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1997/05/24 毎日新聞朝刊
[社説]憲法議連 まず結論ありきでは困る
 
 超党派の衆参両院議員で構成する「憲法調査委員会設置推進議員連盟」(憲法議連)が23日に発足した。設立総会には、社民、共産両党を除く195人(代理の55人を含む)が出席した。設立趣意書はいう。
 「憲法論議は国権の最高機関たる国会で、党派を超えた全国民的立場でなされるべきであり、真摯(しんし)に論議することこそが、政治家に課せられた最大の使命だと考える。このような観点から国会に、現行憲法の基本原則を尊重しつつ、制度等について調査・検討するため、『憲法制度調査委員会』を常任委員会として設置することが極めて重要であると考える」
 われわれは国会の場で憲法論議を真剣に展開することそれ自体には何の異存もないし、むしろ大歓迎だ。 しかし額面通りに受け止めるわけにはいかないのも事実である。
 趣意書の文中には「改憲」の文字は出てこないが、憲法改正を視野に入れているのは間違いないようだ。 そしてそのためにこそ「憲法制度調査委員会」を常任委員会として設置したいということではないか。
 なぜなら趣意書ではその前段で、冷戦構造崩壊に伴う国際環境の変化や、憲法と現行法制との乖離(かいり)などをるる指摘し、時代遅れの憲法を現実の側に引き寄せようという意図が色濃く反映されているからである。
 「改憲に道を開く」として不参加の社民、共産両党はともかく、参加した各党の中ですら「議連はまず改憲ありき、ではないか」との疑念を持つ議員が多いのである。
 会長に選出された中山太郎元外相(自民党)は「論議は急がず、逐条主義でやる。条文ごとに21世紀に通用するのか、議論したい」という。
 確かに9条に限らず、環境権、人格権問題や、私学助成に関する89条など、50歳の憲法には数多くの課題がある。
 しかし逆に、憲法が規定した基本的人権の尊重など、いまだに実現されていない部分もまた多い。そして冷戦終了で憲法が初めて輝きを取り戻せるという正反対の角度からの視点も憲法議連には欠落している。
 そもそも、国会での憲法論議とは日々の法律や政策を巡る論議そのものであり、国会論戦の眼目とは憲法にどう向き合うか、と同義語だ。それをお座なりにしたまま突然、声高に「憲法論議は政治家に課せられた最大の使命」と言われても、戸惑うのである。
 一方、議連の発足を機に「保・保連合」の動きを加速しようとの思惑や、集団的自衛権の行使の道を開く狙いもあるようだ。
 こうした目先の思惑優先で、憲法論議を展開することは断じて避けてほしいが、憲法をどう考えるかは政治理念の根幹に触れる問題である。
 従って、憲法論議が政界再編につながっていくことは必然だし、憲法観を同じくする議員集団としての政党に整理されていくことは、ある意味では望ましいことであろう。
 議連の趣意書に賛同しているのは23日の設立総会に出席した195人を100人近く上回っているが、それでも全議員の4割弱だ。社民、共産両党も含めて、全議員が加われるような敷居の低い議連になれば、それこそ虚心坦懐(たんかい)に議論できるのではないか。しかしそうなったら議連発足を「改憲の一里塚」と考えている向きからは、趣旨が違うと異論が出てくるのかもしれないが。


 
 
 
 
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