フリースクール玄海
フリースクールゲンカイ
代表者名●嶋田聡[シマダサトシ]
所在地●〒811−0203 福岡県福岡市東区塩浜1丁目23番地20号
電話番号●092−605−5077 FAX番号●092−605−5078
徳育や坐禅を取り入れ「自己中心」からの脱却をめざす
●報告―大嶺 繁徳
[HRリーダー]
坐禅、下坐業、徳育・・・。「フリースクール玄海」の日課にはこういったカリキュラムが並んでいる。さらに代表の嶋田さんは元プロボクサーとある。資料用のパンフレットを見たとき、正直ヤバイかなと思った。私自身怠け者で酒ばっかり飲んでいるので、鍛えられる余地が十分ある。実際私と同じように、厳しいイメージを玄海に持つ子も多いらしい。また、坐禅、徳育という言葉から、ある意味宗教的な偏りのある施設ではないかとのイメージを持つ子も少なくないらしい。
しかし実際に訪れてみて、印象は変わった。まず代表の嶋田さんが独特の魅力を持っていて面白い。さすがに元プロボクサーらしく鋭い雰囲気をまとってはいるが、話を聞くと彼独自の価値観がきっちり定まっていて、色々な話が飛び出してくる。話の端々に何かひとくくりにできないものを感じた。
「フリースクール玄海」は、福岡市の中心部から電車で30分ほどの東区の住宅街にある志賀島に通じる半島にあたるため、海も近く、生徒のランニングコースとしてはうってつけである。 |
食事は全員揃って一階の食堂で。昼食は当番の生徒が買い物から調理までを手伝う。夜は専門のスタッフが調理。 |
午前2時間、国数英などの教科授業を行う。年齢レベルにより2クラスに分けられている。非常勤講師を招いている。 |
一見論理的な話の中にも情熱的で感情のこもった言葉があり、厳しさの中に人間臭さを感じさせる。そうしたオンとオフの魅力はそっくり玄海の雰囲気につながるような気がする。
玄海の生活について伺っていると、やはり玄海での生活は子どもにとってやさしいことばかりではない。朝は早く、ランニングも日課だ。入所期間はだいたい一年程度とされているため、生活態度においても短期間での変化を求められる。自己中心的な考え方や甘えた態度は厳しく指導される。その生活になかなか馴染めない生徒もいるらしい。ただ、私が玄海の中で感じたのは厳しさと同時に人間臭いというか、きちんと個人を見つめた関わりを根底に有しているという点だ。厳しい面もあるが、スタッフは段階に応じて個人の性格や成長に合わせた対応をしている。
例えばタバコである。ここに来たばかりの子どもの中にはタバコを吸っている子どももいる。もちろん、玄海ではタバコは禁止されている。しかし、子ども達の居住スペースの中には灰皿がおいてあり、喫煙用のスペースが設けてある。不思議に思ってスタッフの方に話を聞くと、これは喫煙を容認するための灰皿ではなく、部屋で隠れて吸わないよう、あくまでも防災用として設置してあるということだ。ダメだと言って取り上げても初めは隠れて吸うだろう。だから無理矢理禁止してやめさせるのではなく、徐々に減らしていこうということから始める。そして、ある程度経過した段階で子どもとスタッフが個人的に約束をかわすこともある。職員室にはタバコを吸ったら坊主になるといった誓約書が貼られている。面白いのは、万が一約束が守れなかった場合、その本人だけではなく、そのスタッフまでも共に罰を受けるということだ。誓約を破った本人だけのせいにしない。これも一つのポイントだろう。
また、色々なシチュエーションで子どもとスタッフが一対一で関わる場面を作っている。きつく叱った後には別のスタッフがどこかにその子を連れ出すとか、来たばかりの子どもをどこかにドライブに連れ出すとかである。実際、私が訪れたときには叱られた子どもが別のスタッフとドライブに出かけていた。上下関係ではなく、あくまでも個人対個人で関わっていく姿勢、これが玄海の魅力の一つだと感じた。
もう一つの大きな特徴としては、平日は授業中心のカリキュラムであるということだ。午前中に2時間、午後には徳育や坐禅などが4時間組まれている。授業終了後には各生徒の希望やスタッフとの話し合いによって決められた部活を行う。こうしてみるとまるっきり学校のようだ。フリースクールの中には学校を否定するという考えを持つところもあるが、玄海では学校は否定していない。嶋田さんによると、学校というのはその国の社会の縮図だという。だからこそ学校に適応できない者は社会でも適応することが困難である、社会性を身に付ける場として学校は必要である、と。確かに、玄海では学力に関してはあまり問題にしてはいなく、重要視しているのは人前で発言することであったり、問題を身近に置き換えて考えることであったりする。坐禅や徳育もストイックな感じがするが、実際は心の落ち着きや他人を思いやる心を持てるようにするために取り入れているそうだ。
体育の風景・・・レクリエーション室での卓球大会。実力差もあるが組み合わせを工夫したり、全員が参加し楽しむ。 |
書道の授業・・・体を動かすだけでなく、心も文字にのせるようにとの注意の後、生徒たちは思い思いの言葉を書く。 |
坐禅・・・毎日午後約30分行う。代表の嶋田先生はこのように何も考えない時間が子どもに落ち着きを与えるという。 |
非常に残念なのは、玄海が幾つかの制限された側面を持っているということだ。例えば期間が1年と限られていること、女子が共同生活できないこと、中高生に年齢が限定されていることである。方針や状況などもあるのだろうが、保守的な九州(私は鹿児島です)では、ただでさえ玄海のような魅力的な環境が少ないので、もう少し対象の幅を広げてもらえれば、まだひっかかるというか救われる子どももいるだろうなと感じた。
ある子どもがこんなことを言っていた。「ここに来て親に感謝できるようになった。素直な奴はここで変われるかもしれない。変われない奴もいるけど、変われる奴はすっごく変わる」。子どもに関わる場所は様々にあっていいと思う。甘えだとかそういうことはではなく、やはり、合う合わないはあると思うので。そういった意味で、独自の活動をしているフリースクール玄海は九州では本当に貴重な存在だ。[調査日―2002.04]
校舎は鉄筋の4階建て。まさに校舎という感じ。以前は専門学校の校舎として使われていた。ここの1、2階が主に授業や食事に使用するスペースで、3、4階は居住スペースとして使用されている。 |
毎朝行われる下坐業。雑巾で便器に手を突っ込み磨く。トイレを磨くのは自分の心を磨く行為に近いという。 |
代表の嶋田さんが元プロボクサーということでクラブ活動にボクシングを選択する子も多い。 |
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