4 自動車の点検・整備
(1)取組のポイント
自動車走行に伴うCO2や大気汚染物質の排出を適正な状況に保つためには、法に定められた点検・整備を実施することが不可欠ですが、それに加えて、車両の使用状況等を見ながら、適切な点検・整備を進めることが必要です。
そのためには、まず、点検・整備責任者の任命、ドライバーへの教育や情報の提供、点検・整備結果の把握などの体制を整えます。また、整備の依頼時には、日常から車両の状況を把握し、その結果を伝える必要があります。さらに、車両の使用状況によっては、会社として独自の点検・整備基準(走行距離、点検期間など)を設けて点検・整備を進めてください。
(2)チェックリスト
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(3)チェック項目の解説と関連情報
【点検・整備のための実施体制】
点検・整備を整備事業者に依頼するにあたっては、整備事業者任せにしないで、トラック運送事業者が車両の使用状況をもとに責任を持って取り組んでください。そのためには、点検・整備の責任者の権限を明確に示し、車両の使用状況に対応した点検・整備計画をつくり、それに沿った実施・管理を進めます。
整備管理者は一定規模以上の企業に置くことが定められていますが、点検・整備を的確に行うためにはその他の企業も点検・整備の責任者を置くことが望まれます。
整備管理者の権限は、次表の様に点検・整備に関する広い範囲にわたっています。
したがって、整備の責任者の任命にあたっては、その内容を明確に示した上で、社内的に周知してください。
■点検・整備について
点検とは、車両やその付属する装置や部品の現在の状態及び次回の点検までの状態が保安基準に適合するかどうかを判断することをいいます。
点検には、法定点検と自主点検があり、法定点検には道路運送車両法で規定する日常点検と定期点検の2種類があります。また自主点検とは、随時必要に応じて行う点検です。
整備とは、保安基準に適合させるために、また不具合の発生を予防するために行う、修理、調整、部品交換等をいいます。
整備管理者の権限
(1)日常点検の実施方法の策定と日常点検結果に基づく運行の可否の決定
(2)定期点検及び日常点検・定期点検以外に随時必要な点検を実施すること
(3)日常点検・定期点検及び随時点検の結果、必要な整備を実施すること
(4)定期点検及び各点検結果に基づく実施計画を定めること
(5)点検整備記録簿等及び整備に関する記録簿を管理すること
(6)自動車車庫を管理すること
(7)点検・整備に関し、運転者、整備員、その他の者を指導し、又は監督すること
道路運送車両法施行規則第32条をもとに整理
【車両の状態に基づく適切な点検・整備】
点検・整備を的確に行うためには、日常から車両の状況を把握し、その状況に応じた点検・整備を依頼することが必要です。
点検・整備を依頼するにあたって、整備事業者に伝えるべき、環境に影響のある現象例として、次のような場合があります。
・排ガスの汚れが、ひどくなってきた。
・車両の騒音が、増してきた。
・燃費が悪くなってきた。
■黒煙対策の実施
点検・整備に関連して、黒煙・PM対策については大変重要な課題です。使用過程車に対する排出ガス規制の基準は、表のとおりとなっています。
使用過程車に対する黒煙の規制
検査方法等 |
規制値等 |
対象自動車 |
検査開始等時期 |
無負荷 |
50% |
軽油を燃料とする自動車 |
S50.1.1 |
急加速検査 |
40% |
軽油を燃料とする自動車であって、平成5年規制に適合したもの |
H5.10.1 |
40% |
軽油を燃料とする自動車であって、平成6年規制に適合したもの |
H6.10.1 |
25% |
軽油を燃料とする自動車であって、平成9年規制に適合したもの |
H9.10.1 |
25% |
軽油を燃料とする自動車であって、平成10年規制に適合したもの |
H10.10.1 |
25% |
軽油を燃料とする自動車であって、平成11年規制に適合したもの |
H11.10.1 |
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黒煙の濃度が25%を超えると、目視により異常かどうか判断することも可能となってきます。目視による黒煙チェック法の例としては、黒煙の濃度に応じて色分けされた「黒煙チャート」を使用して、排気管出口で排気の色を見る方法があります。
黒煙チャート
■排出ガス低減キャンペーン(運輸省)実施時の点検整備結果
運輸業界においては、法定点検の実施率が低いといわれています。旧運輸省の調査では、適正な整備を行うことによって、車両の約1/4は黒煙を20%以上削減、車両の約半分は10%以上削減できるというデータが得られています。
黒鉛濃度が低減した車両の割合(サンプル調査)
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出典:旧運輸省記者発表事項(平成12年8月分)
【法定点検に加えて、厳しい使われ方等も考慮した独自の基準による点検・整備の実施】
法定点検の実施はトラック運送事業者の環境保全への取組の第1歩ですが、さらに、法定点検に加えて、車両の使用状況等を見ながら、会社として独自の点検・整備基準(走行距離、点検期間など)を設けて点検・整備を行うことが望まれます。
基準値は、自動車メーカーなどが公表しているメンテナンス・ノート等に記載された点検・整備の情報をもとに、車両の使用状況が標準的な使われ方なのか厳しい使われ方(シビアコンディション)なのかをそれぞれ考慮して、設定されることが望ましいと言えます。
■環境に配慮した点検・整備箇所の抽出
チェックリストで示した点検・整備箇所は、法定点検における点検・整備箇所から、特に環境との関連が高いものを中心に取り上げたものです。
メーカーによる基準、シビアコンディションでの使用状況、黒煙クリーン・キャンペーン等のプレスリリース情報等も参考にしながら、各点検・整備箇所に対して運送事業者が取り組める点検内容とその対応を、点検・整備の実施タイミング別(「日常点検時」、「定期点検時」、「走行距離や点検期間を独自に設定」の3つ)に整理しました。
