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田んぼに來るシギ・チドリ類の観察
 シギ・チドリ類はオーストラリアや東南アジアで冬ごしし、ゴールデンウィークのころ日本の干潟や田んぼに渡ってくる。そのころの田んぼは田植えのために水が張られているので、田んぼはシギ・チドリ類が餌をとるのに必要な浅い水辺になっている。今回はこのシギ・チドリ類を観察しよう。
 古瀬近くの田んぼで多く見られるのは、ムナグロ(チドリの仲間)、キョウジョシギ、キアシシギ(シギの仲間)である。これらの鳥はどんな場所で餌をとっているだろう。ヨシの生えているところや水が深いところにいるだろうか。
 
図 古瀬近くの田んぼで多くみられるシギ・チドリ類
 
鳥が生活する場所は翼の形と関係がある
 ツバメやハヤブサのように、細長くて先のとがった翼を持つ鳥は、速く飛ぶことができる。これは図のような紙飛行機を飛ばしてみるとわかる。でも速く飛ぶには障害物があると飛びにくい。そこでツバメもハヤブサも障害物のない開けた場所で餌をとり、林のなかなどには入っていかない。
 シギ・チドリ類も細長くて先のとがった翼を持ち、速く飛ぶことができる鳥である。だから水辺があってもヨシが生えているところには入っていかない。
 
図 速い速度で飛ぶ紙飛行機と鳥
 
餌をとる水辺の水深は嘴(くちばし)の長さと関係がある
 シギ・チドリ類の多くは、餌をとるときに顔を水のなかまで入れることはしないので、嘴(くちばし)の長さより浅い水辺でしか餌をとることができない。
 嘴(くちばし)の長さは、ムナグロが20-27mm、キョウジョシギが20-25mm、キアシシギが33-39mmだから、ムナグロやキョウジョシギが餌をとることができる水辺は、ごく浅いものに限られる。
 水深が浅いと、水辺はすぐにヨシのように背の高い草でおおわれてしまう。また少しでも水位が下がると湿地ではなくなってしまう。でもゴールデンウィークに田植えされる田んぼでは、シギやチドリが渡ってくる4月末には、耕されて草のない状態になっている。まだ水が張られ、イネの中苗が水に沈まない深さに水深が管理されている。だからこのころ渡ってくるシギやチドリは、田んぼで餌をとることができるのだ。
 
水路に入ってくる魚(コイ・フナ類)の観察
 小貝川では田んぼに水を入れるためにこの時期に水位を上げる。するとコイやフナが浅瀬や田んぼに入ってきて産卵する。この現象をノッコミという。
 コイ、フナ、ナマズ、ドジョウ、メダカなどは流れがない水辺で産卵する。それはこれらの魚の子どもは泳ぎがへたなので、少しでも流れがあると流されてしまうからだ。また水温が高い水辺に入って産卵するという性質を持っているが、水温が高い水辺は流れがない水辺でもあるので、この性質は流れがない水辺をえらぶうえでも都合がよい。
 古瀬の水と田んぼの水の水温を比べてみよう。古瀬は流れがないので小貝川より水温が高い。田んぼの水はもっと水温が高い。だからコイ、フナ、ナマズ、ドジョウ、メダカなどは田んぼにまで入ってくるのだ。田んぼの水はどうして温かいのかを考えてみよう。
 なお魚はノッコミ中であっても、足音がしたり動くものがあったりすると深みに逃げてしまうから、ノッコミを観察するにはじっとしていよう。
 
田んぼや野みちの植物
 広場に置いてあるポット植えの植物は、古瀬のまわりに生えているものばかりだ。これらの植物をよくおぼえ、ほんとうはどのような場所に生えているか調べてみよう。それぞれの植物は下に書いてあるような環境を好む。それをヒントに探してみよう。
 
(1)日当りのよい場所を好む
湿った場所を好む
タネツケバナ、ケキツネノボタン、ノミノフスマ、スズメノテッポウ、ゲンゲ(レンゲソウ)
乾いた場所を好む
踏みつけに強い・・・オオバコ、カゼクサ、シロツメクサ、チカラシバ、オオジシバリ、ヘビイチゴ
踏みつけに弱い・・・ハハコグサ、オニタビラコ、ナズナ、カラスノエンドウ、ギシギシ、スイバ
(2)半日陰にも耐えられる
ムラサキケマン、カキドオシ
 
