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1995/08/11 毎日新聞朝刊
[特集]社説にみる戦後50年/5 新憲法 国民への浸透を淡々と訴え
 
 「平和な文化国家を目指す新日本の基盤たる新憲法が天下に公布された。革命的内容を有する新憲法の施行を前にして国民が真剣に考へるべきことは、国民がいかにすればこの新憲法の規定に適合し得るかの問題だ。公布は日本国民にとつて最大の喜びであるが、決して歓呼乱舞すべきお祭りではない。全国民はこの日を期して過去の非道を反省し、新憲法に基づく新日本の在り方について深甚なる考慮を払ふべきだ」(一九四六年十一月三日)
 
 「けふは日本国民にとつて永く記念せられるべき日となつた」の書き出しで始まる新憲法公布日の社説は、新憲法の柱として象徴天皇制の確立、主権在民、戦争放棄、基本的人権の尊重の四点を挙げ、「これら新憲法のどの一項目を取り上げてみても、過去並びに現在の日本の制度、慣行と比較して甚だしく進歩的であり、革新的であることは間違いない事実である」と民主憲法の画期的な意義を高く評価し、歓迎した。
 しかし、今日から見て奇異に感じられるのは、これほどの革命的な出来事である割には、社説は感激もあらわに賛美一本調子に流れることなく、むしろ「新憲法の公布は決して歓呼乱舞すべきお祭りではない」として、新憲法をいかにして国民のものとして根づかせていくか、いかに新しい日本を築いていくべきか、の重要性を淡々と訴えている点が印象的ですらある。
 ただ、気になるのは、新憲法が内包する問題点について論じた部分がほとんど見られない点である。新憲法の欠点を突いた言論を許さなかったGHQの検閲下にあった事情をうかがわせる。
 人類の高い理想を掲げた新憲法への全面評価でスタートしたが、間もなく日本が米ソ冷戦という厳しい現実に巻き込まれていく中で社説もまた、憲法改正か、解釈改憲かという苦しい選択を余儀なくされていく。
 特に憲法第九条「戦争の放棄」をめぐっての論議に象徴的で、社説は一貫して平和憲法擁護の立場から憲法改正に否定的な論調を取ってきたが、それは逆に解釈改憲の積み重ね追認の批判も生んだ。古くは再軍備、ベトナム戦争、沖縄返還などであり、最近では湾岸戦争での憲法論議にその相克は鋭く表れた。
 理想と現実のはざまの中で平和憲法の理念をどう追求していくか、その作業は重い問いかけとなって今もなお続いている。


 
 
 
 
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