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■代表者に訊く
小川 誠さん
●五色塾代表
●団体の特徴
 1年半ほど前から、縁あって塾の1階をシュタイナー教育の保育園に提供しているが、僕も妻もシュタイナー教育を気に入っている。シュタイナー教育では、簡単に言うと、O歳から7歳までは意欲を育てる。7歳から14歳までは感情、情緒がうまく意欲と結び付くように、14歳から21歳で知識教育を中心に行う。そうすることによって一番うまく人間として開いていくというかスムーズに成長する。シュタイナーは何が人間の成長の段階において何が一番大事かということをいっていますが、日本の教育というのはそこからとても外れていると思います。
 現在は和田先生(はじめ塾代表・CLCA理事長)の人生観、教育観を勉強している。和田先生との関わりは日本に帰国してからです(97年に帰国、以前はドイツ、マレーシアなどに在住)。和田先生の話を聞いても、和田先生の本を読んでも一々頷けました。本当にこれは作り事ではないなあと思い、強く引かれるものがありました。そこで、妻と2人で寄宿塾をやろうと決めたのです。それで、塾の部分を増設することになり、はじめ塾の実習林から木を切ることからはじめ160人ぐらいの人(大工さん、素人さん、学生さん)が関わり、翌年に完成しました。
 98年の3月からはじめ塾にいた塾生を1人預かりスタートしました。当初は自分の子供たちもいて、どのように影響を受けるのか全く読めず、その影響によっては本来の自分たちのやり方とはまったく違う方向に行く場合もありました。そこで一つ注意したのは、自分たちの生活に合わせてくれるというか、それでいてあまり不自然さのない子ということで、大勢の子は預かれないと思いました。いずれは6人から8人は預かれるようになるだろうと思っていますが、寄宿生活塾を始めるまでは旅がらすで、土地との繋がりもほとんどありませんでしたので、1年目は様々な問題が出てきました。3年目に1人の子が元気になって出て行ったときに、もう一度家族を見直そうと思いました。そうして、しばらく静かな時間を過ごしていたのですが、ご縁にお任せしようと思っていましたので、五色塾の門戸は開けておきました。そうしたら1年くらい経って、今の子供たちが入ってきたわけです。
 塾の主な特徴は7点です。
(1)はじめ塾を手本とした「雑木林教育」を実践しています。雑木林のように様々なタイプの人が集まり、一つのことをやっていくことが基本です。「雑木林教育」では常に具体的な活動環境を準備し、そこでは学校へ行っている子も行っていない子も混ざり合います。どちらも個性としてお互いを認め、その交流が相互に良い影響を与え合うことが根底にあります。
(2)山登り、川遊びといった自然体験やふれあい農園(五色塾の畑―有志が集まり2週間に1度のぺ一スで有機農法を実践)など、自然との触れ合いを大切にした生活をします。
(3)寄宿生活では家族の一員として寝食を共にします。塾生は親元を離れてリセット(仕切り直し)し、新しい人間関係の中でゼロからスタートします。そこで変わるチャンスは大きく、自分の長所、短所などが見え、又、自分の家族のことも見えてきます。本来誰でも高校生くらいになったら共同生活をしてみることは必要だと思います。家族ならではの安らぎや和やかな団欒を大切にしています。妻がスイス人で外国生活も長かったので、どこか日本的でないオープンで国際的とでも言えるような雰囲気があるのではないかと思います。
(4)日本に戻ってきて5年目にしてこの土地に根っこが生えてきました。そこで、これから青少年の精神的自立と社会的自立を目標とした「実りの大地クラブ」を立ち上げる予定です。その構想は、悩みや問題を抱える青少年を五色塾で受け入れ、専業農家と市民が合同で作った「青空農園(農業生産法人)」で体力、体験を積み、自信をつけます。そして学業復帰や自立に繋げていくというものです。
(5)毎週金曜日には「群れの活動」として小さな子供たちと塾生の遊び場を作っています。それから英会話教室、料理教室、和田先生の教育講座など様々なイベントも行っています。
(6)今後は「農ある生活」を合言葉に環境問題に取り組みながら地球市民意識を持ち、難民支援などを通じて世界との繋がりにも力を入れていくつもりです。
(7)他の寄宿教育施設とも連携を取り、「本人にとって」どこが最適の場所であるかを考えていきたいと思っています。
●卒設の基準
 学業復帰、自立の準備ができたときが卒設です。青空農園(団体特徴(4)参照)で農家としての実力を養成し、青空農園の社員関連の店や会社、工場などで就業体験または進学準備をサポートします。
●年代別目標
 [10代]自分に自信を取り戻し、自分のやりたいことが見えること。[20代]さらに具体的にやりたいことに向けて努力することができるようになること。[30代]すべての年代(10代、20代、30代)で自分の問題は自分で解決する精神的自立と社会的自立を目指しています。
●施設における自立の定義
 自分というものはどこまでいっても分からないが、自分を肯定的に、ポジティブに捉えることが出来、その目的のためになすべきことが分かること。
●在籍生の就職状況とその支援体制
 群馬から1人・・・中学時代に2度の不登校。はじめ塾に6ヶ月お世話になった後、五色塾に2年間在籍。競争できるタイプではなかったが、良い高校にめぐり合い、大学へ進学しました。
 相模原から1人・・・家庭内暴力、親子関係に崩れ五色塾に1年在籍し、高校に復帰しました。
 他に親子関係が元に戻って自宅に帰った子や、やりたいことが見つかり仕事を探している子がいます。
●在籍生のアルバイトの可否・その状況と支援体制
 高校までは基本的にアルバイトは勧めません。お金を持つと社会の捉え方が違ってくるので、お金の繋がりを持たないで、様々な体験をしてほしい。20代になったら本人の意思に任せます。その場合、五色塾で自分を取り戻し、基本的な生活リズムが取れていない第一段階では不可です。五色塾の活動と青空農園(第二段階)で体力と自信が付き、大丈夫そうならアルバイトはOKです。学業復帰、自立準備(第三段階)が青空農園での就業体験を通して整っていれば問題ない。
●作業(有償/無償)の有無・その内容と状況
 第二段階までは無償。第三段階では有償になりますが、高校生ぐらいまではボランティアとします。
●教科学習の必要性とサポート体制
 本人のやる気が出てきたら進学塾や自習教材を勧めます。
●在籍生の心理的サポート体制
 生活の中で夫婦共にアンテナを張り、できるだけ多くの話し合いを通して支えています。始めから注意をするのではなく、できるだけすぐに判断することを避け、口出しをしないで見守ります。様々な問題は人とのふれあいの中で乗り越えていってほしいと思います。意外に仲間内(「群れの活動」の中の上下関係等)で問題を解消することも多いです。
●外部医療機関との連携
 自分の子供たちがいるので病的傾向の強い子は過去に受け入れていません。ただし、その傾向があってもここではレッテルははりませんが、現在のところ受け入れのキャパシティーがありません。
●在籍生の保護者へのサポート体制
 必要に応じて面会をしたり、電話で話したり、掲示板を使って情報を伝えています。
 
