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4.3 自己反応性物質及び有機過酸化物の国連勧告試験方法及び判定基準のスクリーニング化に関する研究 2
東京大学 大学院新領域創成科学研究科
 
4.3.1 緒言
 
 国連では、危険物の海上輸送における安全を確保するために、「危険物輸送のための国連勧告(通称オレンジブック)」を公開し、各国にその遵守を促している。その国連勧告における危険物の区分4.1自己反応性物質および区分5.2有機過酸化物の国連基準輸送要件は、自己反応性物質および有機過酸化物を、その危険性に応じてタイプAからタイプGまでの7タイプに分類し、それぞれのタイプに対し、輸送方法を規定している。(図1-1、1-2)このタイプAからタイプGまでの分類を行うための、「爆轟を伝播するか」、「爆燃を伝播するか」、「爆発威力はどの程度か」、「密閉化における加熱の効果はどの程度か」に該当する試験法は、いずれも規模が大きく、大規模な実験施設、大掛かりかつ特殊な試験設備および大試料量を必要とする。このような大規模試験では、その試験の実施に伴う危険性が懸念されるのみならず、省エネルギー、省資源、環境保全等の観点からも好ましいとはいえず、さらに我が国においては、実験施設の確保も難しくなってきている。このため、計算あるいは必要試料量が少なく、安全かつ簡便な試験法による評価手法が望まれている。しかしながら、一般に、計算では発火・爆発等の威力評価はある程度可能であるものの、その感度や激しさについての知見を得ることは極めて難しいこと、また、小規模な試験法においては、特に感度の低い物質について、その発火・爆発可能性を過小評価する傾向があることが知られており、大規模標準試験の簡易・小型試験への代替は、必ずしも容易ではない。このため、次善の策として考えられているのが、スクリーニングシステムである。スクリーニングというのは、篩い分けのことであって、ここでいうスクリーニングシステムは、計算、あるいは小規模の試験法により、大まかな評価を行い、必要な場合にのみ、従来の標準試験法を行うことで、問題の多い標準試験の実施頻度を減らすことを可能にするシステムを指す。ここでは、国連勧告区分4.1自己反応性物質および区分5.2有機過酸化物について、その分類・判定を行うためのスクリーニングシステムについて検討を行った。
 
4.3.1.1 各試験方法の具体的な問題点
(1)「熱分解の激しさ」
 国連勧告における熱分解の激しさを評価するための推奨試験は、オランダ式圧力容器試験である。この試験法については、規模、再現性等に問題があり、改善が求められている。
(2)「爆発威力」
 国連勧告における爆発威力の推奨試験は、改良型トラウズル試験である。改良型トラウズル試験試料量は10gであるが、開放型の爆発試験で、危険性および環境上の問題が懸念される他、我が国の場合には、試験に使用する鉛容器の加工職人が僅少であること、鉛害の可能性が考えられことなどの問題点がある。また、国連勧告における爆発威力の参考試験として挙げられている、Mk III弾動臼砲試験、弾動臼砲試験、トラウズル試験、高圧オートクレーブ試験もほぼ同様な規模であり、類似した問題点を有していると言える。
(3)「爆燃伝播性試験」
 国連勧告における爆燃伝播性の推奨試験は、時間/圧力試験あるいは、爆燃試験である。時間/圧力試験の試料量は数グラム規模、爆燃試験の試料量は約300mlあるいは300gである。時間/圧力試験は比較的小試料量であるが、開放系で破裂板の破裂を伴う破壊的な試験方法であり、ある程度の危険性が懸念される他、火工品である点火玉を使う必要があるなどの問題点がある。爆燃試験は試料量も多い上、開放系での爆発的燃焼を判定する試験法であるため、危険性が伴うとともに、環境保全の立場からの問題がある。
(4)「爆轟伝播性試験」
 国連勧告における爆轟伝播性の推奨試験である、国連爆轟試験は、内径50mm、外径60mm、全長500mmの鋼管に試料約1リットル(≒1kg)を充填し、電気雷管と200gの伝爆薬(高性能爆薬)で起爆する試験法であり、判定は、爆発によって破壊された鋼管の破片形状によって行う。この試験は、約1kgという大試料量が必要とされ、試料が爆轟伝播性を示した際の危険性が懸念される他、経済性の面からもまた、省資源や環境保全の立場からも問題が大きい。また、わが国においては、騒音問題等から試験場の確保も大きな問題になってきている。
 
