日本財団 図書館


図−4 コノシロ生殖腺重量比の変化
 
 以上のことから、外海で生まれた本種の幼稚魚は、5月初旬に順次小群が中海に遡上し1ヵ月程度過ごしてから、大群をなして宍道湖に遡上してくるものと思われる。
《サッパ》
 本庄工区では、前2種よりも約1ヵ月遅い4月下旬から多獲され始めた。また対岸の論田では、5月下旬から漁獲が増える。このことから、4月中旬以後に外海から遡上した個体群は、多くは、北岸部や本庄工区内に滞在し、一部が南岸部にも回遊しているが、5月下旬になると、中海全体に広がり、やがて宍道湖への遡上を開始する。
 中海への本種の進入については、成魚は、前2種よりも約1ヵ月遅く、幼魚の場合は、2ヵ月近く遅い7月初旬が初確認であった。
(3)生殖腺とサッパの食性について
 生殖腺については3種のうち中海・宍道湖水域において産卵する可能性の高いコノシロとサッパについていくらか調べた。スズキについては近海の岩礁帯で産卵するとされていることから今回は外した。
《コノシロ》
 今回の調査では、調査を開始した3月31日は、3尾のみの漁獲であったが、生殖腺はいずれも完熟に近かった。4月22日(水温14.5℃)では漁獲された13尾はすべてメスで、全長22cm前後と28cm以上の個体の2段階あり、そのうちの大型群の個体はすべてが完熟卵を有していた。また、小型の個体群も成熟卵を有しており、まもなく産卵に参加する個体群であった。
 図−4は、生殖腺重量の体重比の平均値である。このグラフの変動から、4月22日をピークに漸減している。各個体の生殖腺重量比は生殖巣が7−8パーセントで成熟期に入り、10パーセント以上で完熟する。以上、グラフから見ると今年度の本種の産卵期は、4月中旬から5月中旬にかけての約1ヵ月間と推定される。
 4・5月の魚体の大きさは、平均全長25cm前後であり、全長22cm前後と27cm前後の2段階あることから、1歳魚(2年目)と2歳魚の魚群であると推定される。調査期間に2度小型群のみが漁獲された日があり、後半の7・8月は27cm前後の大型群のみとなっている。このことは・夏には小型の個体群が成長して大型群のサイズに達し、コノシロ全体のサイズが均一化するものと思われる。(大型群の産卵後の死亡については今後の調査を待つ)
 雌雄の割合は、今回の調査では通算してメス魚の割合が高く、その比は、66:20であった。つまり、メスはオスの3倍の個体数であった。
 なお、今年度は6・7月にかけて、過去3年間にみられたような本種の大量死の現象は生じなかった。漁師からの聞き取りによると、死亡個体は大型魚が多いことから、産卵を終えた個体である可能性が高い。産卵によって体力を消耗したところに、外的な環境要因が重なって起因するものと思われる。
 今年は、専門漁師によれば本種の個体数は昨年度の半分以下程度に感じられるが、この時期に死亡した量は、100分の1程度であった。大量死は、宍道湖における、本種の一斉遡上による過密が、環境要因と重なって働いている可能性がある。
《サッパ》
 本種の性成熟は、卵巣と精巣の発育状態から、5月26日がピークである。(図−5)よって、産卵は5月中旬から始まると推定される。
 しかし、コノシロの生殖腺がピークから1ヵ月間程度で急減するのに対して、本種はピークから2ヵ月後の7月中旬でも成熟卵を有している個体が多いことから、産卵期はコノシロよりもかなり長期間続くものと推定される。
 また、本種の雌雄の割合は、メスの方がいずれの調査時にも多く漁獲されていた。一方オスの方は、まったく漁獲されなかった時が2度あり、数量的にも偏りが大きかった。
 因みに、当期間における雌雄比は、オス:メスは、23:46であり、メスの方がオスの2倍以上多かった。
 
図−5 サッパ生殖腺の変化
 
(サッパの若干の食性調査結果)
 本種の食性については、今回はこの調査の今後の方向を探る意味から、無作為に少量を調べた程度ではあるが、その結果は、表−1に記録されている。
 多くの個体は空胃の状態であったが、5月12日の個体群の中から、12尾中5個体の胃からイサザアミが検出された。また、同日漁獲されたメスも14尾中8個体でイサザアミを食べていた。5月26日はメスで10尾中6尾が、7月15日においては、メスの個体3尾中2尾がイサザアミを食べていた。
 その他、表には記されていないが、同期の論田の個体からカイアシ類が検出されたが、その数も割合も少なかった。
 以上のことから、本水域における当時期のサッパは、イサザアミを最も多く食べていると推定される。
(4)スズキの食性
 一般にスズキは、魚類と甲殼類を食べるとされるが、今回の調査では、イサザアミが餌のほとんどを占めていた。しかも、それは幼魚から成魚まで全ステージの個体の胃から検出された。
 今回調査した個体は、成魚(3歳)と未成魚(2歳)が68尾、幼魚(当才)が15尾の合計85尾であった。そのうちの70尾の胃からイサザアミが検出された。(84パーセント)
 幼魚の場合、全長8〜13cmでは胃内容物は1g目程度入っていた。胃の充満の度合いは、成魚と未成魚に比較して、幼魚は高い。成魚と未成魚は、消化が進んで、溶解物の中にイサザアミの未消化部分(目玉や尾部)が残るものが3分の1程度みられた。
 成魚で胃の充満の度合いの高かったのは、4月22日で、全長43cm、体重721gの個体で、イサザアミを20.2g食べていた。匹数に換算すると、1500〜2000個体を食べていると推定される。
 イサザアミ以外の摂餌としては、6月23日、全長45.2cm、体重1047gのメス魚で、マハゼの幼魚13尾(18.0g)を食べていた。また、7月15日に全長19cmの当才魚の胃から小型のテナガエビが検出された。胃は充満していた。また、6月6日、全長27.3cmの1歳魚で、シマハゼ成魚とマハゼ幼魚を1個体ずつ食べていた。その他は、コツブムシや小型のエビ類をイサザアミとともに食べていた。
 今回の調査期間におけるスズキの食性は、魚体のサイズにかかわりなくイサザアミを専食に近い状態で食べていた。よって、一般に言われる本種の魚食性は、今回はほとんど見られなかった。イサザアミの専食状態は、本水域のスズキの棲息量から見ると膨大な量が餌として食べられていることになる。
 これまで、スズキによるワカサギ・シラウオ・テナガエビなどの有用魚介類の食害が懸念されているが、今回の結果からは、食害よりもむしろイサザアミに対する摂餌の競合が問題になってくる。シラウオやワカサギをはじめ本水域の多くの魚介類がイサザアミを主要な餌として利用しているが、大量に棲息するスズキがイサザアミを専食すると、他の魚介類の餌不足を引き起こし、それが成長を阻害し、また、性成熟を遅らせたりすることの影響が考えられる。
 
図−6
(1)サッパの胃内容
(2)(3)スズキの食性(イサザアミ)
(4)スズキの食性(マハゼ)
(5)スズキの食性(イサザアミ)
(1)
 
(2)
 
(3)
 
(4)
 
(5)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION