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総論
(講師 藍 尚禮)
 
【講師紹介】
藍 尚禮(あい なおひろ)
 
元日本生物教育学会会長、東京学芸大学名誉教授
1932年 東京生まれ。理学博士(東京学芸大学)。東京教育大学大学院理学研究科(博士課程)を単位取得退学後、同年より群馬大学医学部生理学第二講座に勤務。東京教育大学理学部動物学教室助手、東京学芸大学教育学部(理科教育学科生物学講座)助教授を経て、1978年より東京学芸大学教育学部(理科教育学科生物学講座)教授に就任、1996年東京学芸大学名誉教授。
 
総論
環境教育は、野外教育、道徳教育をその中に含んでいるものと考えている人が多い。果たしてこれで誤りがないのだろうか。私たちは環境教育を積極的に推進させたい。そのための有為な人材を育てるということは、まさに急務ということである。「環境」とういことばに「教育」ということばを続けて「環境教育」とあまりにも安易なことばづくりは、たとえば「理科教育」「国語教育」「音楽教育」のそれとは実に著しく異なるのである。その理由のひとつは「環境教育」ということばの中には、教育内容の複雑さと、従来の学問体系にない複合的構造をもつ新鮮さがあるからである。
 
環境を科学するには、自然科学だけの手法ですすめられるはずはない。自然環境ということばに惑わされての誤解である。環境を考えるとき、その根底には、人文科学、社会科学それに加えて生活科学、心理学、教育方法論など、すでに体系の整っている分野の学問、方法論をどのように取り入れ科学としてまとめ、すすめるかが今日の課題であり明確にされなければならないということになろう。一言でいうならば、「環境総合科学教育」と位置づけられることが本旨に沿うものではないかと考える。とすれば、ただ単に野外でゲームに興ずること、野外で調査することだけが環境を学び、環境の保全を推進することにつながるという方程式は成り立たないことになろう。
 
環境を地球的規模で眺めると、
・地球に広がる熱帯林の激減
・地表に広がる砂漠化
・海洋汚染
・野外生物の希少化、絶滅、生物多様性の維持
・酸性雨
・化石燃料・人口爆発にともなうCO2濃度の増加
・地球レベルの温暖化
・オゾン層破壊にともなう紫外線の増加
・生活の利便性追求にともなう有害物質の増加
・有機塩素化合物などを原因とする奇形・形態異常の顕在化
 
このように枚挙にいとまのない地球の自然、人類の生命がとり返しのつかない“炎”の真っ只中に放り込まれていることに気づかされ、生き続けることの難しさに恐怖を感じさせられる。ここで、大多数の人びとは、これらに危機的状況の到来と受けとめてはいるものの、現実には感覚的な恐怖・修復させることへの難しさがあることを認識する程度ではないだろうか。原因がどこにあるのか?それを抑えることはできるのか?抑えることの困難さはどこにあるのか?そして、もしこの状況を放置しておくとすれば、その結末はどうなるのか?そして、われわれの生命は、地球の21世紀にも生存可能なのだろうか?脳裏を横切る課題は答えのないままに、ひたすら恐怖心をあおり、時に希望を失わせさえする。
 
人間社会が成長し、成熟してくるとき、経済の原則”最小の力で最大の効果を挙げる”を具現化する資本主義社会では極めて当たり前の状況が推し進められることになる。しかも、その裏にひそんでいる安易な利便性の追求に走る生活感の醸成には気づかぬままに過ぎ行くということになる。
 
 そこで、最も緊急を要することは、
 
イ)これら地球レベルで生じている問題の科学的な理解を、どのように進めることが必要か?
ロ)それぞれの問題点について、どのような対応を地域社会、国、地球レベルで考えていくことが必要か?
ハ)修復可能な環境に対する実践的な活動にどのような手法をとったらよいか? とくに基礎的な仕組みを、科学的な手続きで学んでおくことが必要であろう。
ニ)環境総合科学教育の実践活動に際しては、安全教育の基本を学び、十二分に理解しておくことが不可欠である。
 
重大な地球環境の危機的状況に早く気づいてくれる人の輪を増やすこと、自分自身の問題(安堵して生き続けられるか)としてとらえる互いに力を合わせて活動できる人を増やすこと、そのためには、まず先達(センダツ)を作ることが急務であることは言うまでもない。
 
全般的言ってもそうだが、今回の講座に於いても、実技(実践)のための技術、方法、応用にいたっては、講義を担当する講師の講ずる内容と表裏の関係にあるものでなければならず、方法、応用にいたっては、特別仕様の高価な機械、器具、用具を用いることなく、資材のリサイクルで、器材調達を考えることはいうまでもない。空きカン、空きビン、ペットボトル、古紙、間伐材などは有用な利用対象となるはずである。
講師自身が試行されているものを教育の場に示していただくことができれば、こんな理想的なことはない。







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