2002/11/02 読売新聞朝刊
衆院憲法調査会中間報告の要旨
◇本文記事1面
衆院憲法調査会(中山太郎会長)が1日、綿貫衆院議長に提出した、中間報告の要旨は次の通り。
【第1編】 憲法調査会の設置の経緯=略
【第2編】 憲法調査会の設置の趣旨とその組織及び運営=略
【第3編】 憲法調査会の調査の経過及びその内容
◇第1章 調査の経過=略
◇第2章 調査の概要=略
◇第3章 調査会における委員及び参考人等の発言に関する論点整理
▽第1節 憲法論議に臨む態度及び調査会の進め方
1 憲法論議に臨む態度=略
2 憲法調査会の調査の進め方
1 調査の期間
(1)調査期間の妥当性
〈5年間の調査を行うべき〉
「憲法調査会の任務は、憲法を実現しようとの姿勢で、制定以来の各内閣、各政党の憲法に対する態度及びその実践、国民の憲法に対する要求及びその実現の程度等について、条文ごとないし問題ごとに客観的かつ詳細に調査し、国民に報告することである。その期間として、5年は長すぎるものではない」(小林武=南山大教授)
〈調査期間を前倒しすべき〉
「コンセンサスが得られた点等については、前倒しで行っていくべき」(三塚博=自民)
〈調査期間の中で調査内容等のスケジュールを考えるべき〉
「論憲は3年にして、4年目には各党が憲法改正の要綱を提出して討論を行い、5年目からは憲法改正への予備運動を始めるかたちで、スピードアップを図るべき」(中曽根康弘=自民)
(2)憲法調査会の常設化
〈常設化を図る〉
「憲法についての建設的な論争は、日本という国が存在する限り永遠に続けていくべき」(中野寛成=民主)
〈常設化に否定的〉
「国会の各委員会において憲法に基づいた議論をすべき」(山口富男=共産)
(3)その他=略
2 調査の手法=略
3 調査会で議論すべき事項=略
4 公聴会の開催その他会議の持ち方=略
5 国民への情報提供・国民参加=略
6 その他=略
▽第2節 憲法の制定経緯に関する議論=略
▽第3節 日本国憲法の各条章に関連する主な議論
第1款 総論的事項
1 日本国憲法に対する評価
〈肯定的又は積極的に評価〉
「主権在民、平和主義、基本的人権の尊重という三原則は、大切にしていきたい」(鹿野道彦=民主)「現行憲法の掲げる天皇、基本的人権、国民主権、国際協調、平和については基本的に堅持すべき」(塩田晋=自由)
〈否定的又は懐疑的に評価〉
「国民の意思としての憲法ではない」(中川昭一=自民)
2 憲法の規定と現実との乖離について=略
3 これまで憲法が改正されなかった理由=略
4 憲法改正によらずに解釈の変更で対応していくことについて
(1)憲法解釈の変更によって対処していくことについて
〈容認〉
「判例からしても、憲法規定には解釈の余地があり、また、判例変更がなされ解釈が変更されるように、一義的に他の解釈を許さないものではないのではないか」(千葉勝美=最高裁行政局長)
〈憲法解釈には一定の限度があることを指摘〉
「必要な時には改正がなされるべきであるとしても、その最高法規性、根本規範性からして、解釈には一定の幅があってしかるべき」(倉田栄喜=明改)
〈批判的〉
「判例による憲法解釈を積み重ねていく方式をとっていくと、裁判所が立法権を行使することとなってしまう懸念がある」(土屋品子=自民)「憲法解釈を駆使しようとすると、際限がなくなる可能性があり、不安を感じる」(樽床伸二=民主)
(2)(3)=略
5 憲法を改正すべきか
(1)憲法を改正すべき
A 理由
「各国では、時代の変化や要請に従い憲法は適宜改正されてきたのであり、1947年から一度も改正がなされていないのは、国会の怠慢とも言うべき」(山崎拓=自民)「主権を有する国民が憲法の改正論議を行うのは当然」(中野寛成=民主)「(憲法を)論じたけれども何も変えないのでは意味はないと思われる」(赤松正雄=公明)
「憲法を明治憲法のように『不磨の大典』としてしまうと、そのことによって国民を守れなくなってしまう」(松本健一=評論家・麗沢大教授)
B 憲法を改正するに当たっての方向性
〈時代の変化に合わせた改正〉
「憲法の精神は、今日なお有効であって今後とも大切にしていくべきと考えるが、時代の変遷に伴い、補充し、見直すべき点も出てきている」(上田勇=公明)
〈日本の文化や伝統を踏まえた改正〉
「21世紀の憲法には、20世紀の間に破壊され失われつつある日本人の心のあり方、教育、文化、伝統について方向性を示すような規定を盛り込むべき」(達増拓也=自由)
