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1991/05/02 読売新聞朝刊
憲法 「国際貢献」で意識変化も/読売新聞社全国世論調査
 
◆改正の是非 非改憲派なお5割 改憲派は「押しつけ」45%
 今の憲法の改正の是非については、「改正する方がよい」が33%に対し、「改正しない方がよい」は51%で非改憲派の方が上回る。しかし、五年前の八六年調査に比べると、改憲派は11ポイント増え、非改憲派は6ポイント減るなど、憲法の受け止め方にかなりの変化がうかがえる。
 改憲派の理由(複数回答)のトップは「アメリカに押しつけられた憲法だから」で45%。五年前に比べて7ポイントの増加だ。世界第二位の経済大国になった現在、占領下にアメリカの影響のもとに制定されたといわれる現憲法にもの足りなさを感じ取っているのだろうか。
 年代別では、この理由は高齢になるほど増え、二十歳代37%に対し、七十歳以上では62%と大きな開きがある。
 二位の「権利の主張が多すぎ、義務がおろそかにされているから」は36%で五年前より7ポイント減だが、三位の「国の自衛権を明記したり、本格的な軍隊を持てるようにするため」は21%で4ポイントの増。世界情勢がポスト冷戦で動きながら、こうした考えが増える背景には、今国会での中東貢献策をめぐる論議で自衛隊のあり方が改めて問われ、「戦争放棄条項」と自衛権、多国籍軍への後方支援や国連平和維持活動(PKO)参加問題が大きくクローズアップされたことがあるようだ。
 この理由は自民党支持層では26%だが、野党支持層では極めて少ない。
 これに対し、非改憲派の理由(同)としては、「すでに国民の中に定着しているから」が最も多くて55%にのぼる。これに「世界に誇る平和憲法だから」41%、「基本的人権、民主主義が保障されているから」31%−−と続く。
 このうち、五年前との比較で大きな変動がみられるのは、「−−平和憲法だから」で、10ポイントもの伸びをみせている。自衛隊の後方支援を企図した、湾岸危機に伴う国連平和協力法案が見送られた経緯などが、非改憲派の人々に平和憲法の存在を強く印象づけたのであろうか。
 支持政党別にみると、「−−平和憲法だから」は自民支持層38%に対し、社会、公明、共産、民社支持層は44―78%と自民支持層をかなり上回る。他の理由は、五年前とは3ポイントの増減にとどまっている。
 
◆第九条と自衛隊 3割が「自衛権明記を」 社党支持者も48%「合憲」
 昨年来の湾岸問題をめぐる自衛隊の海外派遣論議では、戦争の放棄をうたった憲法九条との関係が最大の焦点となってきた。
 今回の調査では、「憲法違反ではないと思うが、国の自衛権を明記するため、憲法を改正する」が、五年前の八六年調査に比べ、11ポイント増の32%でトップとなり、五年前にトップだった「合憲とみてよいから、憲法の改正は必要ない」は、9ポイント減の29%で二位に落ち、順位が入れ替わった。
 この二つを合わせたものを合憲派と見ると、五年前の調査に比べ2ポイント増の61%。一方、「憲法違反だから、もっと規模を縮小する」(15%)と「憲法違反だから、順次、廃止の方向へもっていく」(7%)を合わせた違憲派は、1ポイント増の22%で、この設問に見る限り、合憲派、違憲派の割合に大きな変化はない。
 こうしたことを考え合わせると、今回の派遣論議を通じて、自衛隊は合憲であるものの、その役割については、なし崩し的な憲法解釈の変更でなく、しっかりと憲法で規定し直すべきだとする意見が、国民の間ににじみ出てきたことがうかがえる。
 これを支持政党別にみると、自民党では合憲派が同5ポイント増の72%、違憲派が同5ポイント増の13%、社会党では合憲派が同4ポイント増の48%、違憲派が同3ポイント減35%で、中でも、自衛隊違憲・合法論を掲げる社会党で、合憲論が五割に迫っているのが注目される。
 また、男女別では、各項目とも2ポイント以内の差しかない中で、「自衛権明記のため、憲法改正」だけで、男性37%、女性28%と大きな意識の差が出ており、その分、女性では「わからない・答えない」が多くなっているのが目立った。
 
