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1993/02/20 毎日新聞朝刊
[思うぞんぶん]憲法論 時代遅れ、抜本改正を
大前研一(平成維新の会代表)
 
◇9条偏重論議は危険
 ――大前さんは五年前から憲法改正の必要性を言っている。最近の百家争鳴の憲法論議をどう見ますか。
 大前研一氏 危険な出方ですね。国際貢献を言いながらPKO(国連平和維持活動)をPKF(国連平和維持軍)に持っていこうとする手段のような流れがある。「世界」「日本」「国家」というものがここ数年で非常に変わってきている。国家運営の理念を考えようと憲法を語るのならいいが、やっぱり九条中心になっていて、従来の護憲・改憲の論議の域を出ていない。
 ――平成維新の会では憲法をゼロベースで見直そうと言ってますね。
 大前氏 現行憲法には国家と個人の関係はあっても、世界観がなく、コミュニティー、家族、会社への記述もほとんどない。会社ひとつとっても、いまは国内だけでなく世界に広がって、外国からも入って来ているのに。憲法の体系そのものが大きな問題を抱えているということだ。さらに、国家運営の仕掛けが明治憲法のままで中央集権の非常に強い機構になっているのに、一方ではアメリカ人がアメリカ流の「地方自治」「個人の権利」などの言葉をまぶして、リップサービスをしている。ものすごい矛盾があるわけだ。
 ――九条は。
 大前氏 九条は世界観さえあれば自動的に出てくる問題。際限なき拡大解釈をやめ、自衛隊を軍隊と定義したうえで、シビリアン・コントロールの仕掛けを厳密に明文化する。国家による安全保障体制の独占は危険なので、将来的には世界の信頼できる国々と共同運営で安全保障を図るべきだと思う。いまの日本政府のように国連中心の平和外交をいうのであれば、まず国連というものをはっきりと位置付け、国連改革をやらなければならないのだが、日本ではほとんど議論されていない。それなしに九条をいじることは極めて危険であり、反対する。
 ――平成維新の憲法改正。どう実現させますか。
 大前氏 マジョリティーを取ることが運動論のすべて。その過程でいちばん望みたいのは国民が政治にもっと参加するということで、そうすれば政治は必ずよくなる。これまでは実質的に選択肢が自民党だけで不毛だったが、いまは自民党が、早い話が羽田派が出ていったらマジョリティーを取れず、存立さえ危うくなりつつある。そういう意味でいちばんいい時期にさしかかっている。
 ――日本人には憲法に対して、タブーに触れたくないという心情もあるようですが。
 大前氏 日本人が憲法をタブー視するのは、これでよしという健全な思いというより、極楽トンボみたいな無責任さではないか。憲法を読んだことのない人が大半でしょう。女性たちにしても、憲法について黙っているのが不思議でしようがない。いまの憲法は女性について、だんなはあまり妻をいじめてはいけないとだけしか書いてない。女性たちはなぜ、時代遅れの憲法を直せと言わないのか、と思う。
 ――宮沢首相の現状維持的な憲法観について。
 大前氏 危険。九条という一個の文章に対する解釈を四十年間で一八〇度変えてしまう国は、どんな約束をしても危なくて、世界から信頼されない。少なくとも西欧のロゴスの国を相手にする時は、書いてある通りに守るというルールに立脚しないと、絶対に危険。憲法に足りない点があれば、直すべきだ。それが世界から受け入れられるかどうかは、近隣友好国と話し合い、われわれは憲法をこう変えます、異論があれば言って下さいと、その作業に参加してもらえばいい。
 
◇新しい世界観での幅広い論議を提唱
 大胆な憲法改正論を主張、自民党だけでない広がりを見せる憲法論議の火付け役になった大前氏だが、論議の現況を「九条に偏っていて危険」と、一線を画していることは注目される。その一方で「ハト派」といわれる宮沢喜一首相の憲法観をも、こそくな姿勢として「絶対に危険」と批判した。いっさいのタブーをはずし、新しい時代の世界観をしっかりと持ったうえで、抜本的に幅広く論議しようと大前氏は主張しているのだ。
 
◇大前 研一(おおまえ けんいち)
1943年生まれ。
東京工大大学院、米マサチューセッツ工科大大学院修了。工学博士。
(株)日立製作所原子力開発部入社、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インクを経て、現在、ビジネス・ブレークスルー代表、経営コンサルタント、カリフォルニア大ロサンゼルス校大学院教授。


 
 
 
 
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