〈現行憲法の理念を発展させる方向での改正〉
「基本的人権の尊重、国民主権、平和主義という国民間に定着した三大原則を堅持した上で、さらに発展的にとらえる方向で憲法を見直し改正すべき」(二見伸明=自由)
〈読みやすく理解しやすいものに改正〉
「中学生や高校生が読んでも素直に理解できる、できるだけ分かりやすい表現が望ましい」(小泉純一郎=自民)
C 憲法改正の対象とすべき範囲
〈全面的な改正〉
「一度、まっさらな段階から、書き直した方が早い」(小池百合子=保守)
〈必要最低限度の改正〉
「世界がこれだけ激動する中で、国家の根本法規を大幅に変えることで国家の行為を縛るということはあまり望ましくない」(田中明彦=東大大学院教授)
〈字句改正等〉
「日本語として不明な条文であるとか、解釈の積み重ねが高じて文章上の不具合が生じている点等については、憲法の修正、すなわち『修憲』が必要」(藤村修=民主)
D 憲法改正に当たって検討されるべきとの指摘があった事項=略
(2)改正する必要はない
〈憲法改正は、憲法に基づいた政策の実現があってはじめてなされるもの〉
「憲法は国の根幹を明確にし、国の理想や目標を掲げるものであり、現実の政策は憲法を踏まえた法律によって行うのが我が国のかたち」(横路孝弘=民主)「我々は、憲法が制度疲労を起こすほど使われてきたのかを振り返る必要がある」(小林武=南山大教授)
〈現在の憲法改正の主張に対する懸念〉
「今日、声高に国家観やさまざまな形での改憲論を主張する者には、国家主権論の考え方が強い」(伊藤茂=社民)
(3)その他=略
第2款 前文
(1)前文全般に関する認識
A 前文の意義、意味
〈9条との関係〉
「前文と9条はそれなりに論理的な整合性があり、一つの理想像を示している」(斉藤鉄夫=公明)
B 前文の問題点等を指摘
〈翻訳調であるなど日本語としての不適切さを指摘〉
「前文の『諸国民の公正と信義に信頼して』など、英語からの翻訳であるために日本語として不自然で意味が不明りょうな個所が多く、解釈に幅ができる一因となっており、また、誇りを持てない原因ともなっている」(岩國哲人=民主)
〈前文は理想的に過ぎる〉
「憲法前文のような精神論だけでは、世界に伍(ご)してやっていくことも国民の利益を守ることも困難」(宇田川芳雄=21クラブ)
〈日本独自の文化や伝統等を明記すべき〉
「前文に我が国の歴史と伝統に基づいた何らかの表現を盛り込むことが望ましい」(八木秀次=高崎経済大助教授)
(2)(3)(4)=略
第3款 天皇制
1 象徴天皇制に対する評価
(1)象徴天皇制の制定経緯=略
(2)象徴天皇制の意義、象徴天皇制に対する評価
〈積極的な意義あるいは肯定的な評価〉
「実権を首相に、権威を天皇に振り分けている現在の象徴天皇制は、なかなかの知恵によるものであり、戦前の天皇制よりもむしろ日本の伝統に合致している」(北岡伸一=東大教授)
〈制度の意義や運用上の問題等を検討すべき〉
「平等の視点から、天皇制についても、廃止・存続を視野に入れた議論が必要」(植田至紀=社民)
(3)天皇の元首性
〈天皇の元首性を憲法上明記すべき〉「元首とは対外的代表者であるというのが、一般的な見解になりつつあり、その意味で、天皇は我が国の元首である。この点を国民に認知させた上で憲法に明記してはどうか」(八木秀次=高崎経済大助教授)
(4)(5)=(略)
2 その他=略
第4款 安全保障・国際協力
1 安全保障及び9条解釈のあり方等=略
2 平和主義及び非核三原則等
(1)平和主義
A 平和主義の意義のとらえ方
〈積極的に評価〉
「戦争違法化の流れの中で憲法が制定されたことにかんがみれば、自衛権行使の場合を除き戦争の名の下に人を殺すことを違法とする9条2項は、『人類共通の遺産』とも言うべき重要な規定」(大出彰=民主)
〈否定的で、武力は不可欠という国際認識〉
「平和を唱えるだけでは平和を実現することはできない。国民の権利及び財産を守るために戦うことも平和の一つであることを認識すべきだ」(小林憲司=民主)
〈否定的で、日本の国際社会に対する関与が一国平和主義であると批判〉
「憲法制定当時、国際社会が日本を防護してくれるため軍備は不要であるという意識を国民が持っていたことがある。このような憲法制定時の認識と現在の認識との間にはギャップがある」(二見伸明=自由)
〈その他〉
