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エッセイ
揺れる心
秋田犯罪被害者支援センター
相談員 沢口 秩子
 昨年四月、秋田犯罪被害者支援センターが発足してから、私は相談員をさせてもらっている。引き受けるときは、さして考えてもみなかったが実際かかわってからというもの、時として、被害者と加害者の狭間で心が揺れることがある。
 というのは、私は保護司の仕事をしていたからである。大人でもそうであるかもしれないが、特に未成年者で犯罪に走った者の中には、一概に彼や彼女たちだけを責められない場合があったりして、いかに更生につなげていくかに心をそそいできたからである。勿論被害者のことを考えさせながらではあるが、その思いが、あるいは希薄になっていたりしていたかもしれない。
 それに気がついたのは、支援センターの相談員になり研修の場で、あるいは直接被害を受けた方のお話を伺ってからだった。理不尽にも被害者になった人達、この方たちのおかれている状況、悔しさ、無念さ、憤り、絶望感等の心情を私はこれまで自分のものとして考えることがなかったようにも思う。
 このことに気づいた時、私はどちらか一つを辞めなければならないのではないか、と思ったりもした。
 いろいろ悩んだ末、しかし私はどちらも辞めることをしなかった。加害者も被害者も両方の心を知ることで、私自身の相談活動は少しでもバランスのとれたものになるのではないか、そう考えたからである。いいかえると被害者の心を知ることで、加害者への接し方が大きく違ってくると思ったからである。そうしなければならないと思う。
 今、私は少年院に入院している少年を担当し、時々文通をしている。彼は言葉では、被害者について申しわけないことをした。だからきちんと償っていきたいという。しかし、まだまだ自分のことしか考えていないようにも思われる。私はいつもいつも被害者の家族が、どんなに悲しみ、傷つき、出来るものなら元の状態に返してほしいと思っている事実と、心のうちを訴え続けている。心から罪の重きを知り一生かけてでも、償ってほしいと願っている。
 償うということで、ある裁判官が少年に対して歌手「さだまさし」の“償い”を聴かせた話を聞いた。私はさっそくCDを買い求め何度も聴いてみた。
 交通事故で人を死なせてしまった主人公が「人殺し、あんたを許さない」とののしられた。それから七年間毎月仕送りしてきた。少しでも償いたい一心からであった。歌詞の一部に−手紙の中味はどうでもよかった。それよりも償いきれるはずもない、あの人から返事がきたのが、ありがたくて、ありがたくて・・・。現実はそう甘くないと思う。これからも被害者に対して正しい理解をしていきたいと思っている。
 
相談員雑感
 今年は三月に暖かい日が続き、桜の開花も間もなくとのこと、春が早足でやってきました。
 現代社会では、突然に誰しもが犯罪被害者になりうるような報道が毎日出ています。難しい相談に不安を抱きながらも、少しでもお手伝いできるのであればと昨年からボランティアの一員に加わらせていただきました。そして、研修会や講演会にも参加して、初めて被害者の多くが他人に言おうにも言われぬ苦しみや悲しみを持ち、支援を必要としていたことを知りました。また、これまでの「全国被害者支援ネットワーク」の結集、「センターみやぎ」の開設時の多くの方々のご苦労と熱意があったことも知りました。
 相談電話のベルが鳴る。深呼吸をして取った受話器の向こうの声。くぐもった声に何度か聞きかえしてしまう。すぐに他機関を紹介した方が良いのか・・・。相談相手は話し続け、その苦しみ、悔しさが伝わってくる。−毎回、様々な相談の方に対応して電話を切った後、これで良かったのだろうか、別の方法や話し方があったのではないかと自問してしまいます。
 電話相談において、相談される方の話した内容をどう受けとめ、理解したかを的確に整理して聞きかえすことは、相手との対話をすすめていくうえで大切な作業と学びました。それによって、相談される方は理解され、受けとめられている安心感・満足感を得て話すことができると思います。
 被害者の最初の接触が、この電話相談であるならば、役立つ評価を得られるように、必要な援助ができるようになるために、またまだ自己研鑚と研修が必要と思っているこの頃です。
(O・K)
 当番の朝はいつも一時間以上前に家を出る。私の職場は自宅から歩いても三〇分、車なら一〇分もかからない場所にあるので、バスと地下鉄を乗り継いで目的地に向かうことは、日常ならばまずありえない。
 それだけでも充分「いつもとは違う」状況なのに、土曜日の朝、平常ならばラッシュアワーにあたる時間に地下鉄でセンターへと向かっていると、閑散とした駅構内でもうひとつの職場へ向かっているという緊張感が自然に湧いてきて、今日は一体どんな一日になることだろうかと不安や期待で複雑に膨らんだ気持ちを抱えつつ、センターの門をくぐる。
 研修を終え正式に相談員になって早二年。当番が回って来るたびにこんな気持ちでセンターに通い続けた。年を重ねても、自分はまだ研修生だった頃と何にも変わっていないように思える。ベルがなり受話器を取る前に、対応は拙くてもせめて相手の話だけはじっくり聞くことが出来るようにと深呼吸を一回する癖も、そして受話器を置いたとたんこれでよかったのだろうかと不安になる気持ちも全て。
 それでも何とかセンターに通い続けてこられたのは、そんな私をいつも励まし助言を与えてくださる先輩方・事務局の皆さんのおかげだと、いつも感謝の念が絶えない。日常に忙殺されて満足にお手伝いも出来ないことが残念であり、情けなくもあり・・・心苦しいばかりである。
 しかし、まずは自分が無理なく出来ることから、という精神でこれからも頑張っていきますので、今後とも、こ指導よろしくお願いします。
(A・I)







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