4.3.1.2 調査研究の目的
 爆燃伝播性試験および爆発威力について、その評価項目のスクリーニング化を検討する。また、自己反応性物質、有機過酸化物の輸送基準判定システム全体の見直しとそのスクリーニング化についても検討する。このスクリーニングシステムが完成することにより、これまで、危険性、試験場の確保等の問題から、実施が難しかった爆燃伝播性、爆発威力などの標準試験が、安全かつ小試料量で実施可能になるほか、高価なファインケミカル製品への適用により経済的な問題が、また試料量の大幅な削減により環境保全の問題も解決される。更に、既に国連においても、危険性、環境汚染性をともなう大試料量での試験に対する批判が高まりつつあるので、スクリーニングシステムが確立されれば、国連危険物輸送専門家委員会に日本提案として提出することが可能となる。
4.3.2 調査研究課題の概要
 
 本研究では、上記に挙げた問題点を有する試験法のうち、爆燃伝播性試験に注目し、密閉系爆燃試験装置を用いた、爆燃試験の結果(線燃焼速度)の推定の可能性について検討した。
4.3.3 自己反応性物質及び有機過酸化物の国連勧告試験方法及び判定基準のスクリーニング化に関する研究
 
4.3.3.1 試薬
 テストシリーズCおよびFの試験法の実施例として危険物輸送に関する国連勧告(通称:オレンジブック)に挙げられている物質の中から、ADCA, AIBNを選定し試験を行った。今回使用した、試薬は、以下に示すとおりである。
 
 ADCA:アゾジカルボンアミド(大塚化学(株)、純度99.0%以上)
 AIBN:2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)(和光純薬(株)試薬特級、純度98%)
 
4.3.3.2 国連評価試験結果
 上記試薬に対する爆燃伝播性に関する国連評価試験結果を表3.1 に示す。
 
表 3.1 各試薬の国連評価試験結果
(拡大画面:33KB)
 
4.3.3.3 予備試験
 爆燃性試験のスクリーニングとしての小型爆燃性試験の適用性を検討するために、試料形態を変えて爆燃特性を観測することを計画した。当初、試料形態は、ペレット、ストランド、カップ充填を考えたが、ペレットでは打錠作業に危険性が伴うこと、ストランドでは、成形のためのバインダー成分を追加しなくてはならないことから、まずそれらの懸念のないカップ充填について検討を行った。
 
(1)熱天秤用セルに充填した試料
 小型爆燃性試験装置にフィットするカップとして、ステンレス製熱天秤セル(外形5.15mmΦ、内径4.50mmΦ、高さ5.10mm)(写真3-1)およびガラス製熱天秤セル(外形5.00mmΦ、内径3.70mmΦ、高さ5.30mm)(写真3-2)を用い、ADCA, AIBNを充填して小型爆燃性試験装置を用いた爆燃特性の確認を行った。その結果、燃焼が十分に伝播せず爆燃挙動の観測ができなかった。
(2)ガラス製容器に充填した試料
 DSCセルでは、試料量との相対値としての容器容量が大きいために、容器への熱損失により燃焼が伝播しないものと考え、より容量の大きな容器としてガラス製のサンプル瓶(外形18mmΦ、内径16mmΦ、高さ28mm)(写真3-3)を用いて、爆燃装置内での測定を試みた。着火剤として、0.5gのチタン-硝石(44/55)混合物を用いた結果、DSCセルと同様に完全には燃焼が伝播しない場合と、爆燃挙動が得られる場合があり、再現性に問題があることが確認された。また、瓶が毎回破損した。
(3)真鍮製容器に充填した試料
 ガラス製容器では、再現性に問題があること、および毎回瓶が破損し、その破損のタイミングが分からないことから、金属製の容器の検討を行うために、真鍮製容器(外径18mmΦ、内径16mmΦ、高さ28mm)(写真3-4)を特注し、試料量0.5g、1.0g、1.5gで、爆燃試験装置内での測定を行ったところ、比較的再現性の良い爆燃特性が観測されることが確認された。
 