「侵略戦争の放棄は平和国家として当然のことであり、したがって第2章の章名を『安全保障』とすべき」(松沢成文=民主)
B 日本の平和と繁栄が維持されてきた要因=略
C 平和主義の今後のあり方
〈理念を堅持し、実践していくべき〉
「『良心的軍事拒否国家』という理想を掲げるだけでなく、これを具体化するために、難民救済、平和外交、対外支援等を実践していくことが重要」(保坂展人=社民)
《何らかの修正を加えるべき》
〈国際社会の現状を踏まえるべき〉
「歴史の変化や国際社会における日本の役割を踏まえ、国民自らが21世紀の国際社会にふさわしい新たな平和憲法を創るべき」(松浪健四郎=保守)
〈一国平和主義から脱却すべき〉
「独りよがりの平和主義から脱却し、前文の国際協調主義を踏まえ、国際社会、地域及び人間一人ひとりの安全の確保に当たりどのような協力が可能であるかという視点を重視すべき」(葉梨信行=自民)
〈平和主義に新たな理念等を加えるべき〉
「憲法には、平和を維持するための手段としての民主化支援、予防外交、市民による平和維持活動等を導き出す具体的規定が存在しないため、前文に定める高い精神性をどのように実現していくかを明記すべき」(首藤信彦=民主)
D その他=略
(2)非核三原則等
A 非核三原則の内容に対する評価=略
B 非核三原則の実践に対する評価=略
C 核兵器政策の今後のあり方
〈核兵器廃絶を国際社会に訴えていくべき〉
「核兵器廃絶は国際社会の世論となっており、核の脅威論や核の傘論が支持を失っている事実を認識すべき」(植田至紀=社民)
〈非核原則等を憲法に明記すべき〉
「日本は、唯一の被爆国として、核兵器の廃絶及び非核三原則を憲法に明記すべき」(大出彰=民主)
〈核兵器保有を含むあらゆる選択肢を考えるべき〉
「責任ある立場に立つ者は、国家自身が存亡の危機にさらされるような場合には核兵器を持つこともあり得るという考え方を念頭に置くべき」(田久保忠衛=杏林大教授)
3 自衛権及び自衛隊
(1)自衛権の保持及び行使のあり方
A 自衛権の保持
〈自衛権の保持に関する憲法解釈等に言及〉
「自衛権は、国家固有の権利であり、憲法に明記するまでもない」(小泉純一郎=自民)
「日本が主権国家である以上、自衛権を保持することは否定されず、これを放棄することもできない」(藤島正之=自由)
「我が党は、9条が自衛権を否定するものと考えていない」(佐々木陸海=共産)
〈憲法を改正して自衛権の保持を明記すべき〉
「自衛権が国家固有の権利である旨憲法に明記し、9条をめぐる神学論争に終止符を打つべき」(三塚博=自民)
「自衛権の保持に係る解釈が分かれている以上、これを明確にすべく、憲法を改正すべき」(樽床伸二=民主)
「9条2項は、できればこれを削除するか、又は削除の上、自衛権の保持及び積極的な国際協力の推進を明記すべき」(田中明彦=東大大学院教授)
B 自衛権行使のあり方
〈自衛権行使に当たり武力行使は憲法上想定されていない〉
「9条の立場から、中立及び軍事力によらない自衛を図るべきである」(山口富男=共産)
「『万が一』の事態が生じたときは、非暴力の抵抗により対処すべき」(金子哲夫=社民)
〈一定の武力行使を伴う自衛権行使を認める〉
「日本に攻撃を仕掛ける国は存在しないと断言することはできない」(高市早苗=自民)
「侵略に対し非暴力・不服従の抵抗をした結果、国家が消滅してしまった場合、国民の生命及び財産を擁護するという政治の責任を果たすことができなくなる」(前原誠司=民主)
(2)集団的自衛権
〈集団的自衛権に関する政府解釈に言及〉
「集団的自衛権は自然権であることから、集団的自衛権を有するが行使はできないとする政府解釈は、妥当でない」(安倍晋三=自民)
〈集団的自衛権の行使に肯定的〉
「憲法を改正した上で、集団的自衛権の行使についても、必要最小限度の範囲で認めるべき」(高村正彦=自民)
「『必要最小限の実力』の概念が時代に応じて変化している以上、集団的自衛権の行使は可能」(中曽根康弘=自民)
「集団的自衛権の行使については、解釈で対応するのではなく、これを認める旨憲法に明記すべき」(中川正春=民主)
〈行使に否定的又は慎重〉
「集団的自衛権は国家固有の権利として認められているが、憲法に明記することは、国民のコンセンサスを得るのに時間がかかると考えられることから時期尚早」(船田元=自民)
「集団的自衛権の行使を認めることは、アジア諸国に対し不信感と脅威を与える結果となり、国益を擁護するという観点からはマイナスの効果が生じる」(日森文尋=社民)
