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2002/11/02 産経新聞東京朝刊
衆院憲法調査会 中間報告の要旨
 
◆調査の進め方
 五年の調査期間は必要▽論憲は三年。四年目に各党が改正の要綱を提出して討論、五年目から改正への予備運動を始めるべきだ▽各条文について(1)明文改憲すべき部分(2)法律を憲法の精神に合うように改める部分(3)憲法解釈を改めるべき部分−に分けて調査すべきだ▽疑義のある文言や表現をできるだけ詰める作業をすべきだ。
 
◆憲法制定経緯
 現行憲法は日本が民主的に未成熟で、主権がない状態で作られた。無効か暫定的と考えるべきで、自分たちでもう一度作り直すべきだ▽連合国軍総司令部(GHQ)による「押しつけ」かどうかは生産的な議論ではない▽日本が主権を回復してから憲法を改正しなかったことは一種の追認▽吉田茂首相は憲法制定議会答弁でも自衛権発動としての戦争も放棄したことを明言。
 
◆総論的事項
 憲法が時代の変化に対応できず、安全保障、私学助成などで憲法と現実との乖離(かいり)が存在▽九六条の改正手続きのハードルが高く、憲法改正の足かせ▽憲法規定には解釈の余地があり、ほかの解釈を許さないものではない▽解釈の多用は憲法本来の安定性を減じることになりかねず▽各国では時代の変化や要請に従い憲法は適宜改正。昭和二十二年から一度も改正されていないのは国会の怠慢▽憲法が古いのでなく、政府が時代に合った政策を講じなかったのが原因で、現時点で改憲の必要はない。
 
◆前文
 英語から翻訳したため日本語として不自然で意味不明瞭(ふめいりょう)な個所が多い。解釈に幅ができ、誇りを持てない原因▽日本の歴史や文化の尊重、継承や、日本の国家精神、伝統を明記すべきだ▽「国際社会において名誉ある地位を占めたいと思う」は美しい言葉だが、条文にどう定義しているのか明確でない。
 
◆天皇制
 天皇制廃止はわが国の国民性から現実的ではない▽日本独自の制度で、天皇に関する規定は比較的よく整備されている▽平等の視点から、天皇制の廃止・存続を視野に入れた議論が必要▽象徴天皇として、はっきり元首と規定されていないので明確にすべきだ▽主権在民とのかかわりで天皇、天皇制をどう位置付けるかを議論すべきだ▽主権在民の原則と矛盾する。
 
◆安全保障および国際協力
 1 安全保障、九条解釈
 日本の安全保障政策が理解されるよう安全保障に関する理念、基本的枠組みを憲法に明記すべきだ▽解釈をめぐり神学論争が生じるような九条の文言をそのままにしておくべきではない▽九条の解釈を裁判所や内閣法制局に委ねるのでなく、国会が十分な議論を尽くした上で解釈し、必要なら改正論議をすべきだ。
 2 平和主義、非核三原則
 恒久平和主義は国連憲章を前進させたもの▽戦力の不保持は先駆的な内容▽平和主義とは一国平和主義でよいのかという問題が提起されている▽非核三原則は日本が自制心として自らに与えた原理▽唯一の被爆国であるとともに平和主義の国家理念を掲げる日本は核廃絶を憲法に明記し、世界に宣言すべきだ。
 3 自衛権、自衛隊
 自衛権保持の解釈が分かれている以上、明確にすべく憲法を改正すべきだ▽集団的自衛権は自然権であることから「集団的自衛権を有するが行使はできない」とする政府解釈は妥当ではない▽集団的自衛権の行使は解釈で対応するのではなく、憲法に明記すべきだ▽集団的自衛権の行使は憲法が想定していない▽自衛隊の存在、責務を憲法に明記すべきだ。
 4 日米安保体制
 日米安保条約は片務的▽日本は日米同盟を重視しつつも米国から独立した存在であるべきだ▽日米安保条約の下で経済的発展を遂げた。今後もその枠組みで防衛施策を講じる必要がある▽九条の精神に沿って日米安保条約を解消し軍縮の道を進むべきだ▽日米安保条約を双務的に転換することは違憲▽外国軍隊の駐留を認めない規定を設けるべきだ。
 5 国際協力
 日本が恒久的な世界平和のため主導権を発揮することに重大な足かせが憲法に存在▽海外での軍事活動参加は憲法上認められないが、国連の加盟国としての責務を果たせるよう憲法を改正すべきだ▽自衛隊が多国籍軍に参加できるか検討すべきだ▽国連中心主義を外交の基本政策とする以上、国連平和維持活動(PKO)に全面的に協力することを憲法に明記すべきだ。
 
