の場合において、自衛軍の力によらなければ、公共の危害を避けることができないと認められる事情があるときは、内閣首相は、国会、又は国会を開くことができないときは憲法評議会の議決を経て、地域及び期間を定め、非常事態の宣言を発することができる。
 2 内閣首相は、前項の規定により非常事態の宣言を発したときは、その承認を得るため、事後においてすみやかにこれを国会に付議しなければならない。国会でこれを承認しない旨の議決があつたときは、この宣言は、将来に向かつてその効力を失う。
 3 非常事態中における行政事務は、法律の定めるところにより、必要やむを得ない範囲のものに限り、自衛軍によつて行なわれる。
 4 非常事態にかかる地域については、やむを得ない事情のある場合に限り、住居の安全、居住、移転、国籍の離脱、集会、結社及び表現の自由、勤労者の利益擁護権、私有財産の保護、人身拘束の令状の保障並びに侵入、捜査及び押収の際の令状の保障の規定にかかわらず、法律で、これらの規定と異なる定めをすることができる。
 5 前四項に規定するもののほか、非常事態の宣言に関し必要な事項は、法律で定める。
(非常時における議員任期の延長)
第九十一条 衆議院議員又は参議院議員の任期満了の際に、天災地変その他異常な事態による大規模な社会的混乱があつて、選挙を行なうことが困難と認められる事情があるときは、内閣首相は、憲法評議会の決議に基づいて、議員の任期を一定期間延長することができる。
(法律、政令の署名)
第九十二条 法律及び政令には、すべて主任の内閣委員が署名し、内閣首相が連署することを必要とする。
 
第五章 憲法評議会
 
(憲法評議会の構成)
第九十三条 現に職にある両議院の議長及びかつて内閣首相の地位に在つた者は、当然に憲法評議会の委員となる。
 2 前項の委員のほか、衆議院議長、参議院議長は、それぞれ三名の委員を指名し、天皇が任命する。この六名の委員の任期は六年とし、三年ごとに二分の一を改選し、再選されることができない。
 3 憲法評議会の議長は、委員が互選する。憲法評議会は、五名以上の委員の出席がなければ、議事を開き議決をすることができない。議事は、出席委員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
(委員の兼職禁止)
第九十四条 前条第二項による憲法評議会の委員の職は、内閣首相、内閣副首相、内閣委員又は国会議員及び法律の定めるその他の職と兼ねることができない。
(憲法評議会の権限)
第九十五条 憲法評議会は、内閣首相及び内閣副首相の選挙の適法性を監視し、その結果を発表する。
 2 憲法評議会は、法律の定めるところにより、前項の選挙に関する異議について審査する。
 3 憲法評議会は、法律の定めるところにより、国民投票の執行の適法性を監視し、その結果を発表する。
第九十六条 法律又は条約がこの憲法に違反する疑があるときは、内閣首相、いずれかの議院の議長又は五十人以上の議員は、法律については公布前、条約についてはその発効前に、当該の法律又は条約がこの憲法に違反するかどうかの裁定を、憲法評議会に要求することができる。
 2 前項の場合において、憲法評議会は、要求の日から一箇月以内に裁定しなければならない。ただし、緊急の必要があるときは、政府の要求に基づき、当該期間を八日とすることができる。
 3 第一項の要求があつた場合には、当該の法律又は条約が、この憲法に違反しない旨の憲法評議会の裁定があるまでは、これを公布し、又は発効させてはならない。
 
第六章 司法
 
(司法権、裁判所、特別裁判所の禁止、裁判官の独立)
第九十七条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
 2 特別裁判所は、設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行なうことができない。
 3 すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行ない、この憲法及び法律にのみ拘束される。
(最高裁判所の規則制定権)
第九十八条 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
 2 検察官は、最高裁判官の定める規則に従わなければならない。
 3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
(裁判官の身分の保障)
第九十九条 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務をとることができないと決定された場合を除いては、公けの弾劾によらなければ解任されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関が行なうことはできない。
(最高裁判所の裁判官、定年、報酬)
第百条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官で構成する。
 2 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
 3 最高栽判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、減額することができない。
(下級裁判所の裁判官、任期、定年、報酬)
第百一条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣が任命する。この裁判官の任期は十年とし、再任されることができる。ただし、法律の定める年齢に達した時には退官する。
 2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、減額することができない。
(裁判の公開)
第百二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷で行なう。
 2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公けの秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決定した場合には、対審は、公開しないで行なうことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第二章で保障する国民の権利が問題となつている事件の対審は、常に公開しなければならない。
 