〈集団的自衛権の検討に当たり考慮すべき事項〉=略
〈個別政策における集団的自衛権の行使に関する問題に言及〉=略
(3)自衛隊の合憲性及びそのあり方
〈自衛隊は合憲〉
「村山政権下において自衛隊が合憲であるという言明がなされて以降、戦う力を持った防衛部隊としての自衛隊は合憲であるという認識が一般国民に浸透している」(中山太郎=自民)
「9条があるからといって自衛隊を解消すべきとの立場はとらない」(枝野幸男=民主)
〈自衛隊は合憲だが、これを憲法に明記すべき〉
「9条についてさまざまな解釈がなされている現状にかんがみれば、侵略戦争を行わないという理念を堅持しつつ、これを統一すべく改正すべき」(藤島正之=自由)
「自衛隊の存在は合憲である。しかし、諸外国は日本が憲法により軍隊の保持を禁止しているにもかかわらず大規模な軍備を備えた自衛隊を有することに疑念を抱いている。9条2項は妥当でないと考えられることから、一定規模の軍隊の保持及びその活動方針を明確にすべき」(北岡伸一=東大教授)
〈自衛隊は違憲の疑いがあるため、憲法に明記すべき〉
「自衛隊が存在するにもかかわらず、国民の生命・財産を守る防衛組織として憲法に明記されていないことは、憲法の欠陥であり、これを明確にする必要がある」(中野寛成=民主)
「9条は自衛隊が存在する以上、法として機能しておらず、また、その理念に沿った形で安全保障を図ることは現実的でないことから、現実に即した形で改正すべき」(井上喜一=保守)
「自衛隊の存在は9条に照らし違憲である。従って9条を改正し、第3項として、自衛のための戦力を保持する旨明記すべき」(石原慎太郎=東京都知事)
〈自衛隊の必要性、憲法への明文化等に言及〉
「軍隊を保持すること及び軍隊を保持することは軍国主義でも平和主義を害するものでもないことを憲法に明記すべき」(小泉純一郎=自民)
〈自衛隊は違憲の疑いがあるため、解消又はその活用方針の転換を図るべき〉
「9条の下で常設軍の創設は認めらない。従って9条と自衛隊の存在等の現実との間のギャップを9条に現実を近付けていくことで解決すべき」(春名シン章=共産)
「自衛隊の存在を9条2項との関係で『違憲合法』ととらえることは、ごまかしである」(阿部知子=社民)
「日本は、『良心的軍事拒否国家』を目指し、海外にも派遣可能な災害救助組織を創設する等により、軍縮をはかるべき」(小田実=作家)
(4)その他=略
4 日米安保体制
(1)これまでの日米安保体制に対する評価=略
(2)日米安保体制の今後のあり方
〈条約を維持すべき〉
「現在の国際情勢にかんがみれば、現在の日米安保体制を維持することが望ましい」(市村真一=国際東アジア研究センター所長)
〈条約を解消すべき〉
「9条の精神に沿って日米安保条約を解消し、軍縮の道を進むべき」(佐々木陸海=共産)
《日米安保体制の再設計に言及》
〈双務的又は対等な同盟関係の構築に積極的〉
「集団的自衛権が行使できないために非対称的双務条約となっている日米安保条約を双務条約に近付けることにより、日本の主権を確保する必要がある」(石破茂=自民)
〈双務的又は対等な同盟関係の構築に慎重〉
「日米安保条約を双務的なものに転換させることは、集団的自衛権の行使の範囲の活動を日本に求めることとなり、違憲」(筒井信隆=民主)
〈日本の自主性又は主体性の観点からの日米関係の再設計に言及〉
「対米追随外交を改め、自立と協調を両立させる必要がある」(樽床伸二=民主)
〈多国間関係の枠組みにおいて日米関係を位置付けるべき〉
「米国だけでなく、中国との関係にも配慮しつつ、アジア戦略を確立していく必要がある」(近藤基彦=21クラブ)
(3)基地問題=略
(4)その他=略
5 国際協力
(1)国際協力全般
A これまでの国際協力に対する評価=略
B 国際協力を推進するに当たっての理念、考慮すべき事項=略
C 国際協力を推進すべき分野=略
D 国際協力の主体
〈自衛隊を積極的に活用すべき〉
「自衛隊の存在を憲法上認めた上で、国連活動にも積極的に参加していく必要がある」(葉梨信行=自民)
〈自衛隊の海外派遣に消極的〉
「テロ対策特措法に基づく自衛隊の派遣に当たって、政府が詳細な活動内容を公開しないまま国会の承認を求めることは、シビリアン・コントロールを有名無実化するに等しい」(金子哲夫=社民)
〈別組織論〉