◆スタッフに訊く・・・1
小川 ブリキッテさん
●47歳 女性 正規スタッフ 勤続年数5年
●施設と関わるようになった理由
 2人(ご主人、ブリキッテさん)で一緒にプールに飛び込むような感じで始めました。責任を含めて全て一緒です。
●施設について
 まだ始めて5年、噛み合っていないというか、軌道に乗っていないという感じがします。施設に関してたくさんの夢がありますが、主人の走るスピードと私のスピードが噛み合ってない感じがします。
●在籍生の変化に気づくとき
 (現在の在籍生の)体が変化してきました。アトピーも良くなって痩せてきました。入塾当初は人に背を向けて、目と目を合わせていられなかったのですが、家族の一員になろうと努力するようになり、兄弟にも溶け込みました。すごく変わって良かったです。
●在籍生との関わりで注意している点
 信頼関係を持てるようにすることです。お互いが正直に話をできるようにしたいです。うそをついているような場合には、「それは本当なの?」と軽く促すようにしています。
●ここで働いて喜びを感じるとき
 たくさんあります。女の子たちがケンカしたり、泣いたり、仲良くなったりしているのを見ているのは楽しいです。最近はいろいろな女性が相談に来るようになったので嬉しく思います。里親として「育てる」ことができるのが一番の喜びです。
●辛いと感じるとき
 やることが多くて、最後までやりきれないときは辛いです。
●施設での自分のポジション(役割)
 自分の役割は子供に大きな影響を与えるので手抜きはできません。家族、学校の流れの中で主人は流れを作り、私はそれをコーディネートします。
●施設の今後について
 子供たちが満足して育って欲しいです。親と関わりあいながら、一緒に今ある人間関係を深めていきたいです。
●代表・その他のスタッフについて
 主人の流れに私がうまくコーディネートしていく関係を維持していきたいです。
●その他
 近所の方々との関係はうまくいっています。ただある(存在する)人間としての関係で、以前のスイス人としての違いは感じなくなってきています。
 
