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事例2 横須賀市(神奈川県)
〜NPOの企画提案力を高めるためのコンペの実施〜
1. これまでの取組み
■市民参加から市民協働へ
 横須賀市では、市が定めた行政改革大綱(平成8年2月)で、市民参加とボランティア活動の支援について、(1)審議会等委員の公募制やまちづくり提案など幅広い市民参加の推進方法についての本格的な検討の必要性、(2)市民の公共的ボランティア活動に対し、その自主性を尊重しつつ側面から支援する途をさぐる必要性を明記し、さらに、市基本構想において、「市民の自主的な行動のもとに、市民と企業と行政がよきパートナーとして連携」することが必要であると位置付け、「市民協働によるまちづくりの推進」として「市民や企業との合意形成の機会を充実し、協働してまちづくりに取り組む」ことを明記した。
 
■市民協働に向けた取組み
 市は平成10年度に、基本計画で位置付けられた市民協働のまちづくりの推進に向け、「市民協働型まちづくり推進指針」、「市民活動促進指針」を策定した。市民協働型まちづくり推進指針は、市民協働型まちづくりの進め方についての理念、原則、推進策の枠組みなど、基本的な考え方をまとめ、(1)まちづくりをリードする担い手づくり、(2)多くの市民が参加・参画したくなる事業づくり、(3)市民と行政の合意形成に至るプロセスづくり、(4)市民と行政のコミュニケーション環境づくりを柱に掲げた。市は、市民部に市民協働推進担当を設置するとともに、市内各地区の行政センターにおける市民協働事業やまちづくり出前トークなどを実施している。
 市民活動促進指針は、市民活動に対する市の姿勢と施策の方向性を明らかにし、(1)活動環境整備に関する支援策、(2)市民活動に対する支援の気運を高める方策、(3)市民と行政との協働推進に関する方策を掲げた。
 市民協働の更なる展開と気運を高めていくため、横須賀市は平成12年5月、「横須賀市市民協働推進条例」(以下「協働条例」という)の制定検討に着手したが、(1)多様な市民参加の方法を採用、(2)あえて市側でたたき台をつくらない、(3)委員会に行政職員も参加、(4)重要な委員会提出資料は市民委員と一緒に作成、(5)意見をしっかり述べることができる人に委員になってもらう、(6)条例素案づくりのワーキングも含め、納得できない部分が残らないよう委員同士で徹底的に議論してもらう、という方針をとった。
 市は条例案のたたき台は一切作成せず、委員同士の議論や、広報やインターネットで募集した市民の意見等に基づき検討を進め、有志の委員に複数の私案を作成してもらい、延べ40時間に及ぶワーキングで一本化を図っていく方法をとったが、行政の立場から修正すべき点は、市の委員が委員会のなかで説明を行い合意を得ていった。
 
2. 横須賀市における協働
■市民協働の推進が目的
 協働条例では、「市民協働」を「市民、市民公益活動団体、事業者及び市がその自主的な行動のもとに、お互いに良きパートナーとして連携し、それぞれが自己の智恵及び責任においてまちづくりに取り組むこと」と定義している。
 パートナーシップの主体は、(1)市民、(2)市民公益活動団体、(3)事業者、(4)市と規定した。この中の「市民公益活動団体」とは、「市民公益活動」、すなわち「市民及び事業者の自発的な参加によって行われる公益性のある活動(利潤追求の経済活動、宗教活動、政治活動等は除く)」を行う団体と定義し、町内会・自治会などの地域コミュニティも含めている。条例が市民活動の促進のみでなく、市民協働の推進を目的としているため、住民の9割を組織し、さまざまな地域活動を展開している町内会・自治会をまちづくりのパートナーに位置付けているのである。
 協働条例では、各主体が果たすべき役割を規定しており、市民について「自ら考え、行動するよう努める」ことを明記した。
 
■市民協働推進に向けた具体的施策
 協働条例では市民協働推進に向けた具体的施策として、(1)助成金の交付等の財政的支援、(2)業務を委託する等の行政サービスヘの参入機会の提供を規定している。
 財政的支援では、例えば公開性・透明性を確保するため、「市民公益活動団体及び市長は、財政的支援の手続きに係る書類又はその写しを一般の閲覧に供しなければならない」と明記した。
 申請書や事業計画書などは補助金等交付規則に基づき提出してもらっていたが、協働条例施行に伴い、市から財政的支援を受けている団体には歳入歳出決算書を提出してもらい閲覧に供することとした。町内会には抵抗感もあったようだが、公金の使途を市民の目でチェックするために出前トークなどで理解を求め、実行している。町内会をはじめ、市民公益活動団体には補助金等が助成されており、書類を提出させることにより、補助金等の見直しや今後の補助金のあり方について、市民の間で議論してもらうねらいも込めている。
 市は、業務委託等への参入機会の積極的な提供に努めるとともに、「登録制」を導入し、参入機会の提供を受けようとする市民公益活動団体には申請書を市長に提出することを求めている。公平・公正で透明な業務委託のルールを確立していくのが登録制の目的で、市は登録団体のなかから委託希望団体を募り、委託先を選定していく。
 登録に当たっては、(1)設置目的や市民公益活動の内容、事務所所在地などを記載した規約・会則、(2)役員名簿、(3)会員名簿を添付した申請書を提出する。申請が市民公益活動団体の要件に適合すると認められると登録され、申請内容はファイリングされ市民に公開される。今後は、単に金額面だけでなく、企画や運営方針なども総合的に審査して委託先を決めていく方針である。法人格がなくても登録は可能であり、平成14年11月現在、34団体が登録している。
 