◆基本的人権
 一、憲法上の義務など
 国民の義務や責任の規定が甘い▽憲法は国民が国家権力の行使に限界を設けるものであり、義務の記述は不十分ではない▽国民およびわが国に居住するすべての人々の個人の尊厳を守るものでなければ、憲法は責任を果たすことにならない▽国籍を有しない者の国政関与は好ましくない。
 一、新しい人権など
 情報公開請求権、プライバシー権、環境権の明文規定を設けるべきだ▽プライバシー権などは明文規定こそないが憲法に含まれ、改憲の口実▽婚姻、離婚、男女平等に関する事柄を明文化すべきだ▽家庭の規定を設け、国が家庭を尊重し保護する旨を定めるべきだ▽犯罪被害者の権利を守る視点が欠けている。
 
◆政治部門
 一、国会と内閣の関係
 迅速なリーダーシップ発揮の実現には議院内閣制では限界があり、首相公選制導入が必要▽議会内で候補者を決め、国民に判断してもらう方法もある▽天皇制との関係が問題となり、議院内閣制の運用で対応可能なことを考えると必要ない▽マスコミを通して政治家が評価されている現状を考えると、ポピュリズムにつながる恐れがある▽「明日の内閣」のようなものを制度化し、野党時代から政権を担った場合に行政官を指導する力をつけるべきだ▽国民投票制度など直接民主制を日本の政治システムに組み込むべきだ▽新税導入など中長期的な観点から必要な施策について国民投票を行った場合、適切な判断がされない。
 一、国会
 衆院を予算、法律審議に、参院は決算の審査に特化するなど明確に役割分担し、二院制のチェック機能を抜本的に強化すべきだ▽一票の格差は憲法上の要請として一対一に近づけるべきだ▽選挙権の十八歳への引き下げを早急に行うべきだ▽衆院議員と参院議員の被選挙権で五歳の年齢差を設けているのはあまり意味がない▽現在の内閣法では
 首相の位置付けや機能が明確になっておらず、首相の指導性や総合調整機能が弱すぎる。
 
◆裁判制度
 憲法秩序や法治主義がまっとうに行われるために憲法裁判所なり憲法の審査院があった方がいい▽裁判所の事件の係属件数は膨大で、独立した憲法裁判所で憲法問題が専門的に扱われることが望ましい▽現在の違憲審査制度を活用すれば足りる▽憲法裁判所を創設しても有効に機能するかどうか疑問▽最高裁に憲法裁判を専門に扱う憲法裁判部を設ける案は積極的に検討すべきだ。
 
◆財政
 私学や社会福祉事業は政治や行政からある程度距離を置いて積極的に行うべきだというのが八九条の精神。公的助成は憲法違反でない▽私学に対する公的助成が解釈上、合憲とされている八九条は、それに即した条文改正が必要▽公の支配に属さないことが私立学校の生命で、私立学校への公金支出は憲法違反。
 
◆地方自治
 自治体と国が対等との原則および自治体の課税自主権を憲法に明記すべきだ▽地方分権を進める上で憲法改正は必要なく、法律で十分対応できる▽道州制を導入し、無駄のない国の統治構造をつくるべきだ▽財政危機、社会構造の変化に対応するには合併推進が必要▽地方にすべての税・財源を移譲すると、自治体間の格差が拡大する恐れがある▽住民投票は地方に関する事項に限定されるべきで、安全保障など国全体に関する事項は国会で審議すべきだ。
 
◆憲法改正
 改正手続きのハードルを下げ、必要な時に迅速に改正できるようにしておくべきだ▽改正は両院議員の過半数の賛成で良いのではないか▽国民投票は国民主権の原則を体現したもので、要件緩和は現行憲法の原則を踏みにじりかねない▽国会に憲法問題常任委員会を設け、十年に一度くらい憲法の在り方をチェックし、見直しを図れるようにすべきだ。


 
 
 
 
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