第七章 財政
 
(財政処理の基本原則)
第百三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、行使しなければならない。
(課税)
第百四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
(国費の支出及び国の債務負担)
第百五条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする。
(予算)
第百六条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
(予備費)
第百七条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
 2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
(皇室財産、皇室の費用)
第百八条 すべての皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。
(決算検査、会計検査院)
第百九条 国の歳入算出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
 2 会計検査院の組織及び権限は、法律で定める。
(財政状況の報告)
第百十条 内閣は、国会に対し、定期に、少なくとも毎年一回、国家の財政状況について報告しなければならない。
 
第八章 防衛
 
(国際平和機構に対する協力)
第百十一条 国は、平和を維持するため、国際的な相互集団安全保障制度に参加することができる。国は、平和で永続的な秩序を世界諸国にもたらし、かつ保障するような主権の制限に、他国とともに同意することができる。
(戦争の禁止)
第百十二条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久に禁止する。
(自衛軍の性格と任務)
第百十三条 自衛軍は、国の安全と独立を確保し、及び国際平和機構に協力するため必要最小限度の戦力を保持する。
 2 自衛軍の編成及び配備は、法律で定める。
 3 自衛軍は、侵略に対する防衛又は国際平和機構に協力する場合にのみ軍事行動をとるものとする。
(自衛軍の最高指揮権)
第百十四条 自衛軍の最高指揮権は、内閣首相に属する。
(自衛軍の人事)
第百十五条 法律の定める自衛軍幹部の選任については、あらかじめ参議院の同意を得なければならない。
(自衛軍の出動)
第百十六条 内閣首相が、侵略に対し国の安全と独立を防衛し又は国際平和機構に協力するため、自衛軍に出動を命ずる場合には、国会の、国会の閉会中は憲法評議会の承認を得なければならない。
 2 内閣首相は、国会の閉会中に、憲法評議会の承認を得て自衛軍に出動を命じた場合には、すみやかに国会を召集して、その承認を求めなければならない。この場合において、不承認の議決があつたときは、内閣首相は、直ちに自衛軍の撤収を命じなければならない。
(軍人の地位)
第百十七条 軍人については、軍隊の規律を保ち、その任務を遂行するに必要な限度において、第二章の規定の適用を排除することができる。
 2 軍人については、第九十七条第二項の規定にかかわらず、法律の定めるところにより、特別裁判所を設けることができる。
 
第九章 地方自治
 
(地方自治の基本原則)
第百十八条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める。
(地方公共団体の機関、その直接選挙)
第百十九条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
 2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接選挙する。
(地方公共団体の権能)
第百二十条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
(特別法の住民投票)
第百二十一条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民投票において、その過半数の同意を得なければ、国会は、制定することができない。
 
第十章 改正
 
(改正の手続)
第百二十二条 この憲法の改正は、各議院の総議員の五分の三以上の賛成によるか、又は選挙人の三分の一以上の連署によつて発議され、国民投票に付して、その過半数の賛成による承認を経なければならない。
(改正の公布)
第百二十三条 憲法改正について前条の承認を得たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体をなすものとして、直ちにこれを公布する。
 
第十一章 補則
 
(施行期日、準備手続)
第百二十四条 この憲法は、公布の日から起算して六箇月を経過した日から、施行する。
 2 この憲法を施行するために、必要な法律の制定、参議院議員の選挙、憲法評議会委員の指名並びにこの憲法を施行するために必要な準備手続は、前項の期日より前にも、行なうことができる。
 
中曽 根康弘(なかそね やすひろ)
1918年生まれ。
東京大学法学部卒業。
元衆議院議員、元首相・自民党総裁。


 
 
 
 
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