★在籍生に訊く・・・1
安西 慎司さん
●17歳 男性 在籍年数1年(通所生)
 
●入寮する以前の状態と入寮のきっかけ
 学校は息苦しく、辞めてしまいました。母親から「こういう所があるんだけど」と言われ五色塾を知りました。話を聞いて「いいなあ」と思いました。次の日にカヌー体験があるというので興味を持ち、通うようになりました。
●入寮当時の施設の印象
 いい感じです。雰囲気が自分に合っています。畑も好きだし、面白いです。面白くなかったら辞めていたと思うけど、その頃、両親の仲が悪くて五色塾では居心地が良かったです。
●現在施設で行っていること(作業・通学・勉強など)
 週に1〜2日は畑作業をしています。月に1〜2回山に登ったり、カヌーをしています。後、1ヶ月に1度の合宿では群れの子と一緒に過ごしています。
●施設で楽しいこと
 自然に触れ合えるし、いろいろな人に会えるので、ここでの活動は楽しいです。高校は同年齢だけだったし、レベルが低く狭い世界だったなと思います。パレスチナから難民の子が来たときはすぐ打ち解けたし、五色塾では学校で出来ないようないろいろなことを知りました。
●施設で辛いこと
 小川さんにワーカーズの仕事は無理じゃないかと言われたことです。でも心配して言ってくれたのだと分かっています。(ワーカーズ:9月からスタートする保育施設。安西さんはそこで働くために準備をしてミーティングにも参加している。)
●入寮後自分の中で変化したこと
 体力がつき、様々な年齢の友達が増えました。人を信じることができるようになり、マイナス思考がなくなりました。学校では学校の枠に縛られてしまい、変な意味で人に気を遣わなくてはいけませんでしたが、五色塾の枠のない生活が自分を変えてくれました。
●今の目標
 保育施設の運営がうまくいくようにしたいです。また、自転車で屋久島に行ったり、四国のお遍路もやってみたいです。父が反対しているけれども、バイクにも乗ってみたいです。
●将来について
 世界を旅しながら様々なことにチャレンジしてみたいです。その前に旅費を貯めないと(笑)。
●現在の施設の印象
 自分の一部であり、完全に馴染んでいます。とても身近な存在です。
●他の在籍生との関係
 いい感じです。いろいろあるけど、うまくやっています。年下だからたまにいろいろあるのですが、1人の人間として注意したりします。
●親との関係
 親は理解してくれています。世界を旅したいと言ったら、「いいんじゃない」と言ってくれました。自分の意見を尊重してくれる親を尊敬しています。
●代表・スタツフの方との関係
 親との関係が悪いとき、本当の両親のようでした。辛いときに話したりするとホッとします。
 
