資料
I 古典落語
II 「ピノキオ問題」
III アンケート
資料I 古典落語
・「金明竹」
・「心眼」
・「道具屋」
・「かぼちゃや」
金明竹(きんめいちく)
誰がかぞえなおしたものか、世のなかには「四十八ばか」と申しまして愚か者も多いようでございますが、その頭取が落語家だそうでございます。あまりありがたいことではございませんが、こうゆう愚か者のお噂がやはりお笑いも多いようでございます。
「与太や。なぜ、その、猫のひげを抜くんだよ。ねずみをとらなくなっちまうじゃあないか。お前だね、猫の爪をとっちまったのは」
「だって、おじさんが爪を伸ばしておいちゃいけない。爪をとれ、爪をとれっていうから」
「そりゃあ、お前の爪をとれといったんだよ。ごらん、猫がどこへも上がれなくなっちいまったじゃあないか。ホラ、なぜ、算盤をまたぐんだよ。だいじな商売の道具じゃないか。脇へよせておきな。さァ、表を掃除しなさい。掃除というのは掃くんだよ。箒をもって来て・・・ああ、ひどいほこりだなあ。水をまきな、水を・・・。掃除をする前には水をまくもんだ。おぼえておきなさい。水をまくったってうまいまずいがあるんだよ。植木屋さんがまくように、たいらに、水たまりをつくらないように、・・・あっ、どうも相すみません。とんだ無礼をいたしました。見なさい。お前のためにあたしがあやまらなけりゃあならない。手もとばかり見て、水をまく方を見ないから人さまの足にかけてしまうんだ。もういいよ。表はいいから二階へ行って二階の掃除をしなさい。・・・おまえもすこし小言をいってくれなくちゃあ困ります。いくらあたしの身内だからってまるであいつにかかりきりだ。小言で口がくたびれちまうよ。そりゃあ、あたしがやったほうがはやいだろうけれど、それじゃああいつのためにならない・・・(と上を見あげて)おや?二階から水がたれて来たよ。また何かやってくれたぞ。花瓶でもひっくりかえしたんじゃあないか。おい、どうした」
「掃除する前だから水をまいた」「ばかやろう表と座敷といっしょにするやつがあるか。おい、雑巾をもってきておくれ。たいへんだ。・・・おい、与太、お前はいいから店番をしていなさい。店番を」
「そのほうがこっちも楽だ。なんだ。水をまけというからまいたのにしかられちゃアかなはないや。・・・おや、雨が降って来たぞ。もう少しまっていりゃア天から水が降って来るのにつまらないことをしたな。・・・ああ、表をあるいていた人がみんなお尻をまくってかけ出して行くぞ。おもしろいな。あっ、なんです」
「すみません。とおり雨でしょうからお軒先をちょいと拝借したいんですが」
「ええ?」
「お軒先をお借りしたいのですが」
「そんなものもってかれちゃあこまるよ」
「いえ、もって行きゃあしませんよ」
「傘がなくてこまるのなら貸してやろうか」
「そうですかァ?急ぎの用があるものですから、そうしていただけると助かるンですが」
「じゃあ、これをもっておいでよ」
「どうも、ありがとうございます」
「与太や、どなたかいらっしゃったようだな」
「雨が降って来た」
「そうかい。なにかぬれるものはなかったかな」
「地面がぬれている」
「そうじゃあないよ。干し物でも出ていないかと聞いているんだよ。それにどなたかいらしゃたようだが」
「お尻をまくって、毛むくじゃらの脚を出した人がはいって来て軒先を貸してくれって」
「雨宿りだろう。どうぞといってあげたかい」
「いやァ、軒先なんぞもっていかれちゃあたいへんだから傘を貸してやった」「へえ?どちらのかただ」
「あちらのかた(と指をさす)」
「いえ、どんな人だったというんだ」
「こういう・・・(と手で顔の形をつくってみせて)首があって、顔があって・・・」「知っている人なのか」
「知らない人」
「知らない人に傘を貸しちゃあいけないね。番傘か」
「おじさんの蛇の目」
「あきれたやつだね。貸してくださいといわても、知らない人だったらおことわりするものだ。雨の降っているときは入用でもお天気になればかえすのがおっくうになる。そういう時のには、家にも貸傘もなん本かございましたが、この間からの長じけでつかいつくしまして、骨は骨、紙は紙とばらばらになりましてつかい物になりませんから、焚きつけにでもしようと思って物置きにほうりこんでありますってことわってしまいなさい」
「うん」
「わかった」
「こんど、誰か来たらそういってことわるよ。・・・なんだい」
「おむこうの近江屋ですがね。押入れにねずみを追いこんじまったんですが、猫が遊んでいたら貸してください」
「うちにも貸し猫も何匹かいましたがなえ」
「ええっ」
「このあいだからの長じけでつかいつきまして、骨は骨、紙・・・紙はないや。皮は皮でばらばらになってしまいました。たきつけにしようと思って物置きにほうりこんであります」
「へーえ、猫のたきつけ・・・それじゃあまたおねがいいたします」
「与太や、どなたかいらっしゃったようだな」
「むこうの近江屋」
「近江屋さんといいなさい。なんの用だ」
「押入れへねずみがはいってしょうがないから猫を貸してくれって」
「貸してやったか」
「ことわっちゃった」
「なんだって」
「うちにも貸し猫も何匹かおりました」
「貸し猫だって?」
「この間からの長じけで、骨は骨、紙は紙でばらばらになったんで、たきつけにしょうと思って物置きにほうりこんであります」
「それは傘のことわりようだ。猫のときには、うちにも猫が一ぴきおりましたが、この間からさかりがつきましてとんと家へ帰りません。ひさしぶりに帰って来たと思ったら、どこかで海老の尻ッ尾でも食べたのでしょうか、おなかを下したのでまたたびをなめさせて寝かしております。お宅へおつれしてもお座敷で粗相でもするといけませんと、こういうのだ」
「うん」
「わかったか」
「こんど、誰か来たらそういってことわるよ。・・・なんだい」
「ごめんくださいまし。横町の讃岐屋からまいりました。うちの旦那ではちょいと目のとどかないことがございますので、ご苦労さまでございますが、こちらの旦那さまがおいででしたら、ちょっとおいでを願いたいのでございますが」
「ああ、旦那か。・・・うちにも旦那が一ぴきいましたがね。この間からさかりがつきまして」
「へえ、あの旦那が」
「ええ、とんと家に帰らないので。ひさしぶりに帰ってきましたら、海老の尻ッ尾をたべてお腹を下しちゃったので」
「おやおや、そりゃあ」
「それでお宅へつれてってお座敷で粗相でもするといけませんから、またたびをなめさせて寝かしてあります」
「ちっとも存じませんでしたが、それではあらためてお見舞にあがります。どうぞ、よろしく」
「与太や」
「ええ」
「どなたかいらっしたら奥へいわなきゃいけないよ。どなただい」
「あのね。横町のね。讃岐屋・・・さん」
「なんだって」
「あの、旦那の目のとどかない・・・よっぽど遠くにあるんですねえ、きっと。それでおじさんに来てくれって」
「ああ、そうかい。なにか目利きをしてくれというんだろう。じゃあ行って来よう」
「ことわっちゃたよ」
「なんだって」
「うちに旦那も一ぴきいましたが・・・」
「一ぴき?」
「この間からさかりがつきまして」
「おい、よしておくれよ。いやだよ、あたしゃあ」
「とんと家によりつきません。ひさしぶりで帰ってきましたが、海老の尻尾をたべてお腹を下しました。お宅へつれていってお座敷で粗相でもするといけませんから、またたびをなめさせて寝かせてあります」
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