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1957/08/15 産経時事朝刊
船足重い憲法調査会 自民の“悲願”に学者対抗
 
 憲法調査会法施行以来一年二か月会長人選になやみ、社会党にソッポをむかれ、やっと日の目を見た憲法調査会は十三、十四の両日その第一回会合を開いたが会議は自民党側委員と学識経験者グループとの対立で最初から難航、今後ともこの対立が底流として続きそうである。会議が難航した第一の理由は蝋山政道委員の話にもあるように、この会の生立ちの奇形児的(ママ)な弱さにあった。社会党委員の不参加と、憲法改正すれば直ちに再軍備につながるという国民多数の不安な気持を背景にして、委員に選ばれた学識経験者の多くは一、二の例外を除いて反自民党的な立場をはっきりとあらわした。社会党が参加していれば、このグループは自、社両党の調整役でもっと是々非々の立場にまわれたかも知れないが、自民党の対抗馬がないために超党派的立場を意識しながらも自然と反自民党的な形をとることとなった。この動きは初日の会長選出に先立って、茅誠司、中川善之助両委員長らがまず社会党へ参加を呼びかけるべきだと主張したことにも現われたし、●小委員会による会長推●の際にもはっきりした。この空気を察してか、学識経験者グループではあるが、政府、自民党から強く会長にと要望されていた慶大教授潮田江次氏は第一日午前中は欠席し、会長には政府、自民党の期待に反して穏健良識派の高柳賢三氏が学識グループのスポークスマン的立場で選ばれた。これは高柳氏自体も全然予想しないことだった。
 会長選出の後、会議の議事規則や運営方法についての審議に入ったが、これは今後の調査会の性格を決定するものだけにさらに激しく紛糾し、冷房装置もなく三十数度を越す首相官邸会議室の熱気も忘れての舌戦が展開された。調査会事務局としては初日で議事規則まで決定するハラづもりであったが、二日目をすぎても問題点は未解決のまま終った。議事規則のうちもっとも論議の対象となったのは憲法調査会が憲法についての関係諸問題を調査審議し、その結果を内閣及び国会に報告するに際して審議結果を多数決の形で表決し、結論を一本にしぼって報告するか、または多数、少数両意見とも並べて報告し、あとは国民の批判に待つかという点であった。前者は自民党、緑風会委員および学識経験者一部の強硬改憲論者が主張し、その他の委員は後者を支持した。
 自民党委員側が多数決を主張するのはもちろんこの会の審議結果が改憲論と憲法擁護論、あるいはもっと具体的に改憲再軍備論と反対論に別れた場合、数を頼んで(自民、緑風委員合せて二十名、その他十九名)表決にもちこみ「憲法改正はかくて必要である。これが憲法調査会としての意思である」と声高々と国民に発表することにある。そしてこれこそ自民党が数年も前から憲法調査会の制定を急ぎ、やっとこの日までこぎつけた、いわば自民党改憲論者の“悲願”でもある。一方これに対して警戒的なのは学識経験者グループ。たとえ個人的には憲法再検討の必要を認めるとしても政党政派の立場をこえ少数意見であってもこれを広く国民に伝えたいというのが学者の良識である。蝋山政道氏はこれについて「憲法論議はどれが多数意見であったかという数の問題ではなく、何故憲法改正は必要なのか、また何故必要でないのかという知的判断の問題であるべきだ」と説明する。
 議事規則起草小委員会でもこの問題が論議の中心となったことはいうまでもない。同小委員会は第一日午後約二時間、第二日午前から午後にかけて約三時間を費して検討したが、ついに名案が浮ばず、結局議事の単純多数決を認めると同時に、調査審議結果の国会報告には、各委員の意見を公正に表示するという両者の意見を折ちゅうした形式的なとりきめを行った。ところが、この議事規則に加えて「表決は運営委員会であらためて審議する」という議事規則を一方で決めておきながら、これをまた認めないような奇妙な申合せまで行い、これを総会に持出すハメとなった。この説明に立った小暮武太夫同小委座長は「議事の多数決を規則でうたいながら、一方で審議結果の表決は後の審議に回すという、われながら訳のわからないことになりました。しかしこれが世の中ですよ」という苦しい弁明を行う一幕もあった。
 こうして本質的な問題を後に残したままともかくも憲法調査会は会長、議事規則など一応の形式を整え発足した。最初から二つの対立がはっきりしたという点でこの第一回会合は今後の会合の紛糾を予想させる象徴的なものであった。
 それにしても高柳会長の「社会党も参加して本当に長い目でみた将来の日本国民の幸福のために、どういう憲法をつくればいいのか慎重に審議したい。そして意見は全会一致の形で出したい」という希望はいつはたされるのだろう。(解説)

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