◆国際新秩序の中で 「そぐわぬ面」30歳代52% 野党支持層にも拡大傾向
 湾岸戦争を機にわが国の国際貢献のあり方が憲法との関連で大きな問題となり、国際的にも論議を呼んだ。各党も国連平和維持活動(PKO)への参加、経済援助、難民救済などの案を模索中だが、いまの憲法が「最近の新しい国際情勢にそぐわない面がある」という意見について聞いたところ、「その通りだと思う」が45%で、「そうは思わない」の39%を6ポイント上回った。
 どういう点が国際情勢にそぐわないか、今回の調査では特に聞いていないが、国会の論戦の核心だった自衛隊派遣の是非もその一つ。
 「その通りだと思う」は、世代間の差が見られる。二十歳代から四十歳代は、三十歳代の52%をピークに全体平均を上回っているのに対し、五十歳代以上はいずれも全体平均を下回り、しかも年代が上になるにつれて減り、七十歳以上では32%と低い。
 五十歳代以上は悲惨な戦争体験があるだけに、平和憲法を固定的にとらえ、自衛隊の活用に敏感になっているものと考えられる。
 また、支持政党別では、自民支持層が47%で最も多いが、野党支持層でも社会、公明、民社は「その通りだと思う」が「そうは思わない」を上回る傾向にある。
 
◆三権分立 正常機能に4割が懸念 「裁判所が弱すぎる」28%
 国会と裁判所の制度は、昨年、それぞれ創設百周年を迎えた。そこで、憲法が掲げる大原則である立法(国会)、行政(内閣)、司法(裁判所)の「三権分立」の仕組みが、正常に機能しているかどうかを、今回初めて聞いた。その結果、「きちんと働いている」が40%、「そうは思わない」が41%で、肯定派と疑念派にほぼ二分された。
 ここから直ちに、三権分立が正常に機能していないとはいえないが、少なくとも国民の四割が、その実態に疑念を持っているのは明らかで、関係当局の姿勢が問われているといえよう。
 それでは、疑念を持っているのはなぜか。「そうは思わない」とした人に、どの権力が強すぎたり弱すぎたりしているためか、いくつでもあげてもらった。
 その結果、「内閣が強すぎる」が34%で最も多く、次いで「裁判所が弱すぎる」28%、「国会が強すぎる」26%−−の順で、特に「内閣」について「強すぎる」、「裁判所」について「弱すぎる」が目立った。
 「内閣」については、湾岸戦争の際に、避難民救済用の自衛隊機派遣などデリケートな問題に、政府が政令の手直しで対応しようとした姿勢が、突出の判断につながったのだろうか。
 「裁判所」については、一票の格差をめぐる訴訟で相次いで合憲の判断が下されるなど、違憲立法審査権が行使されるケースが少ない点が、国民の目には“内閣・国会への配慮”と映ったものとみられる。
 
◆法の下の平等 差別感は徐々に減る
 「法の下の平等」という憲法の基本精神に反するような不合理な差別や不平等があるかどうか、いくつでもあげてもらった。
 その結果、〈1〉「学歴」34%(八六年44%)〈2〉「国籍」23%(同25%)〈3〉「心身障害」22%(同25%)〈4〉「身分・家柄」20%(同24%)〈5〉「職業」17%(同22%)――が上位を占め、「とくにない」は25%(同22%)だった。
 五年前に比べ、おおむね減少傾向にあるのが特徴で、中でも「学歴」は11ポイントも減った。一方で、「とくにない」が増えており、徐々にだが、差別や不平等は少なくなっているといえそうだ。
 男女別でもほとんど差はないが、「性別」で男性が六位の14%だったのに対し、女性が五位の18%と多かったのが目立った。
 
