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解剖学への招待
―解剖学実習を終えて―
平成14年度 第24集
(財)日本篤志献体協会
 
献体の意味
 人間の生命には限りがありますし、寿命がきたりあるいは病気になれば、わたくしたちは必ず医師にかかります。その時、わたくしたちは医師にこの体のすべてをあずけることになります。
 わたくしたちの体のすべてを知るために医学や歯学の教育を受ける学生たちにとって人体を解剖する実習は絶対に必要です。しかし、この大切な解剖学実習に欠かすことの出来ない解剖体は決して充分ではありません。自分の死後の遺体を医学や歯学の大学へ解剖学教育や研究のために寄贈する献体は、このような意味から、医学、歯学のため、そして良い医師を作り出すためにまことに尊い意義あることであります。
 しかも、献体は自分の意志で、無償で行うことでありますから、社会にとってもこれ以上の善意はありません。
 
はじめに
■会長挨拶
解剖学の充実を 篤志解剖全国連合会前会長 伊藤 宏
今日までの医学教育の在り方として重視されていた、内科学、解剖学などの学問体系が抜本的に再編成され、現行の学習内容が三割程度削減、最低限習得する項目を「コアカリキュラム」と位置づけ、削減で浮いた時間は学生が関心のある分野を学べるよう幅広い選択科目が用意されることになりました。
 即ち、「基本事項=コア(核)カリキュラム」として、医の倫理や、患者の自己決定権、インフォームドコンセントなどを、遺伝、代謝、免疫などを内容とする「医学一般」など七分野で構成されることになります。このことから、学習時間の削減がこれからの解剖学教育に影響を与えるのではないかと危惧するものです。
 医学の原点である解剖学、特に初期にある人体構造学は解剖実習を通して人体の素晴らしさを実感させ、医療人としての使命を自覚させるということに意義があります。然も、解剖実習に提供されている献体者が生前から無条件、無報酬としてひたすら良医の育成を願い、そして後世の人々の幸福のためにと人生最後のボランティアを選択したということに強い感銘を与えていると自負しております。
 二十一世紀は生命科学の時代と言われておりますが、医療情報の普及に伴う国民の医療に対する関心が高く、知識も豊富になったことなどにより結果として医療水準の向上と相俟て先端医療における各分野で生命倫理に関わる問題が提起され、生命の尊厳との調和、更に患者の権利−自己決定権−、インフォームドコンセントの重要性などが指摘されるようになってきております。
 そこで医療人として必要な基本的知識、経験豊かな技術力、人の痛みがわかる感性豊かな人格と社会的な使命を追求し、そして達成することができるような強い意志が求められることになります。
 従って解剖学において更なる充実を願うものです。







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