「自衛隊とは別に国際協力を行う『国際協力部隊』を創設する案は、検討に値する。その場合、9条をどのように改正するかという問題について、議論する必要がある」(中山太郎=自民)
E 国際協力の推進と憲法との関係
〈国際協力推進のため憲法改正を検討すべき〉
「憲法には、国際協力の推進に係る積極的な規定が存在しないため、国際協力に係る日本の責務又は役割を憲法に明記すべき」(水野賢一=自民)
「国際協力に関するガイドラインを憲法に明記すべき」(石井一=民主)
〈改正の必要はない〉
「世界のどこかで起きる紛争の解決のために憲法を改正するという考え方は、訂正されなければならない」(今野東=民主)
(2)国連との関係
A 集団安全保障
《国連軍又は多国籍軍への参加と憲法との関係》
〈憲法改正すべき〉
「国連軍等への参加をはじめとする集団安全保障に日本が参画していく旨憲法に明記すべき」(赤松正雄=公明)
〈現行憲法の下で可能〉
「憲法上、法整備等の手続を踏めば、日本が国連軍に参加することは可能」(田中明彦=東大大学院教授)
〈国連軍への参加は可能だが、多国籍軍への参加は憲法違反〉
「多国籍軍に参加することはできないが、国連の警察活動に日本が参加することは可能」(結城洋一郎=小樽商科大教授)
〈参加に消極的〉
「日本は軍事力の行使により紛争解決を図る多国籍軍に参加することはできない。平和的方法による国際貢献を追求すべき」(小林武=南山大教授)
《国連における常設的な実力組織の創設等》
〈肯定的〉
「今後は国連警察の創設等について議論していかなければならない」(近藤基彦=自民)
「各国の軍備を縮小して国連軍を創設すべき」(今川正美=社民)
〈懐疑的〉
「国連軍の創設は目指すべき理想ではあるが、実現可能性は低い」(櫻井よしこ=ジャーナリスト)
B 国連平和維持活動(PKO)
〈PKOへの参加〉
「日本は能動的な平和主義の観点から、PKOに積極的に参加すべき」(船田元=自民)
〈PKOへの参加と憲法との関係〉
「国連中心主義を外交の基本政策とする以上、PKOに全面的に協力する旨憲法に明記すべき」(松沢成文=民主)
〈PKOの具体的な内容〉
「日本は、PKOに対し、資金、物資、後方支援等の非軍事の分野においてあらゆる協力をすべき」(赤松正雄=公明)
C 安全保障理事会常任理事国入り
〈支持〉
「日本は、国連に巨額の分担金を拠出していることをかんがみれば、常任理事国入りした上で、国連を通じた世界平和の構築に向けた国際協力を考えていくべき」(下村博文=自民)
「日本は、常任理事国入りし、米国とは違った立場から、平和秩序の創出に尽力すべき」(大沼保昭=東大教授)
〈消極的〉
「常任理事国には軍事的な貢献が求められることから、憲法上認められない」(山口富男=共産)
D その他=略
(3)地域的な協力関係=略
第5款 基本的人権
1 人権に関する全般的事項=略
2 人権総論
(1)人権の観念、歴史、分類=略
(2)公共の福祉
〈公共の福祉(人権制約の必要性)を重視〉
「きちんとした法的な手続の下で権利が制限されることは、むしろ我々が権利を享受するために必要」(石破茂=自民)
「『公共の福祉』とは、国家社会全体の最大公約数的利益を指している」(山崎拓=自民)
〈公共の福祉による人権制約の強化を警戒〉
「『公共の福祉』という言葉は、何か伸縮自在のもののように聞こえる」(保坂展人=社民)
(3)憲法上の義務
A 義務や責任の重視、義務規定の新設
〈積極的〉
「憲法には権利規定は多いが義務規定は少ない」(今村雅弘=自民)
「憲法には権利と義務という観念が十分に表現されていないので、必要な義務規定を設けるべき」(葉梨信行=自民)
〈慎重〉
「義務規定は現行憲法に掲げられている程度で十分」(阪本昌成=広島大法学部長)
B 各種の義務=略
(4)私人間の関係及び市民社会と憲法=略
(5)人権の享有主体
A 日本人(国籍)=略
B 外国人の人権
〈定住外国人への地方参政権の付与に積極的〉
「住民自治の視点から、在日外国人といえども地域の住民として権利と義務を行使することは、国際社会の慣例上も通例になりつつある」(中野寛成=民主)
「定住外国人に対して地方参政権を与えるべき」(太田昭宏=公明)
〈付与に消極的〉
「参政権は国民にのみ与えられるべき権利であり、定住外国人は日本国籍を得た上で参政権を行使すべき」(葉梨信行=自民)
(6)憲法に明文の規定のない人権(新しい人権)
A「新しい人権」を憲法に明記することの要否
