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実際に国土保全の担い手となる地元住民の協力について、まず住民の自発性に対して積極的な支援が行われているが、行政サイドとしては住民からの自発的な参加を待つだけではなくて、背中を押してあげるような施策、対応が必要である。
 
○山形県小国町
 そういった視点の取り組みと思われるような事業を二、三御紹介させていただきたいと思います。
 まず一つは、「村おこし総合助成事業」というものを町独自で実施をしております。この事業は昭和59年から行っています。竹下さんのふるさと創生が始まる前からやっておりまして、平成元年から名前を「ふるさとづくり総合助成事業」にかえました。現在まで320の事業を展開しており、事業費で8億3,000万、町が負担した分については3億8,000万ほどです。
 何をやってきたかといいますと、一つは集落単位、集落に及ばないような小さい共同組織でも結構ですけれども、地域に根ざした事業をやる場合に、地域がみずからの地域をどういうふうにデザインするかという計画の段階から助成をしています。そして実践事業費の助成を行っています。それから職域、職域といってもいろいろな職域があるわけでございますけれども、文化団体やボランティアも含め、団体の計画策定費、そして事業費について助成しています。年間予算で2,000万ぐらいの地域協働事業を実施しております。
 どんな事業に使われてきたかというと、一つは集落の景観保全という事業です。荒廃するような農地の用・排水路をちゃんと復元したり、改良したり、あるいは登山道、環境美化といいますか、花を集落に植えるとかの事業が展開されています。
 そのほか、里山の活用では、イワナの孵化養殖事業、あるいは先ほどコモンズというお話がございましたけれども、観光ワラビ園の造成という事業などにも使われております。この観光ワラビ園について若干申し上げますと、現在小国町では観光的にワラビ園をつくって、そして都市側の皆さん方に利用いただいているという箇所が13カ所ほどございます。1カ所が最低でも10ヘクタール、大きいワラビ園になりますと50ヘクタールぐらいの規模です。ワラビ園は、ワラビの生息する時期が小国の場合には6月ですので、6月の1ヵ月間、週2回ぐらい開園しまして、都市側の皆さんに体験山菜採集をやっていただいているという事業です。1人2,000円ぐらいずつの入園料を頂戴しまして、その運営はすべて関係地域の住民が自主的に行っている。行政はお手伝いも何もしていません。そのほかに山菜の栽培、あるいは特産物の開発、キノコ栽培、そういった事業に主に使われてきたようです。そんな事業を19年間になりますけれども、住民が主体的に行っている事業に町もお手伝いをしてきたわけです。
 それから、今年から二つほど新しい事業の取り組みをさせていただいております。一つは「農村の暮らしづくり総合助成事業」という事業、これも町単独でつくりまして、ふるさとづくり総合助成事業費では若干規模的に少なすぎる事業で国や県の補助事業になじめるような規模になっていない事業を救っています。そういう意味で主に農業関係施設、あるいは環境保全、大水で決壊した水路を直すとか、そんな事業などに使わせていただいております。
 もう一つは、山間部に参りますとコミュニティ道賂というのがあると思うのです。町道でもない、集落道でもない、生活道ではあるけれども、農道にもなっていないという道路があるわけです。しかし、それは非常に大事な道路なのだが、道路改良についても手伝うことのでない。コミュニティ道路整備事業を平成14年度から立ち上げをし、今計画的に事業の展開を図っております。
 それから、もう一つ、実は山の荒廃といいますか、手入れを促進し荒廃を防ぐという意味で取り組んでいる事業があります。地場の木材というものが計画的に、あるいはその年その年のある程度の需要をきちんと確保するということが重要ではないかということで、地場産の木材を使って住宅を新築あるいは増築した場合には助成をしようという制度を昨年からつくりました。助成額は非常に少額で、1戸当たり限度30万ですけれど、小国の本がもう一回見直される、地場の木が見直される、そして計画的に育林あるいは植林をしていくというような林家あるいは農家の意識というものを高揚していきたいという目的で、そんな事業を展開しております。
 
