4. 調査研究
4.1 MCPVT圧力容器試験の研究 2.1
社団法人 日本海事検定協会
理化学分析センター
4.1.1 緒 言
平成7年に開催された、国連危険物輸送専門家委員会において、外部加熱による危険性評価のための圧力容器試験の国連統一試験方法策定に関し、その基本原則についての日本提案が採択された。
国連勧告において自己反応性物質等に対し規定されている圧力容器試験は、物質の外部からの加熱による分解の激しさを調べるためのものであり、バーナー加熱式のオランダ式圧力容器試験、ケーネン試験及びアメリカ式圧力容器試験等がある。日本提案試験方法であるオリフィス非使用型MCPVT(Modified Closed Pressure Vessel Test)圧力容器試験は、従来の部分加熱試験方法とは異なり、密閉下での電気加熱装置を用いた均一加熱により物質の分解に伴う圧力上昇挙動を計測することにより、加熱危険性を再現性よく検証し、物質自身の持つ基本的特性を評価する試験方法であり、その妥当性は高く評価されている。
今般、化学品の分類基準の統一を目指すために、試験結果に高い再現性を持つと言われる密閉式圧力容器試験の実務的調査研究を、海上貨物運送調査会・危険性評価部会により行うこととなり、平成13年度より調査研究を開始した。
本年度は当該調査研究2年度目に当たる。
なお、本調査研究は後述の「MCPVT 圧力容器試験の研究 2.2」と一対のものであり、同等のテーマを異なる事業所にて、連携しながら視点を変えて研究したものであり、記述には重複部分も多い。単独に読む時でも理解しやすいように重複記載を行っている事をご承知おき願いたい。
4.1.2 調査研究課題の概要
4.1.2.1 目的
国連においては、この日本提案のオリフィス非使用型MCPVT圧力容器試験についてのラウンドロビン試験が予定されているが、日本国内においては消防研究所など数試験室が試行機器を保持している程度であり、ラウンドロビン試験の円滑な実施が危ぶまれていた。
従って、危険性評価部会において、国内における当該試験の実施体制を整え、日本提案の優位性をデータで示すことを目的とし、最低2試験室以上での当該試験方法の調査研究及びデータの収集を行うこととした。
13年度、事業開始時の当初テーマを下記する。
(1)国連ラウンドロビン試験に対応出来る機器設備と試験手順の検討及び習熟
(2)試験結果に影響を及ぼす要因の検討と国内クロスチェック試験の実施
(3)従来試験方法との相関の検討
(4)標準試験条件及び判定基準の検討
(5)大きな加熱速度を得るための小型圧力試験容器の検討
4.1.2.2 既存の圧力容器試験方法の問題点
国連勧告試験マニュアル、セクション25、テストシリーズE、に記載されている密閉下容器加熱試験方法とその問題点を下記する。(添付試料 8.参照)
(1)オランダ式圧力容器試験
(1)バーナー加熱に起因する加熱の均一性・安定性・再現性の問題
(2)測定時オリフィスの目詰りの問題
(3)オリフィス基準による相対評価試験であること
(2)アメリカ式圧力容器試験
(1)昇温速度が遅く測定時間が長いこと
(2)PVT決定のため多数の測定回数が必要なこと
(3)オリフィス基準による相対評価試験であること
(3)ケーネン試験(開放式高速加熱型)
(1)バーナー加熱に起因する、加熱の均一性・安定性・再現性の問題
(2)1回ごとの容器破壊試験であり、判定基準が定性的であること
(3)オリフィス基準による相対評価試験であること
4.1.2.3 MCPVT 圧力容器試験の概要
MCPVTは、外部からの加熱により密閉条件下で反応性物質が分解した時、どのような危険性があるかを判定する試験であり、圧力発生挙動に影響を及ぼす測定因子として、昇温速度・試料量・圧力容器サイズがある。装置は電気加熱により均一性と再現性を担保し、加熱分解反応に影響を与えない石英製容器を使用することにより外部条件を固定し、物質の分解に伴う圧力上昇挙動を計測する仕様である。なお、試験実施上の観点から、より小型の試験装置及び試料容器の使用が求められている。
(2)測定条件
既設の危険物輸送国連対応委員会・圧力容器部会において検討された試験条件は、
(1)昇温速度: 2.0,5.0,10.0,15.0 (K/分)
(2)試料量: 0.5,1.0,1.5,2.0 (g)
(3)圧力容器サイズ: 6,8 (ml)
であったが、MCPVT先駆者である自治省消防研究所は、この中で、昇温速度10K/分、試料量1g、圧力容器サイズ6ml を標準条件として採用していた。
当部会においても、初期標準試験条件とし消防研究所の測定条件を採用することとし、機器及び装置の仕様を決定、製作した。
(3)14年度当初設定測定条件
(1)容器サイズ・・・6ml
(2)試料量・・・1g
(3)昇温速度・・・10K/分
(4)サンプリング速度・・・任意(5msecを選択)
(5)スムージングポイント数・・・ 任意(2を選択)
圧力容器試験による物質の加熱分解による圧力上昇挙動を評価する因子として、危険性評価部会では、最大到達圧力(Pmax)MPa、及び最大圧力上昇速度(dp/dt max)MPa/secを採用した。優先評価基準は、最大圧力上昇速度(dp/dt max)MPa/secと位置付けられている。
なお、当該試験方法の妥当性は試験結果が既存国連勧告例示試験方法による分類序列に変更をもたらさないことが重要条件となる。
(5)平成13年度実施調査研究成果の抜粋
平成13年度に実施された当該調査研究成果の主だったものを下記する。
(1)国連ラウンドロビン試験対応装置の導入と手順の習熟。(添付資料 写真4.5.参照)
(2)測定結果に影響を及ぼす要因の検討及び課題の抽出。
(3)6ml 小型圧力容器について、作成容器の実務使用の検証。
4.1.3 MCPVT圧力容器試験の研究
4.1.3.1 平成14年度調査研究、当初設定課題及び検討結果
13年度調査研究の過程で明らかになった下記問題点を課題として取り上げ、その検討をおこなった。
(1)小型圧力容器及びパッキン材質の検討
当初から標準パッキンとして使用している銅パッキンにたいするガス漏れ等、測定操作上の不都合点の改良については解決したが、パッキンに銅を使うこと自体に疑問が投げかけられた。金属銅は触媒作用があり試験中に物質及び反応生成物と相互作用を及ぼし、測定データに影響を与えるというものである。
今後、高温対応テフロン、アルミニウム等、他の材質のパッキン使用も検討してゆく。
また、圧力容器そのものの不都合点についても改良の検討を行うこととした。
(1)小型圧力試験容器の検討結果(添付資料 4.写真参照)
小型圧力容器については、同じ図面にて同時発注したにもかかわらず、内容積に20%程度の製造誤差が認められた。測定値に直接影響するファクターであるため製作会社にクレーム、規格に合わせた材質・内容積の圧力容器を再作成した。
14年度試験はこの容器を使用した。
(2)パッキン材質検討結果(添付資料 16.写真参照)
今回試験においては、特に腐食の強い物質は認められなかったが、今後のことを想定し同等仕様の圧力容器試験専用アルミニウム、ニッケル、ステンレス製パッキンを用意した。測定自体の標準化が終了した後に比較検討を予定。
なお、今回試験においてCHP(Cumene hydroperoxide) 試料については銅パッキンに若干の腐食が認められた。
(2)圧力変換器と圧力容器との距離の検討
測定実務における検証及び試験データから判断して、圧力変換器と圧力容器は可能な限り近づけることが圧力損失を起こさない必須条件と判断された。器具、装置も高温に耐える仕様(カタログ指示値は200℃)であるので、今後は温度の影響を受けない範囲で接続位置を圧力容器に近づけて測定を行うこととした。
ただし、分解反応物質が圧力センサーに進入、付着固化してしまうというマイナス面も観察されている。
(1)検討結果
ア 作業性を考慮して圧力容器上面から圧力変換機本体の距離を17cmとした。作業上の制約から最低15cmは必要。(添付資料 17.写真参照)
イ 圧力変換器を共和PGM-100KDに変更した。従来のPHS-100KAは−30〜200℃と温度補償範囲の広い高信頼タイプであったが、直径30mm長さ90mmと大型であったため密閉操作に支障がでていた。PGMタイプは直径8mm長さ50mmと小型であり温度補償範囲は0〜70℃と狭いが高応答、高精度であり、作業性を優先してこのタイプを採用した。
・定格:10MPa(102.0kgf/cm2) 、(添付資料 17.写真参照)
但し、温度の影響を考慮し水冷式圧力変換器を使用すべきであるとの意見もある。
(3)標準昇温条件の検討
昨年来行っている測定時の昇温条件は10K/分であるが、この条件は、高速反応対応条件である。反応時の加熱電気炉と圧力容器の測定温度が30℃以上乖離することが検証されているが、この点から昇温速度を下げるべきとの意見が出された。一方、温度差があっても試料温度が追随している状態にて測定、計測されているのであれば30K/分 程度までは問題ないとの見解もある。
(1)検討結果
標準条件による測定精度の向上に主眼を置いているため10K/分を踏襲した。遅ければ蓄熱するし、速ければ温度追随性が悪くなり加温の平均性が失われる。この課題についての詳細報告は(株)カヤテック既報告測定データ等参照。
(4)試験所間測定結果の偏りの解消についての検討
所内再現性は確立されたが、所間にあきらかな偏りが出ている。測定実務者を同一試験室に集合させ、測定に立会い、原因の検討を行った。
圧力センサーからの生シグナルが、センサー・アンプ・変換記録計・データ処理装置等を通過する際に、何らかの不整合を起こしていると考えられるので、立会い測定を行うことにより差異の解消を計る。
特にデータの取り込み方法には重大な疑義が発生した。
(1)検討結果
ア ガス漏れについては、圧力試験専用銅パッキンの採用及び密閉操作システムの改良、圧力変換器の変更等によりほぼ解消。
イ データ取り込み時の問題点について
・波形記録計のローパスフィルターの設定解除:低値の原因がローパスフィルター(1KHz又は2KHz設定)にあることが判明、測定値に影響する設定はすべて解除の方向とした。各社間のデータ取り込み条件及び加工ソフトの差異はデータに大きく影響するので、標準化にあたっては十分な取り決めが必要である。現在では波形記録計を使用せず、アンプから直説パソコンに取り込み加工する低価格ソフトが推奨されているので、これを採用する。
・ スムージングポイント数について:サンプリング速度は5msを採用。測定時、2ポイントと30ポイントではBPO等では2倍程度の測定差異が出ることが確認されている。ポイント数、多でのスムージングでは変化を捕らえることができず、結果として低値を与えるので中間報告時の測定では2ポイントスムージングでの測定を採用した。
・データ取り込み方法及び加工仕様の検討
各試験室で使用しているデータ加工ソフトを検証し、市販データ加工ソフトについて整合性のあるソフトの採用を取り決めた。
(5)測定記録の表示方法の整合
測定記録を加工して発表する場合の加工基準及び表記内容が統一されていないので、本年度はデータの横断比較が出来るように統一したデータ処理を行い、試験所間の発表測定値の整合を計る。
なお、測定に使用するアンプ、レコーダー等、機器の自動設定機能により行われているデータ処理にも重大な問題点を見出しているので、機器装置の基本設定内容についても検証も行う。
表−1 4.1.3.2 14年度初期設定測定条件における測定結果
|
海事検定協会データ |
消防研究所データ |
物質名 |
Pmax
MPa |
dp/dt max
MPa/s |
Pmax
MPa |
dp/dt max
MPa/s |
1. TBPA (50.3% 液体)t-Butyl peroxy acetate脂肪族炭化水素希釈 |
4.3
4.5 |
9.4
9.5 |
|
|
2. CHP (83.2% 液体)Cumene hydroperoxide芳香族炭化水素希釈 |
4.7
4.6 |
59
59 |
|
|
3. BPD (99.9% 液体)Di-t-butyl peroxide |
9.0
8.8 |
42
45 |
|
|
4.BTC (39.7% 液体)1,1-Di-t-butyl peroxy-3,3,5-trimethyl
cyclohexane |
2.0
2.1 |
28
28 |
|
|
5.MEKP (10.4% 液体)Methyl ethyl ketone peroxide ジメチルフタレート希釈 |
13.2
11.3 |
990
470 |
|
|
6.DCP (99.9% 粉体)Di-cumyl peroxide |
2.6
2.0 |
16
34 |
|
|
7.TCP (97.3% 粉体)Bis-(4-t-butylcyclo hexyl peroxy
dicarbonate |
6.9
5.5 |
220
150 |
|
|
8.POL (99.3% 粉体)Lauroyl peroxide |
2.6
3.0 |
13
15 |
|
|
9. BPB (99.0% 液体)t-butyl peroxy- benzoate |
7.5
8.4 |
130
200 |
10 |
180 |
10. DBTO (85.5% 液体)2.5-Di-methyl-2.5-di-(tbuthyl
peroxy)hexane-3 |
12.8
10.7 |
130
110 |
13 |
190 |
11. BPO (74.3% 粉体)Benzoyl peroxide水希釈 |
8.0
7.8 |
660
700 |
8.1 |
390 |
|
* 測定記録(添付資料 10.11.12.プロット図参照) |
(1) |
添付資料 10 BPO (表-1 No.11):モデルとなるような急速,単純反応 |
(2) |
添付資料 11 MEKP(表-1 No.5):Maxに近づくとdp/dtが減少 |
(3) |
添付資料 12 POL (表-1 No.8):遅い反応の記録例 |
*グラフ表記の注釈 (左縦軸:温度(℃)、右縦軸:MPa、横軸:時間(秒))
*試料についての詳細は(株)カヤテック報告書参照 |
|