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II. NPO等への支援策
(1)NPO等の企画力や実行力を高める支援をする。
・NPOの独自性や自立性を保つため、NPO等に対する支援について支援センターの設立や活動場所の提供など間接支援を原則とする地方公共団体も多い。行政とNPO等との協働という観点からは、行政目的に資する事業に対しては直接支援を行うほうが、支援の趣旨を明確にすることができ、説明責任を果たすということからも望ましい。
 
・NPO等は全てを行政に頼るのではなく、自らの問題を自ら解決しようとするものであり、NPO等が住民により近い距離できめ細やかに住民ニーズを満たし、行政にはない新たな着眼点や柔軟性をもって取り組むことに対する期待は大きい。しかしながら、まだ活動間もないNPO等には、企画力や事業の継続性等に難点があることを指摘する意見も多い。NPO支援に当たっては、事業提案方式、コンペ方式をとることによりNPO等の企画力を高めることも有効であろう。
 
(2)行政とNPOの協働により、NPOサポートセンターを運営する。
・NPOサポートセンターの運営にあたっては、
(1)特定の団体だけではなく、様々なNPO等がサポートセンターの運営協議会に参加したり、サポートセンターの仕事を担うことにより、NPO等のセンターに対する参加意識を高める運営方法をとる。
(2)適当な団体が見つかった場合、中間支援型のNPOが持つ専門知識・ノウハウ、高いモチベーションを活用する。
(3)NPOサポートセンターの運営をNPOに丸投げするのではなく、行政も運営協議会に参加することにより、行政としての責任を果たすといったことに留意する必要がある。
 
<地方公共団体における取組事例>
事例1 仙台市(宮城県)
〜市民活動の裾野拡大とNPOとの協働による市民活動サポートセンターの運営〜
1. これまでの取組み
■市民公益活動支援の取組み
 仙台市はまず、平成7年度から9年度にかけて、市民公益活動支援に関わる課題等について、市民活動団体へのヒアリング、市民活動団体代表者と市各局の職員との懇談会などを行う一方で、企業の社会貢献活動についても実態調査を実施した。
 また、市の市民公益活動の支援策づくりに向けて、学識経験者と市民活動実践者で構成する「市民公益活動支援策検討委員会」や庁内15課の課長等による庁内連絡会を設置したほか、市民局地域振興課内に「市民活動係」を新設した。庁内連絡会は、市長を本部長とし、全局長等を委員とする市民公益活動支援推進本部会議として改組、全庁的な支援推進体制の整備に入った。
 市民活動団体と市の双方が条例案を持ち寄るかたちで合意形成を図りながら、「仙台市市民公益活動の促進に関する条例」を制定した。平成11年度には「市民活動係」を改組して「市民活動支援室」を設置し、市民公益活動の拠点となる「市民活動サポートセンター」の整備を行った。また、平成12年度には、市民公益活動支援推進本部会議を「市民公益活動促進本部」へと発展的に改組し、平成13年度には「市民公益活動促進のための基本方針」を策定した。さらに、基本方針に基づく実施計画「(仮称)市民公益活動促進プラン」の策定に着手し、検討が続けられている。
 
■仙台市市民活動サポートセンターの整備
 「仙台市市民活動サポートセンター」(以下「サポートセンター」)は、「仙台市市民公益活動の促進に関する条例」に基づき、平成11年6月に、市民公益活動を総合的に支援する拠点施設として、また、市民・事業者・行政の連携や交流促進の場として開館した。
 施設内容は、交流サロン、情報サロン、セミナーホール、会議室、研修室、共同事務室、親子交流サロン、印刷作業室で、設備としては団体用のロッカーやレターケース、印刷機、コピー機、公衆FAXなどがある。
 主な事業は、市民公益活動促進のための施設及び設備の提供、市民公益活動を行う者、市民、事業者及び市相互の連携及び交流の促進、市民公益活動に関する情報の収集及び提供、相談、人材育成、調査及び研究である。
 サポートセンターの開設に際して、市は平成11年3月に管理運営団体の公募を実施した。公開コンペ方式での選考の結果、応募3団体の中から、「仙台NPO研究会」(平成6年発足)を前身にもつ「せんだい・みやぎNPOセンター」(平成9年発足、平成11年NPO法人格取得)に委託した。サポートセンター事務局に派遣されるスタッフは、全国各地でNPO支援に携わった専門家を揃えている。
 サポートセンターでは、人材育成講座や、時代を先取りした「市民起業家スクール」(コミュニティ・ビジネスなど、幅広い視野や新しい職業観を持つきっかけをつくるための講座)などの事業を実施する一方、市民活動団体のニーズに沿った支援事業や交流サロンなどを通したNPOと市民、NPO同士の交流を促進する事業などを展開している。
 
