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2. ご遺族がおられない場合について
 (1)献体登録者が亡くなられて、ご遺族がおられない場合、(2)一般のご遺体でご遺族のおられない場合、(3)ご遺族の有無が不明あるいは連絡不能の場合、(4)亡くなられた方の身許が不明の場合などです。
 
(1)引取者との関係
 献体法では第三条で「献体の意思は、尊重されなければならない。」と献体の意思が守られております。また、献体法の第五条に、死亡者が献体の意思を書面で表示していて、かつご遺族がない場合は、引取者が大学に遺体を引き渡すことができる旨の記載があります。
 したがって、献体の意思を生前から書面で明確に表示している場合には、ご遺族がなくても引取者が大学にご遺体を引き渡すことができます。
 しかし、献体登録をしていないケースでは、ご遺族がなくて引取者がおられる場合、引取者は解剖を承諾してご遺体を大学に引き渡す権限はありません。そのため、解剖にご賛同いただける場合は、区市町村長からの交付を受ける(第十二条)ことになります。
 
(2)通夜・葬儀との関係
 ご遺族がおられなくても、施設等で通夜・葬儀が行われることがありますが、ご遺族のおられる場合と同様、(1)葬儀・告別式が済んでからご遺体を移送、(2)通夜が済んだところでご遺体を移送、(3)通夜の前にご遺体を移送、などの手順でも可能です。ご希望があれば、ご遺髪・ご遺爪を分けてお残しいたします。
 
(3)大学への連絡
 福祉事務所、病院、施設などからご遺族のないご遺体に関する連絡をいただきますと、通夜・葬儀との関係、ご遺体の引き渡しを希望される日時、それまでのご遺体の保存方法、お棺の有無、道順などの細目についての打合せをしたのちに、打合せの時刻にご指定の場所へ車でお伺いすることになります。
 
(4)必要な書類
 解剖用死体交付証明書・・・死亡診断書(または死体検案書)と死亡届を提出した役所に大学長から解剖用死体(死胎)交付申請書を提出し、その死体が交付される場合に区市町村長から大学長にあてて発行されます。この手続は大学の係員が役所に出頭して行います。
 この死体交付証明書は、解剖後に大学が行う火葬の許可証を兼ねていますので、大学ではこれによって火葬をすることができます。
 
(5)大学で保管したご遺体
 大学にお預かりしたご遺体は、防腐処理が施され、30日間は必ず保存されます(死体解剖保存法第七、十四条・・・31、32ぺージ)。多くの大学では、その後も一定期間ひき続き保存いたします。したがってその間に引取者あるいは心当りの方が判明した場合には、死亡時とほとんど同じ状態のまま保存されているご遺体とご対面の上、ご確認いただくことができます。
 ご確認ののち、引取りを希望される場合は、交付証明書発行者の指示に従ってご遺体をお渡しします。解剖をご承諾いただける場合は、ご遺骨をお返しする時期をご相談し、ご遺族の場合は火葬許可証と承諾書に切り替えて、ひき続きご遺体をお預かりします。
 大学にご遺体をお預かりして何年も経ってからご遺族や引取者が判明した場合、解剖が終わっていれば火葬に付してご遺骨とし、通常は大学の納骨堂に収蔵してあります。しかし、納骨堂をお持ちの区市町村や施設から指示のあった場合にはそちらにご遺骨をお返ししてあります。これらの場合には、ご希望であればご遺骨をお引取りになることができます。
 
ご遺族がおられない場合のご遺体・書類関係図
(拡大画面:68KB)
 
ご遺体引取り後に考えられる諸問題について
 トラブルが起こり得るのは、交付の時点では身元不明または引取る者がいないと判断されていたご遺体に、のちになってご遺族または引取者が判明した場合です。
 
(1)なぜ解剖用として交付されたのか
 この疑問に対しての十分に納得できる説明がされない場合に、そのことに対するご遺族や引取者の不満から起こるトラブルが第一に考えられます。この種のトラブルは、現れた関係者に、その心情への思いやりをこめて、以下の説明が的確になされれば、防げると思われます。
(1) 医学・歯学の教育・研究のために正常解剖が社会的に重要なことなので、「死体解剖保存法」によって、解剖の行われ得る条件が定められていること。その規定によると、
(2) 解剖を行うには遺族の承諾が必要(第七条)ですが、遺族その他の引取り手がいない場合には、医科・歯科大学長は正常解剖のために、そのご遺体の交付を死亡地の区市町村長から受けることができること。
(3) 交付に至るまでにも、その後においても、身許調査、照会、公示など引取者を捜すことに手を尽して釆ていること。
 大学においては、(1)(2)はもちろん、(3)についてもお聞きしている範囲のことについてはご説明できますが、何といっても(3)の事実と、現れた関係者に最初にお話しされる所での応対の仕方が肝心だと思われます。
 
(2)ご遺体の取扱いに対する不満
 第二には、ご遺体の取扱いに対する不満から起こるトラブルが考えられます。
 大学では、ご遺族の有無にかかわらず、ご遺体すべてに対して、決して失礼があってはならないという基本方針で設備を整え、ご遺体に接しておりますし、交付されたご遺体にその後ご遺族その他の引取者が判明して、お引取りを希望なさった場合は、当然の処置としてこ遺体をお引き渡ししております。そしてその際に、大学がこ遺体の交付を受けるに至った事情について充分にご説明いたします。
 また、医学・歯学の教育・研究における正常解剖の重要さについても話をし、毎年行われる慰霊式の記録写真をお見せするなど、ご遺体に対する私どもの感謝と畏敬の気持をお伝えしております。
 これらのことは、火葬がすみご遺骨となってから引取者が判明した場合でも全く同様に行っております。ご遺体の場合には、この時点で進んで解剖をご承諾下さるご遺族もあり、またそれ以外の場合でも、丁重に保存していたことに対してご遺族または引取者から感謝されることの多いのが各大学での実状です。
 
(3)経費の負担について
 第三には、経費の負担に関する問題が考えられます。大学に交付されたご遺体に関する経費については、死体解剖保存法第二十一条に、
 「学校長は、第十二条の規定により交付を受けた死体については、行旅病人及行旅死亡人取扱法第十一条及び第十三条の規定にかかわらず、その運搬に関する諸費、埋火葬に関する諸費及び墓標費であって、死体の交付を受ける際及びその後に要したものを負担しなければならない」
と規定されています。
 交付を受けたのちにご遺族や引取者が判明した場合、大学が負担したこれらの費用をその方々に転嫁することは、大学では決して致しません。ただし、ご遺体をお引き渡しする場合には、それ以後にかかる費用(お棺代・大学からの移送費・火葬費等)については大学で負担致しかねます。解剖をご承諾下さる場合およびすでにご遺骨になっている場合には、ご遺骨をお引き渡しするまでのすべての費用を大学で負担しております。







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