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1999/07/07 毎日新聞朝刊
[社説]憲法調査会 未来見つめ広範な論議を
 
 衆院に憲法調査会を設置するための国会法改正案と憲法調査会規程案が衆院本会議で可決された。
 参院でも同様の調査会が設置される見通しで、両調査会は来年1月の通常国会からスタートする。
 戦後、内閣に憲法調査会が作られたことはあるが、国会に設置されるのは初めてのことだ。
 共産党と社民党は設置に反対したが、自民党、民主党、公明党・改革クラブ、自由党の4会派は賛成した。この4会派の議員数を足せば衆院で9割に達する。
 戦後長く、日本国内では改憲か護憲かをめぐり保守・革新勢力間のイデオロギー論争が繰り広げられてきた。しかし、国際的には東西冷戦が終結し、国内的には自社両党による55年体制が崩壊した結果、憲法論議に関する政党間の垣根が低くなったということだろう。
 憲法論議の場をめぐって自自両党は当初、調査会ではなく常設の委員会を設置しようとした。委員会だと改憲のための議案を提出できる。そこに、改憲論議を急ぎたいとの計算が働いていたことは明らかだ。
 事実、自民党内では一時、棚上げされた自主憲法制定の動きが再び頭をもたげている。自由党も憲法改正手続きを定めるための国民投票法案を検討中である。
 最終的に、改憲という前提をつけずに「憲法について広範かつ総合的に調査する」という調査会方式に落ち着いた。
 設置期間についても「2、3年にすべきだ」とする自民、自由両党と「5年もしくは10年ぐらいかけるべきだ」とする民主、公明両党とに分かれたが、5年間程度で決着した。
 憲法には、憲法が保障する自由や権利の保持について国民に不断の努力を求める規定がある半面、改正条項もある。そうである以上、国民主権のもと国権の最高機関である国会が憲法について幅広く論議するのは当然といっていい。
 また調査会の期間を5年間程度としたのは理解できる。拙速であってはならないと考えるからだ。
 しかし、そうした経緯や条件は認めるとしても、調査会設置にはなお危惧(きぐ)や懸念がつきまとう。代表例は、自民党などの真の狙いが「憲法改正のための地ならし」にあるのでは、という点だ。憲法の全体像を未来志向で見るのではなく、第9条を中心に改憲を急ぐ考え方が垣間見える、そんなところに国民の多くが危惧を持っているのではないだろうか。
 調査会の論議では、平和主義、国際協調主義など戦後、憲法が果たした役割を評価しつつ、本当に憲法の理念を現実の政治の場に生かしきってきたのか率直に反省する視点が大事ではなかろうか。より望ましい憲法とは何か先入観を持たずに冷静に議論することもまた必要だ。
 調査会の運営についても懸念が残る。調査会は原則公開としながらも「必要があれば非公開にすることができる」としている。憲法を論議するのに非公開とすべき場面があるとは思えない。不必要な規定といっていい。調査会は公平かつ公正で、透明性の高い運営に徹するべきだ。
 憲法論議とは、最終的には21世紀を見据えた日本のあり方や国家像を政治家同士で論じ合うことでもある。歴史に堪え得る論議を展開できるかどうか、国会自身の構想力、創造力が試されるに違いない。


 
 
 
 
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