◆憲法を読んだか 「読んだことない」38%
 憲法問題を考える時、出発点となるのは「憲法をどれだけ知っているか」。
 そこで、憲法をどの程度読んだことがあるかを聞いたところ、程度の差こそあれ、五人に三人(61%)が読んだことがあると答えたが、一方で「読んだことはない」人も38%に上った。これは、十年前の八一年調査とほぼ同様で、湾岸問題をめぐる憲法論議にもかかわらず、国民の関心は意外に低調、ともいえそうだ。
 読んだ程度は、「一部」が最も多く42%(八一年調査40%)、次いで「一通り」15%(同16%)、「よく」3%(同2%)。男女別では、女性に「読んだことはない」が多く、男性を14ポイントも上回る45%。
 
◆どんな点に関心 「戦争放棄」14ポイント急増
 さまざまに論議される憲法問題。その中で、国民が特にどんな点に関心を持っているか、いくつでもあげてもらった。その結果、〈1〉「戦争放棄、自衛隊、徴兵制」51%(八六年調査37%)〈2〉「環境」28%(同19%)〈3〉「生存権、社会福祉」22%(同28%)〈4〉「天皇や皇室」22%(同11%)〈5〉「平等と差別」20%(同21%)−−が上位を占めた。
 五年前の前回八六年に比べ、自衛隊の海外派遣論議で注目を浴びた「戦争放棄……」が14ポイント、大喪の礼、即位の礼など一連の皇室行事が続いた「天皇や皇室」が11ポイント、「環境」が10ポイント増えたが、その他は軒並み減少、または横ばいとなっている。
 
◆大すじで良いか 改憲派でも75%肯定
 改憲派が五年前に比べて大幅に増え、三割強にも達するわりには、今の憲法を「大すじとして良い」と評価する人は83%にのぼり、象徴天皇制、議院内閣制、基本的人権の保障などの憲法の基本理念は大方に支持されている。このことは、改憲派でも75%が「大すじとして良い」としていることでもうかがえる。「大すじとして悪い」はわずか7%に過ぎない。
 年代別では、「大すじとして良い」は二十歳代が86%で最も多く、六十歳代を7ポイント、七十歳以上を4ポイント上回り、世代間の憲法感覚の差がわずかながらみられる。なお、「大すじとして良い」は自民党支持層でも86%にのぼる。
 
〈質問と回答〉(数字は%)
 
◆あなたは、いまの日本の憲法を、どの程度読んだことがありますか。
 
・よく読んだ 3.4
・一部読んだことがある 42.4
・一通り読んだ 15.1
・読んだことはない 38.1
・答えない 1.0
 
◆あなたは、いまの日本の憲法のどんな点に関心をお持ちですか。次の問題は、全て憲法に関係するものですが、あなたがとくに関心をお持ちの問題を、いくつでもあげて下さい。
 
・天皇や皇室の問題 22.1
・選挙制度の問題 16.3
・戦争放棄、自衛隊、徴兵制の問題 51.0
・裁判の問題 8.2
・平等と差別の問題 19.7
・靖国神社への公式参拝の問題 14.4
・言論、出版、映像などの表現の自由の問題 13.3
・憲法改正の問題 13.0
・情報公開の問題 8.1
・三権分立の問題 5.9
・プライバシー保護の問題 14.7
・地方自治の問題 8.2
・生存権、社会福祉の問題 22.4
・環境問題 28.1
・集会やデモ、ストライキ権の問題 3.6
・その他 0.4
・とくにない 14.2
・答えない 2.7
 
 ◆あなたは、いまの日本では、憲法にある「法の下の平等」の精神に反するような不合理な差別や不平等があると思いますか。もしあれば、次の中から、とくに著しいと思うものを、いくつでもあげて下さい。
 
・思想・信条 8.4
・学歴 33.5
・選挙制度 9.3
・宗教 8.5
・職業 16.8
・国籍 22.5
・身分・家柄 20.1
・心身障害 21.8
・その他 0.5
・性別 16.2
・地域 8.2
・とくにない 25.2
・答えない 5.4
 
