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大会を終えて
 財団法人日本太鼓連盟主催による「第4回日本太鼓全国障害者大会」が日本財団の助成事業として、2002年9月22日岐阜県恵那市の恵那文化センターにおいて、主管の(財)日本太鼓連盟岐阜県支部、社会福祉法人たんぽぽ福祉会及び社会福祉法人富岳会の協力のもと、厚生労働省、文化庁、岐阜県、恵那市等のご支援を得て開催されました。
 今回初めて主管をしていただいた、たんぽぽ福祉会では1991年から知的発達に障害を持つ人たちの補助セラピーや自己表現手段として太鼓による療育活動を実践しております。このような太鼓の活動が、ハンディキャップを持つ方々の生活に生き生きとした表情、困難を乗り越える力をもたらすなど、今日まで大きな成果を挙げられております。
 本大会は、この成果に賛同し、日本太鼓を通じ障害者の自立心の向上を図り、心身の健全な育成を目指すことを目的に多くの皆様にご理解いただくため行われたものです。今回は、療育的な見地から日本太鼓に積極的に取り組んでいる知的、身体、聴覚に障害を持つ太鼓団体17チーム、出演者273名が一堂に会し、代表者による体験発表とチームによる太鼓演奏が行われました。
 各チームの体験発表は、自分たちが障害を持ちながらも太鼓との出会いにより、勇気づけられ、友情が生まれ、生き甲斐を見つけるまでの経緯や現在の心境を、ときには手話を介して真摯に語られていたのが印象的でした。また、太鼓演奏は日頃の練習成果を発揮しようと、チームが一体となり、素晴らしいバチ捌きや個性的な演奏を披露し、そのひたむきさにホールを埋めた約1,000名の観客は大きな感動を受けました。参加者は回を重ねる毎に人前での動作や態度に自信が溢れてきているのが伺われ、私共としては大変うれしく思っております。
 当財団では、本大会を障害者の励みの場、交流の場として継続実施し、国内のみならず海外を含め多くの皆様に太鼓療育を呼びかけていく所存です。次回は障害者チームの強い要請と大会5周年を記念して2003年9月6日に東京・青山劇場での開催を予定しております。
 初めての開催にもかかわらず、事前の準備から当日の運営までご苦労をいただいた、たんぽぽ福祉会の小板理事長を始め職員の皆さん並びに岐阜県支部、富岳会の皆様に心からお礼と感謝を申し上げます。
 今後とも日本太鼓に対し、ご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
 
2002年9月
財団法人 日本太鼓連盟
 
1. 富岳太鼓(ふがくだいこ)
(静岡県)
―プロフィール―
 富岳太鼓は、日本一の霊峰富士の麓、静岡県御殿場市に所在します。設立のきっかけは1977年、社会福祉法人富岳会の理事長山内令子が、法人の施設を利用する知的障害者のセラピーとして、日本太鼓に着目したことから始まりました。富岳太鼓は魂を揺さ振る「響き」、鼓動と同調する「リズム」、感情を全身で表現する「躍動」、共に打ちこむ「喜び」など、打てば響く太鼓の持つ秘めたる可能性を、独自に開発した日本太鼓をプログラムに効果的に取り入れ、知的障害者のセラピーとして実践しています。そしてその効果は心身多面に表れ、今では障害者のリハビリテーションや社会自立のトレーニングとしては勿論のこと、障害者の文化・芸術活動にまで広がりを見せ、広く海外からも注目を集めています。
 今回の公演に出演するメンバーは、施設内での委託作業・自主生産品の作成・企業で実習を行い、社会自立を目指しています。日本太鼓に取り組み、多くの人と触れ合うなかで、挨拶ができるようになったり、コミュニケーションが図れるようになり、社会性が身に付きました。
 富岳太鼓の富岳とは富士山の別名であり、その名の通り、演奏する曲の全てが富士山にまつわる神話、民話、自然をテーマとしたものであり、富岳太鼓代表山内強嗣の手によるオリジナルの創作太鼓です。
 
演奏曲
富士の雷舞
 
出演者
代表者 山内 令子
大川登志夫 長島 一生
石原 純 矢口 博司
矢本 佳織 久保田真喜
小熊 華代 佐野ひろ子
田中 千鶴 早野 均
須賀 有希 栗原 孝明
田中 大輔 河合 信子
 