<市民協働条例に規定された各主体の役割>
[市民]
(1)自己が暮らす社会に関心を持ち、身の回りのことについて、自らできることを考え、行動するとともに、まちづくりに進んで参加し、又は参画する意識を持つよう努める。
(2)市民公益活動に関する理解を深め、その活動の発展及び促進に協力するよう努める。
[市民公益活動団体]
 自己の責任のもとに市民公益活動を推進し、その活動が広く市民に理解されるよう努める。
[事業者]
(1)地域社会の一員として、市民協働に関する理解を深め、自発的にその推進に努める。
(2)市民公益活動団体がまちづくりに果たす役割の重要性を十分理解し、自発的に支援するよう努める。
[市]
(1)市職員に対する市民協働に関する啓発、研修等を実施して、職員一人ひとりによる市民協働の重要性の認識を深めるよう努める。
(2)市民協働を推進するため、市民、市民公益活動団体及び事業者の参加及び参画を得て事業を行う等の適切な施策を実施するよう努める。
(3)市民協働事業の計画から実施、検証にわたるすべての段階で、その情報を原則として公開しなければならない。
(4)市民公益活動が活発に行われる環境の整備等の適切な施策を実施するよう努める。
 
■市民活動拠点を開設
 横須賀市は、市民公益活動拠点として開設していた横須賀市立市民活動サポートセンターの運営をNPO法人に委託した。協働条例で規定している「行政サービスにおける参入機会の提供」の第一歩となった。
 市民活動サポートセンターは、平成11年11月に開設され、当初は非常勤職員とアルバイトによる市直営でスタートした。京浜急行線汐入駅前に設置され、年末年始を除く毎日、午前9時〜午後10時に開館、予約なしで打合せ等に自由に使える交流サロンや情報コーナー、ワーキングコーナー、パソコンルームなどがある。
 オープン後、1年余が経過し運営が軌道に乗ったうえで、市では運営を外部委託することとし、企画提案による公開プレゼンテーションを実施した。6団体が応募し、選考では、センター管理運営についての(1)基本的な考え方、(2)組織体制、(3)予算書、(4)市民協働推進セミナー事業計画、(5)市民活動フェア事業計画、(6)人材、(7)総合力の7つの評価項目を、学識経験者等5名の選考委員が総合評価した。
 その結果、NPO法人YMCAよこすかコミュニティサポートが選定された。
 
■利用者と対等な立場のNPOが運営
 市民活動サポートセンターの利用者数は開所当初から増加し続けており、現在、データベース登録団体が450団体、月間約3,000人が利用している。利用者の声を受け他団体との交流機会を設けることを目的としたミーティングを開催し好評を得るなど、柔軟なセンター運営が行われている。
 また市では、同センターの委託については、特定のNPOの既得権化を防ぎ、公開プレゼンテーションにより市内のNPOの企画提案力を高めることを目的に、概ね3年に一度選考し直し、市内のNPOに競争してもらうこととしている。
 
3. 課題と今後の展望
■市民力の向上と職員の意識転換が必要
 横須賀市では、市民協働に向けて、市民の課題として、(1)市と市民のお互いが、顔の見える関係をつくっていくこと、(2)市と市民、市とNPOの連携だけでなく、NPO同士が連携を深めていくこと、(3)協働条例の理念が市民の活動レベルにまで浸透していくため、市民自身も意識を高め、市民力を向上していくこと、一方、行政の課題としては、(1)市民からの苦情を嫌って市民の中に入っていくことを躊躇する職員がいること、(2)市民協働は時間がかかるので、行政だけで実施した方が早いという意識を持つ職員がいることと考えている。
 成熟社会のまちづくりは、市民の合意を得ながら時間をかけてじっくり取り組んでいくことが求められており、職員の意識を転換していく必要がある。職員も発想を柔軟にし、市民とともに成長していく必要があると市は考えている。
 市民参加の施設づくりワークショップなどを実施すると、まずは行政に対する苦情が噴出するケースが多い。それを避けるためワークショップをやめてしまえば市民協働がそれ以上前進することはない。
 市民の意識は、行政に対する苦情や要望を出し切ったのちに、「ではどうしたらいいのか」に向かっていくことが多い。その段階を迎えるための足場を築いていくことこそ、市民協働への大きな一歩だと市では考えている。







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