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1999/05/03 産経新聞東京朝刊
【主張】憲法記念日 「改憲」機運の高まりに期待 新世紀の国家像形成のために
 
 新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に基づく周辺事態安全確保法などの関連法案が、この国会でようやく成立する見通しだ。日米同盟関係の維持、日本や東アジアの平和と安全の確保といった観点から、早期成立が望ましいのはいうまでもない。しかし、この法案には首をかしげざるを得ない部分も少なくない。
 周辺事態法の趣旨は、日本周辺で日本の安全を脅かすおそれのある事態が発生した場合、戦闘地域と一線を画した後方地域において、米軍に対する物資の補給などの支援を行うというものだ。ところが、近くで戦闘行為が始まったら、支援活動を中止するという条項(第六条)が盛り込まれているのである。
 すぐそばで米軍が日本のために戦っているのに、これを見捨てて撤収する。そうした局面が現実に起きたとしたら、米側はどんな反応を示すか。米国民の対日感情が一気に悪化するであろうことは、容易に想像できる。展開によっては、日米同盟関係の瓦解も懸念される事態になりかねないのだ。
 なぜ、こうした法案になってしまったのか。いうまでもなく、集団的自衛権の行使を現憲法は容認していないとする政府解釈のためだ。
 
◆集団的自衛権に風穴を
 同盟関係にある国が武力攻撃を受けた場合、自国への攻撃と同様に反撃することを認めた集団的自衛権は、国連憲章五一条や日米安保条約前文に明文化されているように、国家の「固有の権利」である。だが、日本だけは「憲法九条」によって「権利を保有してはいるが、行使は認められない」という特殊な国なのである。
 集団的自衛権に風穴を開ければ、周辺事態法に盛られたような不可解な問題は一挙に解決し、“あたりまえの国”としての対応が可能になる。憲法解釈を変更するか、新たな解釈を打ち出すか、もしくは、憲法そのものの改正に踏み込むか。ガイドライン関連法案は、そうした重い課題を改めて提起したと受け止めるべきであろう。
 さいわい、憲法をめぐる政治・社会状況は、議論すらタブー視されていたころとは様変わりしている。
 国会での論議の場「憲法調査会」の創設についても、野党のうち民主、公明両党が基本的には賛成している。反対しているのは、社民、共産両党だけで、設置決定まで時間の問題となった。法案審査が可能な当初の常任委員会構想からは後退したが、とにもかくにも国会に憲法論議の常設機関ができることは、遅きに失したとはいえ、歓迎すべきである。
 
◆少数派に転落した護憲派
 産経新聞の世論調査によれば、憲法を改正すべきだとする回答は五割近くに達し、改正すべきでないとする人の二倍以上だ。国会の憲法調査会設置も、三分の二が賛成している。
 憲法論議の盛り上がりは、二十一世紀を目前に、この国をどういう姿にしていくべきかという「国家像の選択」と結びついているといっていい。日本再生、構造改革、国際貢献といったテーマを追求していくと、戦後憲法体制そのものが行き詰まっている現実にぶつからざるを得ないからである。
 それは、「九条」に限ったものではない。産経新聞調査では、どこを改正すべきと考えるかという設問に、九条と並んで、「国会」をあげた回答が多かった。衆院のカーボンコピーといわれる参院の改革、そもそも二院制が必要なのかどうか−といった論議が、国民の政治不信解消のためにも求められている。
 情報公開、知る権利、プライバシーの権利、環境権、国防の義務、首相の継承順位、私学助成、地方自治、国旗・国歌規定など、憲法にからんで議論を深めるべき課題は枚挙にいとまがない。
 深刻な社会問題化している教育の荒廃も、「公」の無視−「私」の専横といった、戦後憲法体制に起因すると思われる精神的背景が重要な要因になってはいないか。
 むろん、平和主義、国民主権、基本的人権という現憲法の理念を重視していくことには、基本的に異存はない。しかし、現憲法を維持していけば日本の行き詰まり状況も乗り切れると考えている人たちがいるとすれば、「護憲」に呪縛され、しなやかな対応力を失った「守旧派」と呼ぶしかない。そのことに多くの国民が気づいてきたからこそ、護憲派が少数派に転落したわけで、当然の帰結といえよう。
 憲法では改正手続きについて、国会の三分の二の賛成で発議し、国民投票で過半数の賛成が必要としている。だが、この国民投票をどういうかたちで行うかを規定する法律はできていないのだ。これは政治の怠慢という以外にない。新しい世紀に向けて、手をつけなくてはならないことが山積しているのである。


 
 
 
 
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