▼団体詳細
団体名称●寄宿生活塾 五色塾(キシュクセイカツジュク ゴシキジュク)
代表者名●小川 誠(オガワ マコト)
所在地●〒229−0032 神奈川県相模原市矢部2−21−17(サガミハラシヤベ)
電話番号●042−757−7163 FAX●042−757−7163
URL●無し E−MAIL●goshikijuku@ae2.dion.ne.jp
設立年度●1998年 在籍生平均在籍年数●8〜9ヶ月
入寮生数●男・・・3人 女・・・1人(平均年齢・・・13歳) 入寮定員●男女合わせて6人
通所生数●男・・・1人 女・・・1人(平均年齢・・・16歳) 通所定員●男女合わせて10人
年齢制限●有り(中学生〜25歳) 性別制限●無し 相談業務●有り(3,000円)
家庭訪問●有り(7,000円/1回) 親の会●親の会はないが、個別に連絡を取り合っている
会報発行●有り(年12回)
特記事項●入寮生定員は両方合わせて6人、通所生定員は両方合わせて10人まで。/性別制限は無いが、部屋割りによって制限することもある。/家庭訪問は相模原市と隣接する市に限定する。/親は数が少なく親の会までは行かないが、各自相談にのっている。/CLCA(子どもと生活文化協会)の相模原支部となっている。
スタッフ状況●日中・夜間・・・代表とその奥さんが24時間体制で対応している。またイベント時にはボランティアが活動をサポートする。
スタッフ●正規・・・男1人・女1人/ボランティア・・・男5人・女15人/その他・・・男―人・女―人
 
▼通所費・入寮費
通所生●設備費・・・10,000円(年額)
入寮生●3段階に分かれます。(1)体験寄宿費(1週間)・・・35,000円(一切の費用を含みます)(2)3ヶ月寄宿生活費・・・150,000円(月額※一切の費用を含みます)/入塾金・・・10,000円(1回限り)/設備維持費・・・30,000円(年額)(3)長期寄宿 生活費・・・100,000円(月額平均※家庭の事情により若干異なります)
※他に傷害保険費は実費を請求します。
 
▼生活
日課スケジュール●12:00・・・昼食。午後は農繁期(4〜11月)と農閑期(12月〜3月)で異なるが、田畑で農作業、自然散策、スポーツ、木工作業、お絵かき教室、太鼓、音楽など。/6:30夕食。その後は自由時間。/11時消灯。
週末・休日●土、日は市民や家族単位での共同農作業があるため、木曜日が休みとなっている。
食事●食べ物と子どもの健康や精神状態は密接な関係がある。それで、食事には細かい注意を払っている。具体的には無農薬有機栽培の米や野菜、無添加の加工品を食べるように努めている。また、肉や魚、卵などの動物性食品はかなり控えめにしている。味噌や漬物は自分たちでも作っている。
清掃●自分たちの部屋は自分たちで清掃する。朝、どこか掃除してから食事をする。(どこを掃除するかは個人に任せて人がやっていないところを掃除するようにしている。)
年間スケジュール●1月・・・新年会/3月・・・春の合宿(2泊3日)・(春を感じる山登り、河原遊び、よもぎ作り)/4月・・・若葉のハイキング/5月・・・田植え/6月・・・カヌー遊び(相模川)・いかだ作り/7月・・・山キャンプ(長野県)(養鶏場、農業体験など)/8月・・・海キャンプ(南伊豆)/9月・・・稲刈り/10月・・・収穫祭・芋ほり大会/11月・・・紅葉狩り登山/12月・・・クリスマス会・もちつき大会
※その他の活動・・・群れ活動(毎週金曜日)・料理教室(2ヶ月に1度)・英会話・和田重宏先生(はじめ塾代表CLCA理事長)の教育講座(年8回程度)・ふれあい農園(月2回)







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