はじめに
わが国では平成8年7月20日に国連海洋法条約が発効し、同年より7月20日が「海の日」として国民の休日となりましたが、その経緯を知る国民は少なく、国土面積のおよそ12倍にもおよぶ広大な排他的経済水域を含む「海」を持続的に利用していくことの重要性は、国民の十分な理解を得ているとは言いがたい状況にあります。
一方、国連海洋法条約の発効後、ナホトカ号の油流出事件や九州南西海域における工作船事件など、わが国の排他的経済水域を舞台として社会的にも関心を集める様々な事故や事件が起きています。
そのため、わが国の政府に対して、学界や産業界などから包括的な海洋政策の策定を望む声が以前にも増して聞こえるようになり、産業界からは、平成12年6月に経団連が「21世紀の海洋のグランドデザイン」と題する意見書を、平成14年5月には日本財団が「海洋と日本21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言」と題する提言書をそれぞれ公表しました。
このような状況の中で、平成14年8月に科学技術・学術審議会答申「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について」として、排他的経済水域の管理を含む21世紀初頭におけるわが国の海洋政策が公表されました。
しかしながら、その答申においても、海洋管理の具体的な推進体制やタイムスケジュールが示されていないとの批判もあり、わが国の海洋管理体制は未だ十分ではない状況が続いています。
そこで、社団法人海洋産業研究会では、排他的経済水域を中心とした海洋管理の対象範囲や管理の理念から議論を掘り起こし、包括的な海洋管理のあり方を検討することを目的として、平成13年度および平成14年度に日本財団のご支援により「わが国200海里水域の海洋管理ネットワーク構築に関する研究」を実施しました。
この提言書は、その事業成果をもとにとりまとめたものであり、わが国の海洋政策に関する関係省庁をはじめとする関係機関での議論・検討の参考としていただくことを期待いたします。
平成15年5月
社団法人海洋産業研究会
200海里水域の海洋管理ネットワークの構築に関する提言
〜排他的経済水域および大陸棚等の持続的な利用を目指して〜
1. 排他的経済水域および大陸棚は国土管理に準じた最重要課題として国が管理すべきである
国土や沿岸域は、国と地方公共団体の適正な役割分担のもとに管理されるものであるが、排他的経済水域および大陸棚は、国土管理に準じた最重要課題として国が管理すべきである。
2. 海洋管理に係る基本法制整備のためのネットワークづくりが必要である
わが国の海洋政策を戦略的に企画・立案するための関係機関のネットワークづくりが必要である。
3. 海洋管理基本計画(仮称)を策定することが必要である
国土の総合的・計画的な利用の基本方針を定める国土利用計画に相当する「海洋管理基本計画(仮称)」を策定することが必要である。
4. 海洋管理の礎(いしずえ)となる海洋情報整備に直ちに着手するべきである
海洋管理を行うためには、管理の対象となる排他的経済水域および大陸棚の環境情報や資源の賦存状況、海面・海中・海底の利用状況等の海洋情報を正確に把握することが不可欠であることから、海洋情報整備に直ちに着手するべきである。
5. 資源の持続的な利用に向けて総合的な政策を展開する必要がある
わが国の排他的経済水域および大陸棚に存在する豊かな生物資源および非生物資源を持続的に利用するためには、利用・開発・保全のバランスのとれた政策を推進することが重要である。
6. 国民の理解を得ることならびに人材を育てることが必要である
わが国の排他的経済水域および大陸棚の適正な管理は、そもそもわが国の産業経済と国民生活を支えるための施策であり、納税者たる国民に理解を得ることが重要である。
また、適正な海洋管理を行なうためには、専門知識を有する多種多様な人材が必要である。
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