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2002/11/02 読売新聞朝刊
[社説]憲法調査会 改憲へ意見集約に入る時だ
 
 委員や参考人の発言を整理しただけではあるが、二つのことが明瞭(めいりょう)に浮かび上がる。
 憲法のどこを改めるべきなのかという点と、護憲を掲げる共産、社民両党を除く与野党の委員のほとんどが、基本的に憲法改正の必要性を認識している、ということだ。
 衆院憲法調査会の中間報告は、現行憲法の見直しが急務であることを、再確認させる内容と言っていい。
 報告書に盛り込まれた論点は、安全保障や基本的人権、統治機構、地方自治など、多岐にわたる。どれも、新しい日本の国家像を描くうえで重要な問題だ。
 大事なのは、言いっ放しで終わらせてはならない、ということである。
 憲法調査会は、五年をめどに最終報告をまとめることになっている。あと二年余しか残っていない。中間報告を踏まえ速やかに論議の集約に入るべきだ。
 重視すべき改正点は何か。改正案は、いつ、だれが作成するのか。詰めるべき課題は多い。
 参院の憲法調査会も、早急に中間的な取りまとめを行ったうえで、意見集約に進むことを期待する。
 論議の集約には、各党が、党内の意見を一本化することが不可欠だ。
 自民党は、憲法改正を掲げているが、具体的な改正論議は、ほとんど進んでいない。怠慢というしかない。
 公明党は今回、従来の「論憲」からようやく一歩踏み出し、環境権など新たな規定を追加する「加憲」の立場から、党内論議を進める方針を打ち出した。
 民主党は、党内の憲法調査会が、新しい憲法をつくる「創憲」の必要性をうたった報告をまとめた。ただ、これで党内がまとまるかどうかが問題だ。
 内外の情勢は、半世紀前の憲法制定時には想像もつかなかったほど大きく変わった。憲法の規定と経済、社会の実態との矛盾も、ますます広がっている。
 「憲法九条と自衛隊」だけではない。今年は、「在任中は減額できない」と憲法に明記されている裁判官の給与が、初めて引き下げられることになった。
 かねて憲法との矛盾が指摘されてきた私立大学への国の補助金も、日本私立学校振興・共済事業団という第三者機関を通しての交付だけでなく、国が直接、私大に支出するケースが増えつつある。
 “憲法の空洞化”は、法治国家の根幹を揺るがす、見過ごせない事態だ。
 差し当たって可能なことは、改正手続きの不備を補う憲法改正国民投票法を制定することである。「法の支配」の再構築に向け、確かな一歩を踏み出すことをすべての政党、政治家に求める。


 
 
 
 
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