〈明記に積極的〉
「プライバシー権や環境権等、50年前では想像できなかった概念がある」(高市早苗=自民)
「新しい価値観である環境権、国民の知る権利、個人のプライバシー保護といった観点から、憲法の見直しは当然行われなければならない」(五十嵐文彦=民主)
〈明記する必要がない〉
「『新しい人権』は、今の憲法の中でもいくらでも法律の制定によって押し広げていくことが可能」(金子哲夫=社民)
「環境権や知る権利は、法律でまず実行した上で憲法について議論すべき」(辻元清美=社民)
〈憲法上の権利とすべきではない〉
「私法上の法的処理又は私法上の法律制定や国側の責務規定を設けることで対処が可能なものは、あえて『基本的人権』」とするべきでない」(阪本昌成=広島大法学部長)
B 各種の「新しい人権」
〈プライバシー権〉
「情報をめぐる権利義務、例えば、自己に関する情報をコントロールする権利、プライバシー権をきっちり固めていくべき」(達増拓也=自由)
「情報技術が進むと、プライバシー権が保護されるべき権利として重要になる」(孫正義=ソフトバンク社長)
〈知る権利、情報公開請求権、ネットアクセス権〉
「知る権利を憲法上明文化する必要がある。ただ、機密保持との関係を十分に考慮する必要がある」(島聡=民主)
「情報は国民の考える能力を引き出す最大の力であるから、情報公開を徹底させる趣旨を憲法に書き込んでほしい」(櫻井よしこ=ジャーナリスト)
〈環境権、環境保全の義務〉
「環境保全や良好な環境の下で生活する権利、環境破壊の予防や排除を新憲法において明文化すべき」(菅義偉=自民)
「環境権は立法化するかどうかはともかくとして、条文が現在の事態と合わなくなっている」(横内正明=自民)
「環境主義という立場で憲法条文の各所にその精神が示される必要がある」(牧野聖修=民主)
3 人権各論
〈選択的夫婦別姓制度導入に積極的〉
「たとえ、ごく少数の人のためであっても導入したい」(土屋品子=自民)
「夫婦別姓にすると家庭が崩壊するという表面的な議論は全く信用できない」(阪本昌成=広島大法学部長)
〈導入に消極的〉
「夫婦別姓制度は家族の絆を弱め、結婚や離婚がルーズになる」(森岡正宏=自民)
第6款 政治部門(国会、内閣等)
1 国会と内閣の関係その他政治部門全般
1 政治部門全般に関する事項=略
2 議院内閣制=略
3 首相公選制
〈積極的評価〉
「〈1〉迅速なリーダーシップの発揮を可能とすること、〈2〉米国で見られるような国家の指導者を国民自らが選ぶというエネルギーは重要視すべきことから、首相公選制の導入を検討すべき」(伊藤公介=自民)
「首相公選制というのは一種の国民投票であるので、それを憲法の中に条文化すれば、国民のアパシー(政治的無関心)を解決していくことができ、結果として、国民が日本の政治に責任を持つという責任感が生まれてくる」(松本健一=評論家・麗沢大教授)
〈消極的評価〉
「首相公選制の導入は、天皇制との関係が問題となっていること、また、議院内閣制の運用で対応が可能なことを考えると必要ない」(藤島正之=自由)
「首相の政治的な指導力は弱まり、政党の役割もむしろ弱まるので、政党政治をよりよくする方向には働かない」(長谷部恭男=東大教授)
「マスコミを通して政治家が評価されている現状を考えると、ポピュリズム(衆愚政治)につながるおそれがある」(西川京子=自民)
「国会とは別の正当性を持たせることとなる」(森田朗=東大大学院教授)
「民意によってできるカリスマを得た首相と伝統カリスマに依拠する天皇と、どちらを元首と考えるべきかという問題が生ずる」(松浪健四郎=保守)
「大統領制をとった場合、行政府と立法府が厳格な形で分離しているので、両者の考え方が異なった場合に、国政が停滞する事態が生ずる」(長谷部恭男=東大教授)
「首相公選制を導入するとしても、地方自治体と国や、国の機関相互の間で分権がなされているような分権型の社会システムを前提とすべき」(貝原俊民=兵庫県知事)
〈運用に関する発言〉
「首相公選制を導入した場合、国民の直接選挙で選ばれた首相を国会が罷免することはできなくなる」(中山太郎=自民)
「首相公選制を導入しても、天皇制には抵触しない」(松本健一=評論家・麗沢大教授)
4 政党
〈政党の憲法的編入及び政党法の制定〉
「政党を憲法に位置付け、その役割と責任を明確にするべき」(佐々木毅=東大教授)
5 国民投票制度等(直接民主制)
〈導入に積極的〉
「国家として、国民として、自分の責任を明らかにすること、また、自分たちが選んだ結果には責任を持つことが国民国家形成には大変重要」(松沢成文=民主)
「国民主権を実質的に深めていく観点から、住民投票等の直接民主主義のあり方なども議論すべき」(上田勇=公明)
〈導入に消極的〉
「国民にとって、短期的には不利益だが、中長期的な観点から必要な施策、例えば新税の導入について、国民投票を行うような直接民主主義的手続をとった場合、適切な判断がなされない」(中川昭一=自民)
2 国 会
1 両院制
(1)憲法の趣旨及び両院制についての現状認識=略
(2)両院制の今後のあり方=略
(3)両院制の是非
〈維持に積極的〉
「激変の時代において、両院制は、両院においてそれぞれ審議することを確保する点では意義がある」(伴野豊=民主)
「どのような選挙制度を採用するにしても、日本のように人口の多い国において、有権者の多様な意思を一院で集約できるかは、かなり疑問だ」(大石眞=京大教授)
〈維持に消極的〉
「現実には、両院とも同様の議論をしているため、結果として法案の審議及びその成立が遅れている」(井上喜一=保守)
2 選挙制度=略
3 国会の運営・手続等=略
3 内閣
1 内閣の組織等
(1)首相(政治)のリーダーシップ強化
〈65条の改正〉
「65条において、行政権の所在を『内閣』から『内閣総理大臣』に改めるべき」(島聡=民主)
〈現行制度の運用により改善を図る〉
「現在の制度でも、主任の国務大臣は官僚に対し、相当に強い権限を有している」(森田朗=東大大学院教授)
(2)閣議における全会一致原則=略
(3)閣僚の分担管理原則等=略
2 政官関係=略
第7款 裁判制度
1 違憲審査制度
(1)違憲審査制度と憲法81条=略
(2)違憲審査権行使の現状(いわゆる司法消極主義)=略
(3)違憲審査制度の改善
A 憲法裁判所
〈憲法裁判所制度導入に積極的〉
「憲法を改正する場合には、憲法裁判所を設置すべき」(中野寛成=民主)
「憲法裁判所を設置し、立法だけでなく司法も憲法問題を正面から扱い、我が国のあるべき姿について活発な論議を提起することが変化へ対応する力を高める」(藤島正之=自由)
〈導入に消極的〉
「最高裁がしっかり役割を果たせば、憲法裁判所を設置しなくとも、憲法の有権解釈を確定することにより、不毛な論争を避けることができる」(長谷川正安=名大名誉教授)
B 憲法裁判所の設置以外の方法による改善
〈最高裁に憲法裁判を専門に取り扱う憲法裁判部を設ける〉
「最高裁に上告審を扱う部署とは別に憲法裁判を専門に扱う憲法裁判部を設けることを検討すべき」(中村哲治=民主)
2 その他=略
第8款 財政
1 租税法定主義=略
2 私学助成
〈私学助成は合憲又は89条を改める必要はない〉
「私学なり社会福祉法人に対する公的助成は憲法違反ではない」(土肥隆一=民主)
〈私学助成は違憲又は89条を改める必要がある〉
「公の支配に属しないことが私学の生命であり、公金の支出をすることは憲法違反」(松浪健四郎=保守)
「私学等に対する公的助成を正面から認める規定に89条を改めることもよろしいのではないか」(高橋正俊=香川大教授)
第9款 地方自治
1 地方自治(第8章)の規定について=略
2 分権改革の必要性と課題=略
3 地方自治に関する各論的事項
1 道州制(連邦制を含む)
(1)道州制と憲法との関係=略
(2)道州制導入の是非
〈導入に積極的〉
「地方分権を進める上で、道州制の導入は前向きに検討されるべき」(伊藤公介=自民)
「21世紀の社会を展望した場合、いわゆる分権型連邦国家を目指すべき」(鹿野道彦=民主)
〈導入に否定的〉
「憲法は、自治の担い手としての基礎自治体の維持を要求しているのではないか」(天川晃=横浜国立大大学院教授)
(3)その他道州制の課題=略
2 市町村合併
(1)市町村合併推進の是非
〈合併推進に積極的〉
「財政危機、社会構造の種々の変化に対応するためには、市町村合併を積極的に推進していくことが必要」(江田康幸=公明)
〈合併推進に慎重〉
「高齢化社会を迎えるに当たり、地方自治体の役割は重要となってくる。住民の年齢階層等も含めて地域の多様性、地方自治の自主性を尊重していくべきである」(金子哲夫=社民)
「自治体の規模が大きくなると、住民自治の意義が弱まる」(春名シン章=共産)
(2)その他=略
3 地方財政=略
4 住民投票
〈導入に積極的〉
