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事業概要
 本年度も会員、ボランティアの皆様、関係諸団体の御協力を得て、円滑に諸事業を推進することができた。
 まず、調査事業のうちこれまで(社)日本観光協会からの受託事業として実施してきた観光資源保護調査については当財団の自主事業として「村上の町屋と町並み景観」(新潟県村上市)及び「平戸の町並み―オランダ商館復元とあわせた町の活性化をめざして」(長崎県平戸市)を実施した。その他の自主調査としては地球環境基金の助成を得て「すぐれた自然環境としての葦原・茅場の保全活用調査」を一昨年度からの継続事業として行った。また受託調査については「水と緑のまち西条の歴史遺産に関する調査」(愛媛県西条市)ほか6件を実施した。
 今年度は保護事業についても大きな動きがみられた。名勝旧大乗院庭園については、平成6年度から本格的な保存・公開としての整備にむけて発掘調査及び整備事業を毎年実施し、美しい名園の姿を取り戻しつつある。現在、庭園内には西日本旅客鉄道株式会社の保養所があり、この建物の敷地内に西小池等の大きな遺構があることが、発掘調査で確認されている。この遺構を復元するためには、保養所の建物の撤去が不可欠であるが、まず、今年度は建物部分を含め、未指定の部分を名勝として追加指定することになった。また、新たな保護資産として、京都市指定文化財「駒井家住宅」が所有者の駒井喜雄氏から寄贈された。世界的な遺伝学者であり、クリスチャンとしても知られる故・駒井卓博士(京都大学名誉教授)の自邸で、昭和2年にウィリアム・M・ヴォーリス氏設計で建てられた木造2階建ての洋館は駒井卓博士並びに静江夫人の業績を示す記念館として、当財団が末永く保存・活用を進め、関西地区における当財団の拠点として機能させていきたいと考えている。さらにまちづくりの拠点として建設しているヘリテイジセンターは、10月に「琴引浜鳴き砂文化館」(京都府網野町)が開館し、また今年度は(財)日本宝くじ協会の助成を得て「北陸線電化記念文化館」を長浜鉄道文化館の隣接地に建設し、近代化遺産であるD51形蒸気機関車と、西日本旅客鉄道株式会社から寄贈されたわが国初の交流電気機関車ED70形の第1号機を展示・保存し、平成15年夏に開館する予定である。
 国際交流事業としては、昨年度よりひきつづきアメリカのフルブライト研究員のM.ハムストーン氏を受け入れ、農村景観の調査研究を指導した。また8月、韓国ナショナルトラスト視察団の来日を機会に当財団の活動を紹介する講演会を開催し、各地において当財団の諸事業を視察し交流を深めた。
 その他普及事業としては会報並びに広報誌「自然と文化」の発行・配布のほか各種事業を積極的に推進させた。平成14年9月30日をもって(社)日本観光協会との業務提携を予定通り解消したが、これに伴い平成14年度の事業計画及び収支予算について所要の改訂を行った。
 
I 調査事業
1 観光資源保護調査
(1)村上の町家と町並み景観(新潟県村上市)
 村上では現在も国史跡の城山、既に重要伝統的建造物群保存地区対策調査を実施済みの武家町が残り、貴重な文化財として評価されているが、祭や多くの町家が残されている町人町については、これまで詳細な調査が行われていなかった。本調査ではこの町人町を対象に調査を実施し、今後の村上における歴史を活かしたまちづくりの提案を行った。
《調査代表》西村幸夫・東京大学教授
《調査委員》黒野弘靖、岡崎篤行 他
 
(2)平戸の町並み―オランダ商館復元とあわせた町の活性化をめざして(長崎県平戸市)
 平戸では、現在、国史跡のオランダ商館復元が進められているが、本調査では、町家地区の調査を実施し、景観整備の提案を行なった。あわせて調査チームでは「シャッターアート」と称して商店街のシャッターに絵を描き、また都市計画キャラバンと連携して町並み探検などさまざまなイベントを開催した。
《調査代表》西和夫・神奈川教授
《調査委員》水沼淑子、清水耕一郎 他
 
