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1957/08/13 読売新聞朝刊
[社説]ひろく委員外の意見を聞け
 
 憲法調査会がいよいよきょうから審議に入ることになった。会長の人選も問題だが、やはり何といっても、これからの議事の運営をどうするか、という事の方が問題である。委員の中から、多数決で調査会としての意思をいそいで決めるようなことをせず、少数意見も同時に公表せよとか、会議を公開にせよ、とかの意見が出ている。いずれも大いに賛成である。なぜかといえば、次の理由でこの調査会の多数決による結論はあまり尊重するわけにゆかないからである。
 第一に社会党が参加しないことで、この委員会は実質的には自民党付属の調査会の観を呈している。更に多くの憲法学者や改正に消極的な学者達が、東大の現役教授などを含めて参加していない。改正論者の中でも有力な試案を発表している広瀬久忠氏なども、政党内の割振りというくだらない原因のために参加していない。会長も候補者を追い回して、ことごとく断られていること。五十人の定員にもかゝわらず、三十九人という中途半端な数で発足せざるを得なかったことなどが、一番よくこの調査会の正常でない姿を物語っている。それに委員はすべて政府の気まゝな人選できめられている。多くの権威者が参加しているのは事実だが、そういう性質の調査会の多数決の結論にどれ程の権威があるかはなはだ疑問である。この点は政府の他の調査会や審議会が持っている欠陥と同じである。憲法のような重要な国の基本法の改正を審議するに当ってそういう権威のない多数決でものが決められてゆく事は賛成しかねる。またそうすれば社会党も参加出来るはずだ。
 更に、この調査会がこういうふうに、どちらかといえば片寄った性格のものである点と関連して、運営の仕方について、こゝに一つの提言を試みたい。それは委員だけの意見をまとめるという行き方でなく、広く委員の人選に入らなかった委員外の権威者の意見を徴して、委員の方はむしろこういう意見を消化して、これを取りまとめる役割に回ることである。その方法は公聴会という形式を活用するもよし、調査会が礼を厚くして、あらかじめ調査、研究を依頼しておき、適当な機会に調査会に招くなり、いくらでも方法はあるはずである。
 こうしてだれの目にも、一政府の片寄った人選で構成した調査会の結論ではなく、広く信頼に値する知能が動員された結論はこうである、というものを作り上げることである。そういうことになれば、当然社会党側の意見も徴するし、いわゆる進歩的学者、文化人と称せられる人々の意見も聞くということになるから、これが公正にまとめられれば、国民もこの結論を尊重するし、社会党もこれを無視するわけにはゆかないだろう。
 伝えられる岸首相のこの調査会に対する考え方も、改正案の作成を急ぐのではなく、占領下に作られた憲法を一度自主的に再検討して、改正論、反対論の根拠を明かにし、国民が正常な判断が出来るような調査報告を作ることを望んでいるという。そうだとすれば前記の提言のように、調査会が広く外部の意見を聞くことはなおさら必要になる。なぜならば、こんどの委員の中には改正に比較的消極的な意見の持主が少数参加しているだけで、強硬な反対論者はことごとく委員たることを拒んだのであるから、改正反対論の根拠を撤底的かつ詳細に明かにするためには、いやでも委員外の意見を徴しなければならない。その際一部反対論者の著書の一部や寄稿などを断片的に取上げるより、正式に本人からその意見を徴した方がいいにきまっている。改正反対論者の中で、これに応じない者はおそらくあるまい。社会党の不参加の重要な理由が、多数決による結論に責任を負わされる点にあるとすれば、この不参加の理由は成立たないし、意見を聞かれて答えられないような自信のない学者の意見なら聞かなくても問題にするに当らぬからである。


 
 
 
 
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