植物が生える場所をえらぶわけ
 それぞれの植物は自分たちが好きな場所をえらんで生えているように見える。では植物はその場所が好きで生えているのだろうか。そのことをオオバコで考えてみよう。
 オオバコは野みちの轍(わだち)の部分に生えているが、他の場所では見ることができない。轍(わだち)の部分は、いつも車のタイヤで踏みつけられているので、土が固くて根が張りにくい。おまけにいつもタイヤで踏みつぶされている。オオバコを鉢植えで育てると、葉を大きく広げて生長する。だからオオバコは、ほんとうは柔らかい土が好きなことがわかる。
 オオバコと普通の草(たとえばヨモギ)をくらべてみよう。ヨモギは葉が茎から出ているので、茎を伸ばしさえすれば、葉を高い位置で広げることができる。いっぽうオオバコの葉は根際から出るので、葉を広げる位置は、葉柄の長さのところまでである。だから草地などで、オオバコとヨモギがいっしょに生えると、オオバコは光を求めての競争に負けてしまい、枯れてしまう。
 でも草地がみちになり、人や車が入ると、ヨモギなど茎が立つ普通の植物は、踏まれて茎が折れ、そこから上についている葉は枯れてしまう。だから茎が立つ植物は、生えている場所がみちになると生きていくことができない。
 いっぽうオオバコは茎が立たないので、踏まれても、葉柄がついているもとの部分から折れることがない。そして葉も葉柄も、踏みつけられても折れたりちぎれたりしない。だからオオバコは、踏みつけに弱い植物が生活できないような、みちの轍(わだち)の部分に生えるのだ。
 植物のなかでもオオバコはとくに踏みつけに強いが、カゼクサやシロツメクサもオオバコのつぎに踏みつけに強い。だから野みちを見ると、2本の轍(わだち)の部分にはオオバコが、轍(わだち)と轍(わだち)の間の部分、轍(わだち)とみちの端(路肩)の間の部分にはカゼクサやシロツメクサが多く生えている。そしてみちの端(路肩)の部分には、チカラシバ、オオジシバリ、ヘビイチゴなどが生える。野みちの植物は、このように踏みつけに強い順に並んで生えている。
 
踏みつけに強い植物の特徴を使ったことわざ
道に迷ったらオオバコが生えているほうの道をゆけ(長野県)。
 これはオオバコが生えている道なら人が通っている道であり、必ず人家に行き着くことを教えたことわざである。
この型の植物の特徴を使った遊び
オオバコ
すもう
葉柄をからませて引合い、葉柄が切れたほうが負け。
 
葉の筋のばし
葉柄の一部に切れ目を入れて引っ張ると、白い筋が何本も出る。この筋は維管束で、長いほうが勝ち。
 これらは維管束の丈夫さを使った遊びで、この丈夫さが踏みつけに強い理由である。
カゼクサ、チカラシバ 
葉の束を結びあわせ、そこに足を引っかけさせるいたずら。ただしこのいたずらは葉がもっと長くなった夏以降に行う。
 
 野みちは、人が歩いたり車が走ったりしないと、茎を立てることができる大型の植物が生えきて、野みち本来の植物は消えてしまう。これらの植物は、人が野みちを歩いたり草刈りしたりするおかげで生きていくことができる。
 
田んぼや畑に生える植物と野みちや草地に生える植物
 オオバコもカゼクサも、他の植物が生えることができない轍(わだち)でも生きていくが、畑には生えていない。それはこれらの植物は踏みつけに耐えられるよう、丈夫な根を持たなければならないので、多年生(何年にもわたって生きる)植物だからだ。多年生植物は毎年耕される畑では生きていくことができない。
 田んぼや畑に生える植物は、そのほとんどが1年間で寿命を終える1年生植物だ。またいつ耕されてもよいように、種子の状態で何年もの間、土のなかで眠っていて、耕されて種子が土の表面に出てくると発芽するという性質も持っている。
 それぞれの植物が持っている性質は、ある環境では都合がよいが、別の環境では都合が悪いというもので、一つのものさしだけで測れるという性質ではない。だから1種類の植物がすべてをおおってしまうということはなく、多くの植物がそれぞれに合った場所で生きていけるのだ。







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