「『民主主義の民主化』のためには、住民投票のシステムの拡大等を憲法に示していくことは重要」(中野寛成=民主)
「住民投票を積極的に再評価すべきであり、そのための憲法規定が望まれる」(大隈義和=九大大学院教授)
〈導入に慎重〉
「住民投票は地方に関する事項に限定されるべきであり、安全保障、環境といった国全体に関する事項については国会で審議すべき」(葉梨信行=自民)
第10款 憲法改正
1 憲法改正手続
(1)憲法改正手続(96条)の意義=略
(2)改正手続の要件の緩和
〈積極的〉
「憲法に対する信頼性を損なわないため、改正手続のハードルを下げ、必要な時に迅速に改正を行うことができるようにしておくべき」(船田元=自民)
「国会による憲法改正の発議が考えられないということは、実態の問題と同時に心理的な問題も生じさせ、憲法を不磨の大典化させてしまう。これは憲法問題であると同時に政治問題だ」(佐々木毅=東大教授)
〈慎重〉
「両院議員の3分の2以上の賛成及び国民投票を要する改正手続は非常に的確」(深田肇=社民)
(3)憲法改正のための国民投票法
「憲法改正手続の要件となっている国民投票を実施するための法律が未整備のままとなっている現状についての議論があってよい」(石破茂=自民)「憲法上、改正規定が設けられているにもかかわらず、具体化する手続法が存在しないため改正ができないのはおかしなこと」(近藤基彦=自民)「憲法調査会がなんらの報告を出していないにもかかわらず、憲法改正国民投票法案提出の動きがあるのはおかしい」(原陽子=社民)「個人的見解だが、憲法改正手続を定めた法律が存在しないという法制度の不備に関しては、一般論としては改善した方がよいと考える」(草野忠義=連合事務局長)
(4)憲法に関する委員会=略
(5)その他=略
2 憲法改正の限界=略
3 諸外国の憲法改正手続との比較=略
第11款 最高法規=略
第12款 その他(緊急事態)
1 緊急事態への対応に関する憲法改正の是非
〈肯定的〉
「危機管理など日本が直面している喫緊の課題に現行憲法が対応できない状況にある」(三塚博=自民)
「自然災害時、住民の財産を守るという自衛隊の役割は大きい。自然災害、武力攻撃などが発生した場合における自衛隊の役割を明確にすべきで、そのことと平和主義は矛盾しない」(赤松正雄=公明)
「緊急事態に対処するための何らかのルールは必要だ。そのルールについて憲法に明記することが望ましいが、法律で定めても構わない」(北岡伸一=東大教授)
〈慎重〉
「有事関連3法案に反対するとともに、日本が憲法上のチェックを受けることなく戦争を行い得るような改正に反対する」(田中宏=北海道弁護士会連合会理事長)
2 緊急事態への対応に関する法整備等の是非
〈法制度の不備を指摘〉
「有事法制については、当然整備すべきであったのに、それを怠ってきた」(久間章生=自民)
〈有事法制の整備に積極的〉
「地下鉄サリン事件などにかんがみれば、国内外の緊急事態への対応について議論すべき」(葉梨信行=自民)
「有事の場合、十分な法制度が整備されていなければ、かえって基本的人権を侵害する結果になりかねない。その意味で、有事法制を整備すべき」(島聡=民主)
〈有事法制の整備に消極的〉
「有事法制の問題が提起されること自体が、人類が平和構築に向けて努力してきた国際的な潮流と歴史の潮流に逆行する」(植田至紀=社民)
〈有事法制と基本的人権との関係で一定の人権制限は認められる〉
「直接侵略を受けた場合に備え、国民の国を守る義務という観点から、種々の権利の制限や義務が法制化されるべき」(保岡興治=自民)
「国家社会が存在して初めて基本的人権が保障されるのだから、有事に基本的人権が制限されることは当然」(恵隆之介=ビジネススクール校長)
〈人権侵害への懸念〉
「有事においては自衛隊の行動により、国民の権利・自由が侵害される」(金子哲夫=社民)
▽第4節 その他=略
【第4編】 資料=略
(注) 報告書中の委員(国会議員)・参考人などの所属・肩書は調査会での発言当時のもの。いずれも敬称略。委員の所属会派の略称は、自民=自民党、民主=民主党・無所属クラブ(民主党)、明改=公明党・改革クラブ、公明=公明党、自由=自由党、共産=共産党、社民=社民党・市民連合、保守=保守党、21クラブ=21世紀クラブ
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