Q:「スタッフのプロフェッショナリティ(専門性)は何か」と言う質問にミムジーは「良き大人であること(Good person)」と「有能で十分な人間性(Competent)」と答えました。その有能とはどういうことでしょうか?
ミムジー:スタッフとして適している人を子ども達自身が選ぶということで、私にはなんともいえません。しかし、子どもたちが選んだ人を見てみますと大変付き合いやすく、経験豊富で、とても魅力的な個性を持っています。そのような人が、SVSにとって有能な存在だと思います。
しかし、人の気持ちは皆違っていますので、何を考えているかや、本質的にどういうものが、子どもたちにスタッフとして認められているのかはわかりません。
Q:ヒラリー(昨年SVSから来日した留学生)が「子どもとよく遊ぶスタッフはいますか」との質問に、「子どもと遊んだり、ゲームをしたり、野球をしたりするようなスタッフはいない。彼らは仕事で忙しいから」と答えていましたその「仕事」とは、具体的にどんなことですか?
ミムジー:スタッフも時々、子ども達と遊びます。ただ遊びと学びを区別していないので、どういう見方でそのように思うのかわかりません。例えば、子どもと一緒にスポーツをしているスタッフもいれば、一緒にパズルをしている人もいますし、一緒に本を読んでいる人もいます。そこに遊び・学びの区別(違い)はありません。そこでも学んでいるのですから。けれども、子どもたちの要求に対していろいろなことを教えたり、学校の委員会の手伝いをしたり、そういった役割もしています。
Q:ヒラリーの見方と違っているわけですね。
ミムジー:ヒラリーは、SVSにいる時、多くの芸術活動や写真術をしていました。彼女もスタッフの誰かとそういうことをしながら遊んで(学んで)いたのかも知れません。でも、ヒラリーぐらいの年齢でSVSにやってくる子は、スタッフと一緒にいる時間は少ないと思います。なぜなら、もう先生というものにいい加減疲れているからです。
Q:ミムジーは数学のクラスを教えているそうですが、他に何をしていますか?
ミムジー:Eメールのチェックや、色んな人からの電話応対などをしています。時々他の学校から電話がかかってきたりします。数学の授業は一対一で15人ほどの子を教えています。その他、調理をすることもありますし、委員会のことを手伝ったりもします。
Q:SVSでは、子ども達は自分の時間を過ごし、スタッフは子どもたちに自分の時間を提供するということですか?
ミムジー:捉え方としてはそれでいいと思います。けれども、スタッフも提供してばかりではなく、時には自分のために時間を使うこともあります。
Q:スタッフも、自分の裁量において行動するということでしょうか。大人も自由にしてよいということですか?
ミムジー:そのとおりです。しかし、学校管理(土地や経済面など)の責任を持つスタッフは、そのようなことを意識して過ごしています。
Q:子ども達の遊びに特にスタッフが必要の無いときには、スタッフは自分のことをしていいということですか?
ミムジー:ジョーンという美術の先生は、いつも美術室にいます。生徒達が彼を必要としない時には自分の美術活動をしています。けれども、そういった環境の中でスタッフとして雇われているという意識を持ち続けることは大変難しいでしょう。SVSのことを楽園だと思われるのは非常に困ります。実際はとても現実的であって、人々はこの場所でどのように時間を使うかを真剣に考えています。また、さまざまな人間関係の問題も起こってきますし、言い争いなどもあります。
Q:子ども同士のトラブルなどは、結構あるのですか。
ミムジー:時々あります。
Q:トラブルを調整する際に、子ども達だけで解決するのが難しくなって、大人が介入する場合もありますか。
ミムジー:司法委員会という機関があります。これはシステムに基づいた問題の解決の方法です。しかし、日常生活の上では年齢の高い子も加わって、友達同士がどうにかその場で問題を解決することもあります。
Q:司法委員会である子どもに罰を科すことに決まった場合、その子が罰則をきちんと実行したかどうかを見届ける人はいるのですか?
ミムジー:そのような役目の人はいません。SVSでは司法委員会で決められたことを罰(punishment)としてではなく、自分がとった行為に対する責任(consequence)として、それを捉えます。いわば、自分が招いた結果であると考え、その後始末をする感じです。子ども達はこのことをとても真剣に受け止めているので、かせられたことを放棄する子はいません。皆がそれを果たすのだという信頼関係はすでに出来上がっています。それがなされないということは、信頼関係を結ぶことが困難になるのだから、悪いことだとみなされています。
Q:「責任を取る」という事を子どもたちは自然に受け入れていくのですか?
ミムジー:受容できる、出来ないに関わらず、受容しなければならないことです。それを皆が理解して、受容することが大切なのです。SVSではいちいちそれを説明する必要はありません。皆がこのことを受け入れているからです。
Q:あるフリースクールでは、科せられた責任(consequence)を果たさない無責任な子どもが多く、困っていると聞きました。それをどのように考えますか。
ミムジー:そこはまだ始まって間もない学校、年数があまり経っていない学校なのかもしれませんね。あるいはその学校自体が「責任を取る」ことについて、真剣に取り組んでいないからかもしれません。尊重しあうこと、民主主義、司法システムというような学校の文化が出来上がるには時間を要するものです。一番肝心なことは、子どもたちが学校のことを真剣に考え、学校を信頼し、親しみを持つことです。そして、そのような学校が運営を続け存続していくために、しなければならないことを真剣に考えていくのです。自分達の学校のあり様に誇りを持つようになるには時間がかかります。
Q:SVSのような民主的な環境が権威を恐れない人間を育てるのでしょうか?
ミムジー:そうだと思います。
Q:現在、保護者はどの程度学校に関わっていますか?保護者会はありますか?
ミムジー:そう呼ばれるものはなく保護者も学校のメンバーとして加わっています。年に何度かの大きな会議では、親も参加することが出来ます。その場では学校において重要なこと―学校の方針、経済的な問題、子どもの卒業のことなど―を、子どもやスタッフと共に話し合っています。もちろん、そういう会議に来る親と来ない親がいます。
Q:今、保護者の中に日常的にスタッフとしてSVSにいる人はいますか?
ミムジー:2人います。一人はもともとSVSのスタッフとして働いており、子どもが出来た際に、その子もSVSに通うようになりました。もう一人は子どもがSVSに通い始めたことがきっかけで、スタッフになりました。
Q:「education(教育)」という言葉の元来の意味を教えてください。
ミムジー:ラテン語から来た言葉で無知から導きだすという意味だと思います。
Q:では、SVSで行われている教育も、そういった「大人が子どもを無知から導き出す」教育を行っているのですか?
ミムジー:いいえ、私達は「子ども達が自分で自分を導く」という姿勢を大切にしています。
Q:つまりSVSでの教育は、元来の「教育」という観念とは違うのですね。
ミムジー:そのとおりです。SVSでの教育は、一般で行われている教育とはまったく違います。本当にそれに対し自分をささげることができるのかどうかということです。
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