2. 仙台市における協働
■環境パートナーシップ推進事業
(1)コンペ方式による事業の決定
 仙台市には、市内を流れる広瀬川の再生への取組みやスパイクタイヤ廃止の運動など、自然環境や生活環境に対する長い市民活動の歴史がある。市では、こうした歴史を背景に、市の環境基本計画「杜の都環境プラン」(平成9年3月策定)の実現に向けた実効性のある推進方策の一つとして、平成14年度に「環境パートナーシップ推進事業」を導入した。市民、事業者、NPO等がそれぞれの役割に基づいて連携、協力し、環境に配慮した行動をとることがねらいである。
 この事業は、NPOや市民、事業者、行政等が環境の分野で交流する「協働イベント」と後述する「環境社会実験」の二本立てで実施された。前者は、平成14年11月に市とNPO等が参加する実行委員会の共同主催で「環境フォーラムせんだい2002」として開催した。
 環境社会実験は、実験的な取組みを通して、市民協働の手法を探ることを目的に、NPO等からアイデアを募集し、市の委託事業として、市民・事業者などとの協働により応募NPO等が実施するというものである。NPOや町内会、事業者等から12の事業の応募があり、選考の結果、以下の3件が決定した。
 
(1) 21世紀の仙台の環境を考える〜広瀬川の散乱ごみを通してのネットワークづくり〜
 市民や市民団体との連携により、「広瀬川1万人委員会」を立ち上げ、広瀬川の清掃活動と「広瀬川1万人委員会フォーラム」を実施、市民の環境意識の向上を図る。(委託先・NPO法人水環境ネット東北)
 
(2)新考案による新聞ストッカーの実用実験
 新聞古紙回収における現状の問題点を整理するとともに、それを解決するための新聞ストッカーを考案し、町内会を挙げてモニター実験に取り組む。(委託先・旭ヶ丘中央町内会)
 
(3)リサイクル野菜実験
 学校給食の生ごみや家庭用電気式生ごみ処理機を使用してつくった堆肥を、地域農業に還元し、環境にやさしい農産物を消費者や学校給食に届ける。(委託先・リサイクル野菜ネットワーク)
 
(2)選定事業の広がり
 「水環境ネット東北」は、市とNPOなど30団体で構成する「広瀬川1万人委員会」を実際に立ち上げ、平成14年10月には同委員会の主催事業として、広瀬川で市民1,000人が参加する散乱ごみの状況調査などを実施し、11月には「広瀬川1万人委員会フォーラム」を開催した。
 また、町内会を挙げてオリジナル新聞ストッカーの実用実験を実施した旭ヶ丘中央町内会では、住民が考案したという従来のものより縛る作業を容易にした段ボール製のストッカーを、町内800世帯に配布し、利便性を実証するとともに古新聞の回収率を上げた。この事業では、市内の事業者から紙ひもの提供など、事業者との連携も見られた。
 
(3)国際的な取組み
 こうした市民団体の、地域や事業者を巻き込んだ活発なネットワークづくりと併せて、平成14年6月には、前年11月に仙台市で開かれた「環境国際会議」の参加者が中心となって「杜の都環境ネットワーク」が発足した。環境ネットワークは、市内のNPOなどが行う環境関連のイベント情報の発信や環境イベントなどを主催するほか、平成14年8月には南アフリカのヨハネスブルクで開かれた「国連環境開発会議」(地球サミット)にメンバーを派遣するなど積極的な活動を展開している。
 
(4)様々な主体の連携による環境づくりへ
 市では、家庭・地域・学校・NPO・事業者、すべての主体が主体的に環境教育・学習に取り組んでもらえるよう平成14年8月に「みんなで創る仙台−環境新時代(仙台市環境教育・学習プラン)」を策定した。
 プランの策定に当たっては、仙台環境審議会からの答申があったが、その他市民向けワークショップや講演会の開催、市民意見の募集などを行い、NPOや教育関係者、事業者などの人々からの様々な意見を反映している。
 また市では、環境に配慮できる人を社会全体で育てていくための推進組織として市民、NPO、事業者、学校等で構成される「(仮称)杜の都の市民環境会議」の設立を準備している。
 環境への取組みには、様々な主体との連携が必要である。そのためにNPO等の協力を得つつ、市では協働イベントの開催、環境社会実験の実施により、様々な主体の連携を進め、具体的な取組みとして結実させていった。
 市民公益活動促進を理念に終わらせず、具体的な行政分野で実現させたことは注目されるだろう。
 
3. 課題と今後の展望
■市民公益活動の具体的促進策を早く講じる
 仙台市によると、市民のまちづくりへの参加意欲は高く、環境保全活動など長い歴史を持っている。市は、市民の意識の高さに応えるべく、市の具体的な促進策をいち早く打ち出したことが功を奏したと考えている。
 またNPO等の支援策については、行政が気が付かなかったり、きめ細かい対応ができない公共サービスをNPOをはじめとする市民団体が提供していくことの必要性を感じており、団体に対する支援と同様、市民公益活動の裾野を広げるため、活動を始めたいという個人を含めた草の根的な活動支援もまた重視していきたいとのことである。
 サポートセンターのNPO側のスタッフのモチベーションが高く、ノウハウや専門的な知識、柔軟な対応が評価されており、最近では事業者からの社会貢献活動の相談も増えており、企業のノウハウを活かした協働事業の展開にも期待がもたれている。
 サポートセンターの運営については、市民活動団体のニーズは常に変化しており、その変化を的確に把握し、サポートセンターの運営にフィードバックしていくことが必要であると感じている。
 
■環境分野での協働
 環境問題は、市民にとって最も身近であり、かつ関心の深い課題である。
 今日の環境問題は、市民一人ひとりの活動はもとより、企業、自治会をはじめ様々な主体の協力がなければ解決できない課題である。そのため、市では環境問題の解決という同じ方向性をもつNPOとの協働は当然のことだと考えている。また、学校とNPOをつなぐシステムづくりに乗り出すなど、個々には解決し得ない問題を連携させることで解決につなげたいと考えている。
 今回の環境社会実験では新たなパートナーシップの創出を期待したというが、成果が現れるまでにはしばらく時間がかかると市は考えている。
 応募したNPOの1つである「水環境ネット東北」によれば、まず「環境社会実験」という、本来であればNPOの側が使う言葉を行政が打ち出してきたことが参加動機につながったという。また、環境をテーマに活動するNPOとして、産・官・学、そして市民の連携は欠かせない活動テーマである。「杜の都環境ネットワーク」では、21世紀のビジョンの中にパートナーシップを明確に位置づけた市の考え方そのものを高く評価している。
 今回の環境社会実験については、まさしく「実験」として取り組み、失敗してもかまわないと市は考えており、新しい行政の取組みとして注目される。市では、これを契機に、仙台市流のパートナーシップを創出したいと考えているが、そのためには自立した市民をいかに増やしていくかが重要だとも指摘している。その意味において、今回の環境社会実験では、協働による市、NPO、市民の役割分担を実感してもらうことはもちろん、より重要なのは、実際の協働を通じて芽生えてくる各主体の責任感にあると考えている。
 
NPO法人「水環境ネット東北」
 産・官・学・市民が中心となり、「自由かつ活発な意見や情報交換を行う「ひと」のネットワークづくり」を目的として、平成5年に発足。
 交流会等による会員の情報交換や、水環境づくりに関する政策提案活動を行うための情報発信として情報誌「みずねっと」の発行など、「自然・水・ひと・人・地域」をキーワードに、人との交流の輪の中から、新しい水文化と水環境創造へのルールづくりを提案するべく活動を行っている。
 
NPO法人「せんだい・みやぎNPOセンター」
 平成9年11月に任意団体として設立後、NPO法成立や市民活動促進条例に向けて国や県、仙台市に政策提言を行い、市民活動団体向けのマネジメント講座などを開催。平成11年7月にNPO法人化。
 (1)政策低減、(2)マネジメントサポート、(3)ネットワーキング、(4)情報サポート、(5)相談(コンサルティング)・研修、(6)研究・調査、(7)その他の事業、の分野において、仙台市市民活動サポートセンターの管理・運営、自治体職員向け研修等への講師派遣、環境分野での行政施策コンサルティングなどの事業を行っている。







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