日本財団 図書館


2日目シンポジウム
「市町村が主役の時代へ 〜進む地域精神保健福祉への課題〜」
上野原町の精神福祉(ホームヘルプサービス)への取り組みについて
上野原町役場
保健師 白鳥恵美子
 
【1】上野原町の概況
 1 沿革
 上野原町は、昭和30年に町村合併促進法に基づき、1町7村が合併し、現在の町が形成され、旧町村は、行政区分として現在もその名を残しています。町の広さは、東西15.3km、南北16.6km、面積125.5km2を有し、その約80%を山林原野が占めています。
 
 2. 位置及び環境
 上野原町は、山梨県の最東端に位置し、東は神奈川県藤野町、北は東京都桧原村と境を接し、山梨県への東の玄関口となっています。首都圏の業務核都市地域である、多摩地域の中核都市に位置づけられている八王子市や立川市まで、JR中央線で30〜40分の位置にあるため、駅のある島田・巌地区及び、中央高速道路と国道20号線(甲州街道)沿いに位置し、町の中心地である上野原地区の人口は増加しています。反面、市街地から遠くに位置する棡原・西原地区は、人口の過疎化・高齢化が進んでおり、地区によって福祉医療等抱える問題が多種多様となっているのが上野原町の特徴です。
 
 3. 医療
 上野原町内には、病院として総合病院である町立病院(150床)が1ヵ所と、精神・神経科病院(260床)が1ヵ所あります。また、首都圏に近いという位置条件から、都内へ通院している方も多くなっています。
 
【2】上野原町の精神ホームヘルプサービスへの取り組み
 今年度より、精神保健福祉に関する事務等が県から市町村へ移管され、精神保健福祉手帳の申請・更新窓口や、ホームヘルプサービス・ショートステイといった福祉サービスの相談窓口として、市町村の役割が位置づけられました。
 上野原町においては、精神疾患を有する住民に対し、平成10年6月より、町が委託した社会福祉協議会にいる障害担当ホームヘルパーを派遣し、各種のサービスを提供しています。
 ホームヘルパーの派遣開始は、独居で当時40歳代の統合失調症の男性の方が、社会福祉協議会に生活全般の相談の電話をかけてきてくれたことがきっかけとなっています。
 1 ホームヘルパー派遣までの経緯
 Nさん(当時40歳代)が、「両親が亡くなってしまい、一人でどうしてよいのか不安である。家事も上手くできない。」といった不安を社会福祉協議会に相談。
 社会福祉協議会専門員、町の福祉課職員、保健師、ホームヘルパー及び親族(叔父)が集まり、処遇検討会を開き、「Nさんが一番不安に思っている家事について先ず手助けをしよう。」ということで、本人とも相談の結果、ホームヘルパーが10日に1回程度訪問することとなる。
 当初は、保健師がホームヘルパーと同伴で訪問し、Nさんからの相談等を受けたり、身体状況等の把握に努めた。またNさんについても、他人が家に入る事への不安があったため、その解消に努め、ホームヘルパーに慣れてもらうような働きかけをした。
 派遣に当たっては、当時担当であった、大月保健所の精神相談員への連絡や、主治医であった町内の精神科医及びケースワーカーとの連絡とともに、ヘルパーが訪問している上で、病状の変化や本人の訴えがある時は、すぐに保健師または主治医に連絡するような体制をつくった。また、町内に住む叔父にも連絡をとるようなシステムとした。
 ホームヘルパーが訪問する上で、「何もかも手を出すのではなく、家事援助についても、本人ができることは一緒に行う(本人のできること、本人の良いところを引き出す)。」ようにするということを前提にサービスを提供している。そのため最近では、本人も率先して台所に立ち、ホームヘルパーと一緒になって家事を行ってくれている。
 本人の希望により平成13年度からは週1回、今年度からは週2回の訪問となっている。
 
 2 障害担当ホームヘルプサービス開始までの流れ
(1)申請
役場福祉保健課に「ホームヘルパー派遣申請書」を提出
(2)初回訪問
必ず町の福祉担当保健師と障害担当ホームヘルパーで同伴の初回訪問を行う。この初回訪問時に、サービス希望などについて本人や家族から話を聞くとともに、今後の訪問回数やサービス内容を決定している。また、訪問する上で健康上注意すべき点などについても、初回訪問時に確認する。
(3)派遣決定
役場から派遣決定通知書が発行されるが、緊急性のある場合などは、この発行を待たずに訪問が開始される。
  
 3 障害担当ホームヘルプサービスのサービス内容
(1)家事援助
食事の支度、掃除、洗濯、衣類の補修、買い物等の家事全般
(2)身体介護
食事の介護、排泄の介護、衣類着脱の介護、入浴の介護、身体の清拭及び洗髪、医療機関への受診介助、薬届け等
(3)相談助言
生活・身上又は介護に関する相談及び助言
  
 4 現在の状況
 現在上野原町では、サービス開始のきっかけをつくってくれたNさんをはじめ、統合失調症の方3名と躁うつ病の方1名の計5名の方に、ホームヘルパーが訪問し、各種のサービスを提供しています。
 
 5 ホームヘルパーが導入されて
(1)本人や家族だけでは判らなかったサービス等の利用が広まった。
・ホームヘルプサービスが始まったことにより、配食サービス等といった他の町の福祉サービス等が利用できるようになった。
・精神保健福祉手帳の取得手続きに保健所まで行けなかった方が、その申請・取得ができた。
・仕事も無く家でブラブラしていた軽度の知的障害者の息子が、福祉作業所に行けるようになった。
(2)ホームヘルパーの訪問により、統合失調症の妻を少しずつ受け入れ、家事に協力的になってきた家族もいる。
(3)ホームヘルパーを姉または母親のように慕い、ホームヘルパーの訪問により、日常生活にメリハリが出て、訪問を心待ちにしているという方もいる。
 
 6 まとめ
 上野原町においては、国の施策や山梨県で行ったモデル事業に先駆けて、町独自で、精神疾患の方に対しても、ホームヘルプサービスを開始しました。現在サービス利用者は少数ではありますが、その数は徐々に増加し、確実にサービスの成果は上がっております。その影には、ホームヘルパー達の前向きな姿勢や、大月保健所及び各種医療機関のご理解・ご協力をいただけたこととともに、精神疾患を有する患者の家族の方々の暖かい受け入れにより、サービスが根付いてきたものと考えられます。
 しかし、上野原町のホームヘルプサービスにおいては、まだ、精神疾患を有する方やその家族といった個に対する関わりが主になっているのが現状です。
 今後は、上野原町にある「上野原町友の会」や大月保健所管内にある「つるの会」といった家族会に対する活動への協力・支援等を一層深めることなどにより、精神疾患を有する方たちやその家族が安心して地域で生活できるよう、地域支援のネットワークづくりを行う必要があります。また、ホームヘルプサービスのみならず、町内に精神・神経科の病院があるという好条件を生かし、その他の福祉サービスも開始できるよう準備を進めていきたいと考えています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION