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1991/12/09 読売新聞朝刊
国際貢献策のあり方と憲法解釈で自民党内二分 小沢調査会VS憲法調査会
 
◆栗原祐幸氏らの慎重論浮上
 将来の国連軍、多国籍軍への参加を視野に入れ、わが国の国際貢献策のあり方と憲法との関係を中心とした議論を進めている自民党の「国際社会における日本の役割に関する特別調査会」(会長=小沢一郎・元幹事長、小沢調査会)に対し、党内から慎重論が浮上、党内世論が二分化の傾向をみせている。党憲法調査会(栗原祐幸会長)が憲法の解釈拡大や改憲に慎重な立場から、新たな憲法解釈を打ち出そうとしている小沢調査会の議論をけん制しているためだ。小沢調査会では、年内の答申取りまとめに向け、週明けから起草作業を本格化させるが、今後、憲法論議が活発化しそうだ。
 今年六月、「日本は国際社会の一員として、経済的な面だけでなく人的な貢献を行うことを真剣に検討するべきだ」との党内の声を背景にスタートした小沢調査会は、これまで学者、官僚、経済人、ジャーナリストら十三人を招いてヒアリングを実施。
 この間、九月には、議論のたたき台として〈1〉国際平和秩序維持のために、国連が武力行使を含めた措置を決定する「国際的安全保障」という概念に基づき、多国籍軍や国連軍参加への道を開く〈2〉冷戦終結を受け、新たな日米安保条約のあり方を検討し、その際、集団的自衛権を認めていない憲法九条の解釈を変更するか、不可能なら九条の改正を提起すべきだ――などを柱とする答申原案をまとめている。
 十一月以降三回行われた締めくくりの自由討議の結果、答申では、集団的自衛権や改憲論は前面に出さず、集団的安全保障への参加を合憲と位置付けるための新たな憲法解釈を打ち出す方向が強まっている。ただ、国連を中心とした多国籍軍や国連軍への自衛隊派遣に道を開くという当初の狙いには変化はない見通しだ。
 こうした小沢調査会の動きにけん制球を投げたのが、栗原氏。先週の憲法調査会後の会見では、「憲法問題は党内のどんなところで議論してもいい。しかし、意見が違えば憲法調査会として『おかしい』という」とクギを差すとともに、「小沢調査会の船田元・事務局長が私のところに『(答申は)こうやります』といってきたが、私は『聞き置く』と言っておいた。しかし、言うときは言う」と、小沢調査会が打ち出そうとしている方向には同意できないとの考えをにじませた。
 小沢調査会側では、「今後も憲法調査会と連絡を取りながら(起草作業を)進めたい」(船田氏)としているが、憲法調査会内には「集団的安全保障を認めれば、侵略戦争以外何でもできることになる」といった慎重論も多く、すり合わせは難航しそうだ。
 憲法調査会側がこうした姿勢を見せている背景として、党内には〈1〉宮沢派に所属する栗原氏が、小沢調査会の答申は「護憲派」の宮沢首相にとって重荷になりかねないとの懸念をもっている〈2〉小沢氏の“突出”に対し、憲法問題の論客を自任する栗原氏が不快感を持っている――などのため、といった見方も出ている。いずれにしても、「正面突破」の手法で急激に力をつけてきた小沢氏に対する党内の反発が底流にあることは否めず、小沢調査会を取り囲む環境は決して穏やかではなさそうだ。


 
 
 
 
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