人生の危機
自己充足的な生活をしてきたとしても、その破綻を体験することによって、危機に直面します。人生の危機は多岐にわたっています。
病気:
病気なども危機のひとつです。身体的なものばかりでなく精神的な病気も含まれます。病気をすることによって自己充足的な生活が打ち砕かれることがあります。とくに不治の病いや慢性的なもの、あるいは後遺症の残る病気などは偽りの万能感はどこかにいってしまうでしょう。また、精神的な病気でも同様の結果になるでしょう。
経済的問題:
それから経済的にもさまざまな困難に直面するでしょう。とくに現代はリストラなどでかなり早い段階で失業することがあります。その結果、家のローンの返済が困難になってしまう、あるいは子どもの教育資金をどうしたらいいのか、老後の資金をどうするかなど、危機を迎えることになります。
人間関係:
人間関係においても危機的な状況に追い込まれることがあります。人間関係で悩んでいないという人はいないかもしれません。最近はいじめなども、決して子どもだけの世界にとどまらず、大人の世界にまで広がっています。とくに人間関係を築けない人が増えています。それは少子化、核家族化などにより、子ども時代に家庭で人間関係を本当の意味で学習する機会がなくなり、その上、親自身もそれを学んでいないために、子どもたちとかかわることが困難なのです。その結果、人格形成に深刻な問題が生じてくることになります。たとえば以前のような伝統的な社会構造の中では、自立しているかどうかとか、また、個々の人間関係の確立などはそれほど問われませんでした。しかし、現代は自分というものが確立していないと、人間関係が自然に築かれるということが少なくなったため、孤立感や孤独感に陥るようになるのです。高齢化が進む中で、平均すると女性が84歳、男性が76歳まで生きるようになってきて、退職した後も、会社という人間関係が保証されていた組織を離れて、自分で人間関係を築き、生活していかなければならなくなりました。精神的に自立していないと、人間関係を築くことは容易ではありません。会社にいれば上司と部下、あるいは同僚などという枠の中で、ある一定の人間関係は保証されます。しかし、そうしたものがなくなってひとりになったときに、人間関係を築いていくのはとても困難なのです。高齢化が進んで、退職後の人生はまた長くなりました。また、少子化の中で育った人は、ソーシャルスキルが不十分で、どのように人間関係を築いてよいかわからないという問題を抱えています。社会的引きこもりなどはその一つの現れといってよいでしょう。
家庭的問題:
さらに家庭的な問題で危機に陥ることがあります。私は家族関係のカウンセリングも専門にしていますから、臨床の場でも数多く扱います。家族の問題は非常に根が深いのです。たとえば夫婦の問題ですが、以前は大家族でしたから夫婦2人だけになる時間は生涯でもそう長くはなかったでしょう。しかし、現代は子どもの数が1人か2人ですので、子どもたちが成長してしまうと夫婦だけになり、互いに向き合わなければいけなくなります。夫婦が正しくかかわっていないと、2人だけ残されたとき非常に大きな問題があったことに気づかされます。それらを埋めていくプロセスというのはそれほど容易なことではありません。
親子関係についても核家族になって久しく、大家族のときとは比べものにならないくらい深刻化しています。いったん問題が起こるとそれを補ったりするかかわりがありませんので、どんどん悪化してしまうのです。犯罪の低年齢化が進行していますが、家族の果たす役割は大きいのです。そういう意味でも、家庭的な問題は人生における危機という面ではとても大きいといえるでしょう。
個人的問題:
私が最近、問題として気づくことのひとつは、個人的な間題です。たとえばアイデンティティーの問題です。アイデンティティーという言葉は使わないにしても、一体自分は何ものなのか、あるいは、生きがいとか、さらには生きる意味とかについて、以前はあまり考える必要のなかったようなことを考えるようになっています。しかし、現代はアイデンティティーをもつことが困難になっているように思います。価値観が多様になり、そして社会の変革が急激で、何かに個人的にかかわったりすることができないぐらい早く進み、あるいは自分を見つめる余裕がなかなかありません。また、いままでの日本の社会ではそういったことを真剣に考えてこなかったため、見本となる人々も身近にはいません。ですから、アイデンティティーの問題で悩み始めると、深みにはまりこんでいくようになります。
セルフイメージの問題:
それからセルフイメージの問題があります。これはまだ一般的には理解されていないかもしれませんが、自分についてのイメージが不健全ですと、いろいろな領域に支障を来します。セルフイメージが低いと、自分はだめだという劣等感とか自己嫌悪感をもつようになり、うつ状態になっていく引き金になることがあります。逆に、うつ的な人は非常にセルフイメージが低いということもあります。
キャリア:
キャリアについても、今後自分はどのような仕事をしていくのかについて考えなければならなくなりました。以前ですとどのような会社に入るかが目標でしたが、いまは会社ではなくて、どんな仕事をしていくのかということに焦点が向けられるようになりました。5年、10年とたったあとで、これから先、つまり今後5年、10年どんな仕事をしていけばよいのかと悩むことも出てきます。
このような問題に直面したときに人生の危機に遭い、自己充足的な生き方の破綻を迎え、スピリチュアル・ペインが出現するきっかけになるのです。
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