4.3.3.4 真鍮製容器を用いた爆燃性試験
 予備実験で、比較的良い再現性が得られたことから、サイズの異なる真鍮製容器2種類(外径15 mmΦおよび21 mmΦ)(写真3-5,6)を追加して、AIBN, ADCAについてそれぞれ測定を行った。
(1)装置
 爆燃装置は、当研究室で開発された、52ml爆燃性試験装置を用いた。(写真3-7参照)
 今回用いた試料容器は、表3-2に示す4種である。
 
表3-2 爆燃性試験に用いた試料容器
セル名 ガラス 21b 18b 15b
材質 ガラス 真鍮 真鍮 真鍮
外径(mm) 18.50 21.10 18.05 15.00
内径(mm) 17.95 19.00 16.00 13.05
全長(mm) 28.00 30.00 30.00 30.00
深さ(mm) 27.35 28.95 28.95 28.95
 
(2)結果
 AIBN,ADCAそれぞれにつき、容器B、試料量1gにて3回づつ再現性試験を行い、更に、試料容器Bにて、薬量を0.5g、1.5gに変化させた測定、および、薬量1gで、容器をA 、Cに替えた結果について測定した。
 試料番号と試料容器、試料量を表3-2に、測定結果をその結果を表3-4, 3-5および、図3-1〜3-34に示す。
 
表3-3 試料番号、試料容器、試料量
Sample 試料容器 試料量 Sample 試料容器 試料量
g g
ADCA15A 15b 1.0 AIBN15A 15b 1.0
ADCA18A 18b 1.0 AIBN18A 18b 1.0
ADCA18B 18b 1.0 AIBN18B 18b 1.0
ADCA18C 18b 1.0 AIBN18C 18b 1.0
ADCA18D 18b 0.5 AIBN18D 18b 0.5
ADCA18E 18b 1.5 AIBN18E 18b 1.5
ADCA21A 21b 1.0 AIBN21A 21b 1.0
ADCA21B 21b 1.0  
 
表3-4 ADCAの測定結果
  1回目 2回目
0-100% 10-90% 20-80% 30-70% 0-100% 10-90% 20-80% 30-70%
15A 9.8 28.0 19.6 28.1 40.2 71.4 77.6 81.6
18A 10.8 23.4 26.0 30.6 35.5 64.1 73.0 79.0
18B 17.5 42.2 49.1 53.7 18.9 51.7 63.9 70.3
18C 26.8 31.4 35.0 36.8 31.5 52.4 55.2 55.4
18D 20.3 30.0 32.3 33.3 22.8 49.6 58.7 64.6
18E 9.8 9.7 9.5 9.6 41.2 61.5 69.8 76.5
21A 14.1 22.1 23.3 24.4 35.2 69.7 66.5 71.9
21B 10.9 18.9 20.2 21.4 47.8 74.9 76.3 77.8
 
表3-5 AIBNの測定結果
  1回目 2回目
0-100% 10-90% 20-80% 30-70% 0-100% 10-90% 20-80% 30-70%
15A 22.6 48.7 53.9 56.6 24.7 63.6 72.0 77.0
18A 15.8 26.9 30.5 32.2 25.9 41.5 35.9 25.4
18B 19.7 34.7 41.6 43.9 14.4 49.7 68.2 74.4
18C 24.3 52.5 60.2 64.8 19.4 44.3 38.7 34.8
18D 30.6 60.0 67.9 72.5 39.9 82.1 92.6 97.6
18E 29.1 61.0 67.9 80.7 26.2 96.5 111.1 116.7
21A 24.0 44.1 49.8 52.7 42.9 77.0 88.2 98.3







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