―実践報告―
 みなさんこんにちは、富岳太鼓です。
 私は平成6年の4月に社会就労センター富岳の園に入所しました。富岳の園に来たら太鼓がいっぱいあってびっくりしました。私はすぐに「太鼓を打ってみたい」そう思いました。
 稽古はすぐに始まりました。黙想、挨拶から教えてもらいました。最初は、手が痛くなって辛かったけど、公演に出演させてもらい、多くの人の前で演奏したり、多くの人と出会って自信がつきました。
 今、私は富岳の園から自立して今年の8月から生活寮で生活しています。「富岳ビラ・セルプ」というお店の従業員として働き、毎日多くのお客さんが来てくれて、手作りのお惣菜や、焼き立てのパンを販売しています。
 そして、今新たに挑戦していることがあります。そはホームヘルパー3級の習得です。ヘルパーの資格を取り、お年寄りの世話や不自由な人たちの役に立てたら良いなと思っています。
 私が自立できたのは、日本太鼓に出会えたからだと思っています。これからも、日本太鼓でいっぱい自信を身につけ、頑張っていきたいです。
 今日演奏する曲は「富士の雷舞」という曲です。私たちが住む御殿場市からは富士山が目の前に見えます。そんな富士山で、大地を揺るがし、雷様が荒れ狂う姿を、太鼓の振りで表現しました。
 今年は太鼓を2つ使って挑戦します。
 
2. 播磨ろう者集団(はりまろうしゃしゅうだん) 龍姫太鼓(りゅうひめだいこ)
(兵庫県)
―プロフィール―
 姫路市は兵庫県南西部の姫路平野のなかにあり、この地方の中心地となっています。また、揖保川の中流に醤油と素麺の産地として知られた龍野市があります。
 龍野市の「龍」、姫路市の「姫」を合わせて、「龍姫」ということになります。
 龍姫太鼓を結成してから、5年になりますが、私たちは「耳が聞こえない」というハンディを持ったろう者集団です。しかし、障害に負けないように“明るく、元気に、一生懸命打つ”をモットーに日々練習に励んでいます。
 昨年の11月には、「第5回日本ろう者太鼓同好会新潟公演」に出演しました。
 全国の私たちと同じ太鼓の仲間に出会えたこと、そして語り、一緒に打つことは、今は大きな力となっています。
 今回も全身で太鼓の響きを感じながら一生懸命叩きます。
 
演奏曲
姫山太鼓
 
出演者
代表者 村上 義宏
松田 雅弘 和泉 哲也
北川 光雄 水野 洋子
大竹 桂 須藤 円
 
―実践報告―
 龍姫太鼓のメンバーは全員が聴覚障害者です。月に6回(日曜日2回、水曜日2回、土曜日2回)でろうあ者中心に練習を行っています。
 練習の内容は基本的にバチでリズムをとりながら、身体で覚えたり、ずれた部分を正しいリズムに矯正したり、何回も繰り返して正しいリズムを覚えています。また、本番をイメージして練習をしています。
 指導者が太鼓の練習に対して、とても厳しく、「バチの捌き方は・・・」「叩く音が重い」「音のバランスが悪い」「もっと軽く」など吠えながら、身振り手振りで教えてくれました。「姿勢の迫力が足りない」「顔の表情が硬い」「声が出ていない」と、色々な悪い点がありました。表情、姿勢については、とても難しいですが、練習を少しずつ重ねて修正しています。
 私たちは、耳が聞こえないので打つときに、聞き取れなくてリズムがバラバラになり大変でした。耳が聞こえなくても、相手のバチを見てあわせたり、身体の響きを感じたりと、リズムを覚えたりしています。皆が同じ動きをするので、音を合わせるのに苦労しますが、何回も繰り返し覚えていけば、スムーズに演奏できると思いました。
 でも、皆が同じ動きで音をあわせていると、リズムがバラバラになってしまい、指導者が練習を一時ストップして、一人ひとりに「それは打ち方がおかしい」「遅いからもっと早く!」「君はやる気が無いよ!もっと集中!」と指摘されたこともありました。悪い癖が多くあったので、個人的にチェックしてもらっています。
 自分が悪い癖を見直すことは大変ですが、注意を受けたことを忘れないように、身体で覚えることは大切だと思います。
 太鼓の練習だけではなく、技術のレベルアップを目指して、個人の意識を持ちながら練習を重ねていきたいと思っております。







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