日本財団 図書館


1996/09/16 読売新聞朝刊
[社説]憲法公布50年 国会機能の活性化を急ごう
 
◆参院には独自性が必要だ
 参議院に対する「不要論」が相変わらずくすぶり続けている。
 参院議員OBの有志でつくる参議院協会が最近、会員を対象に行ったアンケート調査では、「今のままの参院であれば必要ない」との答えが四五%にも上った。身内の声だけにショッキングな結果だ。
 ある民放テレビのトーク番組も参院関係者を刺激した。「参議院はもういらない!?」と題するコーナーで、出演したタレントや評論家から「無用論」も交えた参院批判の発言が続出したからだ。
 参院を代表する形で自民党の村上正邦・参院幹事長がさっそく「参議院無用論に答える」と題する文書を発表した。
 「国民の厳しい批判を真剣に受け止め、参議院創設の原点に立って参議院のあり方を洗い直す時期にある」
 反論しながらも、自己改革の必要性を強調する内容になっているところに、参院の危機感が表れている。
 参院が衆院に対して期待される機能は「補完、均衡、抑制」だ。
 憲法制定の際、一院制を求めた連合国軍総司令部(GHQ)の草案に対し、日本側が「多数党の行き過ぎをチェックするため」として二院制を強く主張し、認めさせた経緯がある。
 ところが現状は「衆院のカーボンコピー」と皮肉られている。機構や運営はもちろん法案審議に至るまで独自性に乏しいからだ。これが不要論につながっている。
 二院制を機能させるには、村上氏の指摘通り、本来あるべき姿を見据えながら特色ある参院に作り変えることだ。
 参院改革には、憲法レベルからの論議が欠かせない。読売新聞の憲法改正試案は、参院に条約や人事案件の先議権などを与えるよう提案している。機能強化によって衆院との違いを出そうという狙いだ。
 国会法の見直しも、一つの方法として検討する価値がある。
 憲法の規定からすれば、衆参両院は本来独立した関係にあり、運営なども独自のルールで行われるのが望ましい。にもかかわらず現行の国会法は、衆参両院の組織や運営を細部にわたるまで定めている。
 これでは各院が組織や運営などで特色を発揮するのは難しい。国会法に盛り込むのは両院にまたがる問題に限定し、それぞれの院で決めた方がいい問題は、各院の規則にゆだねるのが自然だ。
 審議の面で「参院らしさ」を出すには、法案などに関する党方針が衆院だけでなく参院をも束縛する党議拘束のあり方を改めて見直すことが必要だ。
 この問題は、政党化の進行とも密接に関係する。かつては無所属議員が半数近くを占めたこともある参院だが、その後の政党化の波や比例代表制の導入で、今では無所属議員を探すのが難しい。これが党議拘束が幅をきかせる一因になっている。
 衆院の選挙制度が変わって参院との違いが少なくなったことも問題を生んでいる。従って参院改革は、選挙制度のあり方も視野に入れた幅広い論議が不可欠だ。
 国会全体の改革も急がれる。
 国民の政治不信のバロメーターとも言うべき「支持政党なし」層は依然、有権者の約半数を占めたままだ。
 この「政党不信」現象は、長年続いてきた「国対政治」や、その裏返しである審議の形骸(けいがい)化、さらには相変わらず野党の“常套(じょうとう)手段”になっている審議拒否戦術などが原因の「国会不信」でもあることを忘れてはなるまい。
 その意味で、国会への信頼を回復するためにまず必要なのは、本会議や委員会での審議を「言論の府」の名にふさわしい実のあるものにすることだ。
 
◆会期制も根本から再検討を
 質問するのは議員で、閣僚や政府委員は答弁だけという一方通行の質疑方式を、閣僚からも議員に質問できる双方向に改めるのも一案だ。議員同士の討論を活発にすることも必要だ。
 会期内に成立しない法案は原則として廃案になるという「会期不継続の原則」を悪用し、審議を阻むことで法案を不成立に追い込むという“抵抗野党”流の戦術は、今や国民からそっぽを向かれている。
 一方で、阪神大震災のような非常事態が発生した時に国会が閉会中では、機敏な対応ができない。
 こうした観点からすれば、国会の会期制の是非を根本から再検討すべきだろう。
 憲法の言う「唯一の立法機関」の名に恥じないよう、国会の立法能力も向上しなければならない。
 過去十年間近くの数字を見ると、国会で成立した法案の約八五%が政府提出で、議員提出はわずか約一五%だ。提出件数を見ても、議員立法は全体の三割強に過ぎない。政治が「官」主導になっている実態を如実に物語っている。
 議員立法を盛んにするには、議員自身の意識向上もさることながら、提出の際に必要な要件の緩和や、衆参両院の常任委員会調査室や法制局の拡充など環境整備も考慮すべき時期にきている。
 国会の機能を活性化させるには、各政党や個々の議員の意欲や見識に負うところが大きいのはもちろんだ。
 だが、現在の国会の仕組みができてから半世紀も過ぎたことを考えれば、制度疲労はない方が不思議だ。憲法も含めたハード面の洗いなおしが求められている。
 議員定数の削減など自らの痛みを伴う改革も避けては通れない。
 行財政改革が総選挙の争点に浮上しているが、各党・会派とも党派的な利害や思惑を超えて国会改革も論じてほしい。
 「国会不信」の払拭(ふっしょく)が「政治の再生」を可能にする。


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION