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特定非営利活動法人被害者支援ネットワーク佐賀VOISS会報
VOISS(ボイス)
Vol.3−2
No.10
2003.1.22
 ボイス・VOlSSとは、Voice of Isolated Survivor, Supportの頭文字を取ったものです。
 孤立した被害者(自己の尊厳を回復しようとしているサバイバー)の声を尊重していきたいとする、会の原点を表した愛称です。
 
A HAPPY NEW YEAR
昨年中はいろいろとお世話になり心よりお礼申し上げます
本年もどうぞよろしくお願い致します
被害者支援ネットワーク佐賀VOISS一同
四ヶ所京子
 VOISSの運営委員になって1年半が過ぎました。
 参加したときからNPO法人化に向けての動きが始まりました。そして恒例の連続セミナーがあり、おまけに追加セミナーまでありました。また、リボンキャンペーンおよび講演があったり、アバンセフェスタヘの参加などが次々とありました。
 その準備が、ほとんど何も分からない状態の私を、怒涛のように襲いました。波に呑まれたり浮かび上がったりの1年が過ぎました。
 こんなはずではなかったぞ?と思っていましたが、NPOの認可が下り、専従相談員や事務職員が決まって、やっと少しゆっくりなって(一部は柑変わらず忙しそうですが)ほっとしていました。しかしそれも数ヶ月でした。養成講座の準備が始まり、また駆け足状態となりました。
 私はほとんど口だけで申し訳ないのですが、パワフルな人たちにおんぶされながら、自分に出来ることをと思っています。それが長続きすることになるだろうから。いろんな立場や、職種の人たちが集まっていて、あることについて討議したり、作り上げたり、時には脱線したりするのですが、みんなが自分の意見を伸びやかに言えているのは、利害関係がないボランティア集団だからでしょうか?VOISSだからでしょうか?おそらくVOISSだからだろうと思います。そこに集まっている人たちが作っている雰囲気なのでしょう。これは大事にしないといけないものだろうと思います。いつまでも自分なりの参加が出来るVOISSであって欲しいと思います。
 最後に、VOISSのお陰でいろんな人と話したり、知り合うことが出来ました。ありがとうございました。
 VOISSは、下記の日程でボランティア養成講座を行っています。連続講座には60名を超える申し込みがあり、現在40名ほどの方が講座を受けられています。
 また、公開講座には連続講座受講者の他、共催団体の方や一般の市民など多くの方の参加を得ています。コミュニティ・サポートヘの道が少しずつ見え始めました。
 
月日 講義テーマ 講師 場所
10月19日
13:30〜16:00
開講式
VOISSと被害者支援活動
(特)被害者支援ネットワーク佐賀VOISS
代表 田口香津子
佐賀犯罪被害交通事故遺族の会(一歩の会)
会員
市民活動プラザ
11月9日
13:30〜15:30
暴力を容認する社会構造 久留米市男女平等推進センター
コーディネーター 甲木 京子
教育会館
11月16日
13:30〜15:30
<公開講座>
子どもの被害とそのケア
−犯罪被害から児童虐待まで−
大阪大学大学院人間科学研究科
助教授 西澤 哲
若楠会館
12月7日
13:30〜15:30
ドメスティック・バイオレンスとその支援 久留米市男女平等推進センター
コーディネーター 甲木 京子
教育会館
12月21日
13:30〜15:30
女性の被害とその回復への支援 さよウイメンズ・メンタルクリニック
院長 精神科医 竹下小夜子
メートプラザ
1月10日
19:00〜21:00
<公開講座>
エンパワメントと人権
エンパワメント・センター
主宰 森田ゆり
アバンセ
1月25日
13:30〜15:30
被害からの回復とその支援 佐賀県精神保健福祉センター
所長 藤林武史
佐賀犯罪被害交通事故遺族の会(一歩の会)
会員
メートプラザ
2月1日
13:30〜15:30
被害者支援に役立つ法律の知識 弁護士 市民会館
2月15日
13:30〜15:30
被害者支援に役立つ社会資源の知識 県内相談機関等 メートプラザ
3月1日
13:30〜16:00
身近な被害者支援の実際
閉講式
(特)被害者支援ネットワーク佐賀VOISS
運営委員
市民活動プラザ
 
2002年10月19日/市民活動プラザ
第1回
「VOISSと被害者支援活動」
講師:(特)被害者支援ネットワーク佐賀V01SS代表 田口香津子
佐賀犯罪被害者交通事故遺族の会(一歩の会)
 
一歩の会ができるまで(一歩の会:廣瀬)
 子どもを事件で殺され、同じような体験をした人の自助グループがないか探していた。そんなとき、交通事故で子どもを亡くされた大久保恵美子さんのことを知り、被害者の会があることを知った。住賀でも同じような苦しみを持つ被害者の会がないかと、精神保健センターの藤林所長に相談したところ、ある一組の夫婦を紹介してもらった。二組の被害者遺族から始まった会ではあったが、少しずつ増えてきた。自助グループの一歩の会とは、傷ついた被害者が自分の足で一歩でも歩みだせるようにという思いを込めて名づけた。
 
体験談(一歩の会:古川)
 青信号で横断していた10歳の娘が、左折してきたクレーン車に巻き込まれ死亡した。
 悲しみが深すぎるときは、涙が出ない。「がんばってね」「残った子どもさんがいるから」等と声をかけられたが感情が麻痺して、どんな風にして過ごしていたのか、今でも思い出せない。世の中は何も変わらず動いていくが、私の時計は、ゆっくり動いたり、止まったりしていた。娘を救ってやれなかったという自責の念が強くなった。夫婦喧嘩も多くなり、残った子どもを責めるようになった。亡くした子どものことばかり考え、残された子どもへの配慮ができなかった。世間は交通事故だからといって軽く見たり、簡単に済まそうとするが、人の命は同じである。裁判が終わり刑が確定すると、加害者は被害者のところへ来なくなった。加害者天国の日本であることを痛感した。
 被害者の立ち直りには、黙って話を聴いてくれる人の存在が大きい。私自身、近所の人から話をよく聴いてもらった。夫は仕事ができなくなり、現在も精神保健センターでカウンセリングを受けている。ストレスによって肉体がボロボロになった。(夫の歯がボロボロ)
 被害者の神経はとぎすまされ、何事にも敏感になっている。被害者の心の扉を開けて欲しい。被害者も大きな声をあげて笑うことも許されていい。
 
被害者支援に望むこと(一歩の会:岩崎)
 被害によって支援の仕方が違う。しかし、ボランティアに望むことは家事の援助、通院の援助、裁判の付き添いなど、何かひとつでもいいからやって欲しい。裁判のときの付き添いに弁護士さんがいてくれたらもっといい。
 
VOISSと被害者支援(田口会長)
 VOISSとは、力を奪われ、つながりを断たれた孤立した被害者の声に耳を傾け、支援していくことを原点として、2000年4月に設立した。設立直後、西鉄高速バスジャックがあり、マスコミに対して緊急記者会見をした。これは、報道関係者に対して日本で初めての試みだった。しかし、私へのマスコミからの取材の申し出が頻繁にあり、改めてマスコミ被害の被害者の立場を肌で感じた。
 被害者支援とは、被害者が真中にいて始まるものである。これは、私たちの会の原点である。被害者支援ネットワーク佐賀VOISSはドメスティック・バイオレンス、子どもへの虐待、性暴力、犯罪、その他の被害者やその家族等に対して支援を行ない、誰もが今いるその場で安全に安心して暮らす権利を保障する社会の実現を目的としている。
 活動内容は、被害者への相談支援活動、被害者支援についての広報、啓発事業、被害者支援に関する調査、研究、ネットワーキングであるが、被害者支援に関する調査研究までには至っていない。
 被害に遭うと、恐怖や不安、無力感を持つ。月日が経てば辛さが癒されると私たちは思ってしまうが、その気持ちが被害にあっている人をさらに傷つける。被害者の話を聴き、共に考えることができたら、被害者の状況を肌で感じることができる。佐賀という田舎で狭いところだから顔の見えるネットワークができる。
 2001年1月20日、子ども虐待防止ネットワーク・あいちの理事長、祖父江文宏さんに講演をして頂いた。今年の6月に亡くなられたが、傍観者になるな、私たち一人ひとりが何をやるのか、市民活動に誇りを持つ、この言葉の重みを感じている。
 なぜ、この会の活動を始めたか
 自分自身の体験と、沖縄で米兵にレイプされた少女たちの事件を通して、ここ佐賀で何ができるかを考えた。気が付いてみたら、自分が会の代表として活動していた。
 
20002年11月9日/教育会館
第2回
「暴力を容認する社会構造」
講師:甲木 京子
1. なぜ暴力をふるうのか?
 DVの被害を受けた人は警察に行っても夫婦げんかとして扱われ何もしてくれない、自分が殺されないとわかってもらえないと言います。
 加害者が暴力をふるう理由に注目してはいけないのです。どういう人でもDV関係をつくる人と結婚すれば、DVにあうのです。
よくある理由(夫から妻への暴力の場合)
・妻が義務を果たさない・・・食事の支度ができていない、料理が下手、子どものしつけが悪いなど
・妻が従わない、勝手なことをする・・・帰宅が遅い、妻の人つきあい、無駄使いなど
・妻が気に入らない・・・気がきかない、することが遅い(グズだ)、教養がない(バカだ)など
・ストレスのはけ口に使う・・・失業、借金、仕事がうまくいかない、会社でバカにされるなど
・飲酒・薬物・精神病・その他の病気・子どものときの虐待経験など
 自分の思うようにしよう(愛という言葉で語られ)自分の給料を妻がなぜ使うのか(力関係が大きくなるのがお金)ジェンダー意識(役割)親が子どもをたたくように、夫が妻をたたく(保護)のです。
 アル中を理由にする人が、しかし、アル中とDVは関係ないと言われています。
 女の人に性暴力をふるう人は、自分の病気を理由にする人もいます。子どもの時の虐待体験、DVの中で育ったなどさまざまですが、加害者の暴力をふるう理由=言い訳に注目してはいけないのです。
 DVの中にいると、暴力の中にいる方が安全だ、逃げるのは危険とわかっているのは被害者です。被害者の声を聴くことが大事です。殺される男の数は減っているけど、殺される女の数は減ってはいないのです。DVの家庭の中に子どもがいると、子どもがどのくらい被害にあっているのか分からない状態、または無感覚になってしまう人もいます。
 DVが起こっている所で子どもへの虐待、高齢者への虐待を引きずっています。相手を尊重した関係がつくれないのです。
 
2. ジェンダーとは
 女は下位におかれていることを女たちは問題にしてきたのです。女性が多くの負担を受けています。労働の場でも二次的労働者として扱ってきたので、女性もそうせざるをえないのです。パート職、正規の職員ではない、安くて流動的に使われている、それを許している労働の場の日本があり、家事、育児は女性がする立場となってきました。不妊治療、避妊においても女性が負担を受けてきたのです。
 フェミニズムや男女平等とは女と男が入かわればいいのか、同じようにすることなのか?ではないのです。すべての人間がジェンダーの抑圧からフリーになる、すべての人が自由に安全に、自分の選んだ生き方ができる社会を目指すものです。そのために、ジェンダーが許し、隠してきた、つまり、国家が容認放置してきた「女性に対する暴力」の根絶が不可欠なのです。
 
3. 社会問題化した背景
 1960年代から欧米の女性解放運動の中で性暴力への取り組みがはじまり、レイプのとらえなおしがはじまったのです。
 反レイプ運動(レイプ・クライシス・センター)
 BW運動(バタード・ウィメンズ・ムーブメント)⇒シェルター・ムーブメント
 セクシュアル・ハラスメントの発見と法律での禁止⇒性差別の一形態として位置づけ
 女性への暴力に対して名前がつけられ⇒顕在化⇒個人の問題から社会の問題へと認識され、解決のためには社会の認識が変る必要があることを訴えていく動きが始まったのです。
 加害者は加害者として存在しなかったので、被害者の声を集めました。
 日本では89年にセクハラという言葉がうまれ、シェルターが必要という訴えを、政府、一般の人が無視していた状況があったのです。
 国連を中心に女性差別をなくしていかないと、ということで世界での平和、人権、女性差別撤廃への取り組みがはじまりました。
 1979年  女子差別撤廃条約
 1993年  女性に対する暴力撤廃宣声
 1994年  北京会議行動綱領→1996年男女共同参画ビジョン・プラン→DV防止法
 1人1人の人権が考えられる社会になってから、DV、セクハラも見えるようになってきました。暴力が許される社会では女性、子どもが暴力、差別を受け、平和をつくることができないのです。
 
4. 暴力のない、暴力を許さない社会に向けて
 日本も暴力のない、暴力を許さない社会に向けて変容しつつあります。
 <法>民事不介入⇔ストーカー法、児童虐待防止法、DV防止法、成年後見制度
 <社会通念>痴話げんか、夫婦喧嘩、しつけ⇔DV、子どもの虐待
 命を脅かされる人を支援する、個人を尊重する社会になっていきています。
 女性が売られたり、買われたりする社会ではDVはなくならないのです。
 「スウェーデンの女性に対する暴力に関する法令」は包括的に考えています。
●スウェーデンの女性に対する暴力に関する法令
 「女性に対する暴力」を「女性の尊厳の重大な侵害」として考える
→個々の暴力を全体として評価し、刑罰を加重する(他の家族間の暴力も)
→買春禁止法、トラフィッキング対策、NGO支援、社会福祉法など含む
*DVだけではなく、親しい関係の中で起こる暴力に対して、全体として評価して刑罰を加重するシステム(髪をひっぱる、言葉1つ1つではなく被害を全体として考える)また、男性の買春禁止法とセットになっている法令。
 そこから逃れたいと思う人を手助けできる社会。関わった人1人1人ができることをやっていく、いい方向に支援することが大事なのです。
●女性に対する暴力のない社会の特徴 *「family Violence in Cross-cultural Perspective」一夫一婦制、両性の経済的平等、両性からの離婚が同じように自由、親の代わりに子どもの世話をする人が容易に手に入る、家庭内の争いに近所や親戚が必ずすぐに介入する、家庭外の争いを非暴力手段で解決する社会規範がある。
 外の問題を力で解決していく、戦争、民族紛争・・・今そのような世界になってきています。暴力を受けたら暴力でかえす。家庭の中でも暴力で解決していくことが暴力をはびこる社会をつくっているのです。
 家庭の中で暴力はいけないと認められてきたが、現実にはなかなか進まない状況があります。平和や安全をつくっていく動きもあるが報道されていません。テロ、戦争など暴力で解決する情報、偏っているニュースが流れており、両方の考え方の中で世界が動いている時代だと思います。
 しかし、世界中でDVに熱心に取り組んでいる人がいて、人間が尊重されているのか、一人一人の尊厳を守っていこうという動きもあるのです。







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