2 自主調査
(1)すぐれた自然環境としての葦原・茅場の保全活用調査(全国)
 茅葺き民家の材料の供給地である葦原・茅場の多面的価値を評価するために一昨年度から継続されている本調査は、初年度の全国調査の成果を受け、全国8地区のモデル地区を取り上げ、詳細調査を実施するとともに、成果のまとめとして提案を行なった。
《調査代表》安藤邦廣・筑波大学教授
《調査委員》熊谷秋雄、小林豊、山田一裕
*地球環境基金助成事業
 
3 受託調査
(1)全国茅葺き民家実地調査(全国)
 昨年度から継続している調査で、全国で茅葺き民家が多く残されている市町村のうち11地区の集落の詳細調査を実施する。調査は、全国茅葺き民家保存活用ネットワーク協議会の会員を中心に実施した。
*(財)都市農山漁村交流活性化機構からの受託
 
(2)水とみどりのまち西条の歴史遺産調査(愛媛県西条市)
 伊予西条は、城下町として発達し、石鎚山の豊富な水脈によって「水の町」としても知られ、観光資源にも恵まれている。本調査では、歴史遺産や自然をまちづくりの資源としてリストアップし、活用のための提案を行なった。
《調査代表》三村浩史・関西福祉大学教授
《調査委員》曲田清維、後藤治 他
*愛媛県西条市からの受託
 
(3)名勝「白米の千枚田」保存管理計画策定調査(石川県輪島市)
 昨年に続き、国指定名勝の白米の千枚田の保存管理計画を策定し、報告書をまとめる。白米の千枚田は全国的に知られているが、ボランティアの参加や観光収入の還元などの提案を行なった。
《調査代表》中島峰広・早稲田大学教授
《調査委員》麻生恵 他
*石川県輪島市からの委託
 
(4)国府津地区国道一号周辺まちなみ調査(神奈川県小田原市)
 国府津は、旧東海道沿いの町であるが、明治時代に鉄道の分岐点となり発展し、現在も出し桁造りの町家や看板建築が多く残る。国道の改修に伴って、これらの町並みを活用したまちづくりの提案を行った。また商店街と工学院大学で「国府津ぶらっとウィーク」を開催した。
《調査代表》後藤治・工学院大学助教授
《調査委員》三浦卓也、堀井利章 他
*神奈川県小田原市からの受託
 
(5)長浜鉄道文化館展示企画資料収集整備〔滋賀県長浜市〕
 当財団の5番目のヘリテイジセンターとして開館した長浜鉄道文化館の企画展示及び特別展示等について、展示委員会を設け、検討した。今年度の企画展示は、北陸本線の特急列車を中心として記念乗車券や我が国と世界の乗車券及び時刻表の展示を併せて行うと共に特別展示として写真家高橋弘氏の北陸本線と東海道本線を走る列車などの写真展を行い好評を博した。
《調査委員》青木栄一、小池滋、松澤正二 他
*滋賀県長浜市からの受託
 
(6)名勝大乗院庭園文化館展示活用(奈良県奈良市)
 名勝大乗院庭園文化館の2階展示スペースで毎年実施している「日本ナショナルトラスト展」の企画と実施を行なった。本年度は「名勝旧大乗院庭園の歴史を掘る」というテーマで、独立行政法人奈良文化財研究所の御指導のもと、平成7年から平成14年の発掘調査の成果をパネルや発掘の際の出土品等を展示し、広く一般に公開した。
*財団法人ならまち振興財団からの受託
 
(7)琴引浜鳴き砂文化館展示企画資料収集整備(京都府網野町)
 本年度10月に開館した琴引浜鳴き砂文化館の展示のための資料収集を行い、展示内容を検討した。
《調査委員》三輪茂雄、安松貞夫、吉田桂二 他
*京都府網野町からの受託







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