◆いまの憲法は、立法、行政、司法という三権分立を定めており、立法を行う「国会」、行政を行う「内閣」、司法を行う「裁判所」がそれぞれ独立した機能をもちながら、互いに仕事内容をチェックできる仕組みをとっています。あなたは、この三権分立の仕組みが、現在、きちんと働いていると思いますか、そうは思いませんか。
 
・きちんと働いている 40.2
・そうは思わない 40.5
・答えない 19.3
 
◇【前問で「そうは思わない」と答えた人だけに】では、この仕組みがきちんと働いていない原因として、国会、内閣、裁判所のどれが、強すぎたり弱すぎたりしているからだと思いますか。次の中から、そう思うものを、いくつでもあげて下さい。
 
・国会が強すぎる 25.5
・国会が弱すぎる 16.7
・内閣が強すぎる 34.2
・内閣が弱すぎる 15.8
・裁判所が強すぎる 2.8
・裁判所が弱すぎる 28.1
・答えない 7.8
 
◆憲法九条の戦争放棄の規定と自衛隊の関係について、次のような意見があります。あなたのお考えに最も近いものを、一つだけあげて下さい。
 
・本格的な軍隊を持てるように、憲法を改正する 2.9
・いまの自衛隊は、憲法違反ではないと思うが、国の自衛権を明記するため、憲法を改正する 32.0
・いまの自衛隊は、合憲とみてよいから、憲法の改正は必要ない 28.6
・いまの自衛隊は、憲法違反だから、もっと規模を縮小する 14.7
・いまの自衛隊は、憲法違反だから、順次、廃止の方向へもっていく 7.4
・その他 0.4
・答えない 13.9
 
◆あなたは、いまの憲法を改正する方がよいと思いますか、改正しない方がよいと思いますか。
 
・改正する方がよい 33.3
・改正しない方がよい 51.1
・答えない 15.5
 
◇【前問で「改正する方がよい」と答えた人だけに】あなたが、改正する方がよいと思う理由は何ですか。次の中から、いくつでもあげて下さい。
 
・アメリカに押しつけられた憲法だから 45.4
・国の自衛権を明記したり、本格的な軍隊を持てるようにするため 21.3
・権利の主張が多すぎ、義務がおろそかにされているから 35.5
・天皇の権限を強めるため 3.1
・その他 7.2
・答えない 7.7
 
◇【前問で「改正しない方がよい」と答えた人だけに】あなたが、改正しない方がよいと思う理由は何ですか。次の中から、いくつでもあげて下さい。
 
・すでに国民の中に定着しているから 54.5
・世界に誇る平和憲法だから 41.4
・基本的人権、民主主義が保障されているから 31.4
・時代の変化に応じて、解釈、運用に幅をもたせればよいから 19.6
・その他 0.5
・答えない 2.9
 
◆あなたは、いまの憲法は、大すじとして良いと思いますか、悪いと思いますか。
 
・大すじとして良い 82.6
・大すじとして悪い 7.4
・答えない 10.0
 
◆いまの憲法について、「最近の新しい国際情勢にそぐわない面がある」という意見がありますが、あなたは、その通りだと思いますか、そうは思いませんか。
 
・その通りだと思う 44.9
・そうは思わない 38.5
・答えない 16.6
 
[調査方法]
 ・調査日=3月23、24日
 ・対象者=全国の有権者3000人(250地点、層化多段無作為抽出法)
 ・実施方法=個別訪問面接聴取法
 ・有効回収数=2098人(回収率70%)
 ・回答者内訳=男47%、女53%▽20歳代15%、30代19%、40代23%、50代20%、60代15%、70歳以上8%▽大都市(東京区部と政令指定都市)19%、中都市(人口10万人以上の市)37%、小都市(同10万人未満の市)19%、町村25%


 
 
 
 
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