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1997/02/19 産経新聞朝刊
【教科書が教えない歴史】(230)日本国憲法(14)
 
 「一九六〇年、日本では日米安全保障条約(安保条約)の改定をめぐって、新条約は日本をアメリカのおこす戦争にまきこむおそれがあるとして反対運動が盛り上がった」(中学校教科書より)
 安保条約は日米間の軍事同盟です。旧条約は、日本が占領から独立したサンフランシスコ講和条約と同時に一九五一年(昭和二十六年)に結ばれました。
 日本は新憲法で再軍備が禁止されていました。自国を守る防衛体制がなくては独立国家とはいえませんから、独立にあたって日本の安全保障をどうするかは大きな問題でした。しかも当時、すでに東西冷戦状態は顕著になってきていました。日本を仮想敵国とする中ソ同盟条約が結ばれ、朝鮮戦争の砲煙(ほうえん)が残っている状況で、この問題は切実でした。そこで吉田茂内閣はアメリカ政府と相談し、米軍が引き続き日本を守ることを取り決め条約を結んだのです。
 ところが、最初の条約は、米軍が日本に基地を持ち、外国から武力攻撃があったときそれを自由に使用する権利がある等とする一方、日本の安全を守る義務が明記されていない不平等な内容でした。つまり、日本はアメリカの保護国扱いだったのです。それでも、この条約は自由主義陣営の一員という戦後日本の進路を決定づけたものでした。
 さて、教科書にある一九六〇年(昭和三十五年)の改定は旧条約の不平等性を解消することが目的でした。
 この改定は一九五七年に首相になった自由民主党の岸信介=写真=が推進しました。岸は「占領政策の歪(ゆが)みを是正し、安保条約を対等なものにし、日本を自主独立の国家にしないと『独立』は完成しない」と考えていました。
 そこで岸は、首相就任直後に訪米し、アイゼンハワー大統領に沖縄・小笠原の返還とともに、安保条約の改定を申し入れました。そして、その後の交渉で旧条約の大幅な改定にこぎつけました。
 新条約の主な内容は次のようなものでした。(1)防衛の相互義務付け(2)極東(きょくとう)の平和と安全の維持のため日本に米軍基地をおく(3)経済協力の促進。
 これに対し、日本社会党や労働組合の連合体である総評は「新安保は相互防衛を義務づけているので戦争に巻き込まれる。平和憲法の精神を守れ」として反発し、反対運動を展開しました。しかし、改定を阻止するには至りませんでした。
 憲法のきまりは一国内にしか及びません。たしかに、日本国憲法は平和主義をうたっています。しかし、それは国際社会にはおよびません。国際社会では、起こってはならない事態に備えて、各国間で相互に軍事同盟をむすび平和と安全を維持するのが常識です。ですから、社会党や総評の主張は根本的に間違っていたといっても言い過ぎではないでしょう。戦後五十年、日本の平和を守ったのは憲法九条ではなく、安保条約だったのです。
 ところで、新条約はアメリカに日本防衛の義務を負わせ、平等化に成功したように見えます。しかし、詳しく見るとそうではありません。新条約によると、アメリカは日本領土を防衛し、日本はアメリカ領土ではなく、日本にある米軍基地を防衛するという奇妙な相互防衛条約です。これは憲法九条の制約があるため領空・領海外に海外派兵できないからです。
 日米関係が真に対等になったとき、国際社会は日本を自主独立の国と見てくれるでしょう。


 
 
 
 
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