○島根県六日市町
 竹下さんの「ふるさと創生基金」の島根県バージョンとして、島根県が県内59市町村に対し、一律に高齢化率が35%だとか集落のいろいろな条件が整ったところには100万円を配分しましょうということで、私の町では、これは平成11年から13年度の事業ですけれども、100万をいただく集落が64集落ありました。どうしても集落が疲弊して請求できないところが3集落ですか、だからほとんどもらえたわけですけれども、これはいろいろな最悪のケースでは、集会所をつくるための足らずを補てんしたりとか、そんなものもありましたけれども、豆腐の加工場をつくったりとか、ビオトープ的なところをやったりとか、結構効果がありました。
 今、新年度からは元気づくり集落ということで、県が、その中でやれるところはソフト事業でまた対応してくれるということです。島根県では「3S事業」といって、「住んで幸せ島根」という三つのSですけれど、私は「三つのすみません」というふうに3S事業を言ったのですけれども、いろいろなイベントをその補助金の、基本的には半分、ある意味では3分の2もらえるのですけれども、やりました。その中では都市交流ということで、東京六日市会に300人会員がいるのですけれども、1年はこちらに来てもらい、次の年は東京で総会をやるという交流事業をずっとやっておりますけれども、結構活発的に六日市のお米も東京在住の人が団体で買ってくれるような流れができつつありますけれども、その中には前の芸大学長の澄川喜一先生であるとか、森英恵先生あたりが足しげく六日市に通ってくださるようにもなったという心の交流もできるようになったということと、私の町は映画館がないのですね、人口6,000で。映画館のない町というので、「僕たちの映画館」というソフト事業で映画を毎年やるようになって、せめて子供たちにもそういった中央の文化も楽しんでもらおうといったようなことが補助的なことでできるようになったということなのです。廃校を利用した交流施設も、ハードでは辺地債だとかいろいろな財源をうまくいただきましてやらせてもらいました。
 山の関係で言いますと、森林整備地域活動交付金、これが今年度で森林組合と林業公社を使ってですけれども、事業としてちょっとやります。
 あとは、緊急雇用地域調整交付金は福祉でも使わせてもらったのですけれども、今年度は里山整備ということで県の事業を使って特徴的な事業をやったところということで私の町にもあるのですが、フェンスより30メートルから50メートルの区間を刈り払いをするということで、これがいわゆる緊急調整交付金を使った森林作業ということで、今年度の3月までに町でも取り組むというふうにやっております。
 農業公社という公社を、県内的にも少ないのですが、やっているのです。取り組みは早かったのですが、これは反省点という意味で報告しますけれども、公社というのは三セクも大体そうなのですけれども、民間のいいところと行政のいいところが大体うまくかみ合って機能するものなのですが、ややもすると民間の悪いところと行政の悪いところが合体して、余り活動が活発でないといったようなところがあるのですけれども、ちょっと行政主導ですが、野菜のもぎ取り農園だとかいろいろな仕掛けをやっていまして、広島あたりのお客さんが随分来られるようになりました。
 山が荒れるということは、人工林ももちろんそうですけれども、枝打ちがなされていないところがほとんどですので、下草ももちろん生えないですし、そういうことになれば土砂の流出だとか水源涵養とかいろいろな意味で問題を随分抱えているけれども、これは地方だけの責任では到底賄いきれないぐらいのレベルに来ているというふうに思っています。
 私も個人的には80アールの水田を持っていまして、山林も結構あるのですけれども、悲しいかな20何年前に祖父が亡くなってから全部預けております。そのかわり周辺の畦畔だとか河川の桜並木などは土日を利用して作業をしているのですけれども、これもダイエットを楽しみながらの環境美化と地球環境に貢献しているという大義名分で仲間と常に酒を飲んでいるのです。これは全然関係ないことですが、過疎というのが老中松平定信の「寛政の改革」のとき、農業政策重視ということで、お米をしっかりつくる、石高をふやすという、国策として農村重視、地方へとにかく人を集めるという政策をしたらしいのですけれども、どうしても巨大都市江戸が膨れ上がったように農民は江戸へ集まったという歴史があるということですけれども、やはり二百何年前も現在の過疎や一極集中も変わっていないのだなというふうに大変実感をしております。
 余談ですが、今望まれる国土保全の新たな担い手づくりという意味で、一番気になったのは、広島からちょっと離れたところにある山を削って造った高速道路のまわりに、あちこち平らな山を削った団地ができているのです。それで、私の知っているある不動産会社の社長は、賭けだと言っていましたけれども、2,500戸の団地をその会社がプロジェクトして今つくっているそうです。ちなみに私の町は、2,450戸で人口6,000です。だから、ちょっとした会社が山を削れば私の町ぐらいの団地は幾らでもできるのですね、病院とか学校までできるようなところができるのですね。
 これは、ある意味では完壁な自然破壊ですね。国土保全という観点からいくと全く相反することを片一方でやっている。それで片一方では、既に生産基盤もすべてあるのにそこが維持できなくなってどうしようかという、外へ出なければならないという相矛盾したものをどうするかというのが国土保全のあり方なのかなというふうに思っていまして、全く歯が立たないですね。小さな町村には歯が立つわけがないということで、その辺の中で今合併論議があるから、これは大変なことだなという、乱開発はいかがなものだといったことも言いたいわけでして、ここは国策として自治体のUターン奨励金などは、今私の町でも世帯主に10万円、家族1人につき5万円というか、微々たるものですけれどやっております。年間1,000万ぐらいですけれども、これは補助金を目当てに帰ってくる人はいません。今都会の生活が厳しくてリストラがあったけれども、たまたま生産基盤があって家もあるし、じいちゃん、ばあちゃんも生きているし、農地もあるからということで、子供を連れて帰ってくる方が若干おられるというだけで、そうかといってその方たちが都会の3分の1の年収も保証できないという現実を抱えているということですから、私の町では農業をなりわいとして成り立つ何かを今産業課としてやろうというふうに頑張っておるのですけれども、限界があります。これはやはり遷都論ではないですけれども、国を挙げて地方に帰ってこられる方には手厚い何かを応援してほしいなというふうに、住宅も含めてですね、というふうに考えております。
 方法論としては、国から農村への移住奨励事業などをモデル事業としてやはりやるべきでしょうし、片一方では住んでいる方を大事にしながらですけれども、嫌々住んでも仕方がないという、従来の手厚い、住民1人いても橋をかけるといったような行政はできませんから、ある意味では血の総入れかえも必要だろうというふうに、刺激を与えるということが必要ではないかというふうに思っています。







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