なお、チェックリストでは、「マフラ」を、実際の点検・整備の頻度等を考慮し対象外としました。また、「エアコンガス」を環境対策の面から特に注意が必要と考えられるものとして対象項目としました。
環境に配慮した点検・整備項目
作業の実施 |
主に運送事業者が実施する |
主に整備事業者に依頼する |
運送事業者が実施又は整備事業者に依頼 |
点検・整備
項目 |
日常点検時 |
定期点検時 |
自主的点検(随時必要な点検) |
点検内容 |
対応 |
点検内容 |
対応 |
点検内容 |
対応 |
エアフィルタ |
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状態の点検 |
汚れがあれば清掃・交換 |
状態の点検 |
汚れがあれば清掃・点検 |
エンジンオイル |
量の確認 |
不足していれば補給 |
量の確認 |
不足していれば補給 |
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汚れの確認 |
汚れていれば交換 |
汚れの確認 |
汚れていれば交換 |
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漏れの確認 |
漏れていれば整備 |
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エンジンオイルフィルタ |
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走行距離や時期に応じて交換 |
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走行距離や時期に応じて交換 |
タイヤ |
空気圧の確認 |
不足していれば調整 |
空気圧の確認 |
不足していれば調整 |
空気圧の確認 |
不足していれば調整 |
排気ガス |
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目視で状態確認 |
不適正であれば整備事業者に相談 |
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測定装置で測定 |
不適正であれば原因箇所を究明し整備 |
測定装置で測定 |
不適正であれば原因箇所を究明し整備 |
トランスミッションオイル |
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走行距離や時期に応じて交換 |
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走行距離や時期に応じて交換 |
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漏れの確認 |
漏れていれば整備 |
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デファレンシャルオイル |
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走行距離や時期に応じて交換 |
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走行距離や時期に応じて交換 |
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漏れの確認 |
漏れていれば整備 |
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燃料噴射系 |
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噴射ノズルの汚れ等の確認 |
不適正であれば整備・調整 |
噴射ノズルの汚れ等の確認 |
不適正であれば整備・調整 |
マフラ |
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状態の確認 |
不適正であれば整備・交換 |
状態の確認 |
不適正であれば整備・交換 |
エアコン |
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状態の確認 |
ガスの漏洩防止等 |
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(注)自動車点検基準 (昭和26年8月10日 運輸省令第70号) および、自動車の点検及び整備に関する手引(平成12年3月27日 運輸省告示第162号)を参考に作成した。 |
■自動車点検基準
自動車点検基準 (昭和26年8月10日 運輸省令第70号)より抜粋
最終改正 平成11年10月27日運輸省令第46号
別表第1 (事業用自動車、自家用貨物自動車等の日常点検基準) (第1条関係)
点検箇所 |
点検内容 |
1 ブレーキ |
1 ブレーキ・ペダルの踏みしろが適当で、ブレーキのききが十分であること。 2 ブレーキの液量が適当であること。 3
空気圧力の上がり具合が不良でないこと。 4 ブレーキ・ペダルを踏み込んで放した場合にブレーキ・バルブからの排気音が正常であること。 5 駐車ブレーキ・レバーの引きしろが適当であること。 |
2 タイヤ |
1 タイヤの空気圧が適当であること。 2 亀裂及び損傷が無いこと。 3 異状な磨耗が無いこと。
※4 溝の深さが十分であること。 |
3 バッテリー |
液量が適当であること。 |
4 原動機 |
※1 冷却水の量が適当であること。
※2 ファン・ベルトの張り具合が適当であり、かつ、ファン・ベルトに損傷がないこと。
※3 エンジン・オイルの量が適当であること。
※4 原動機のかかり具合が不良でなく、かつ、異音がないこと。
※5 低速及び加速の状態が適当であること。 |
5 灯火装置及び方向指示器 |
点灯又は点滅具合が不良でなく、かつ、汚れ及び損傷がないこと。 |
6 ウィンド・ウォッシャ及びワイパー |
※1 ウィンド・ウォッシャの液量が適当であり、かつ、噴射状態が不良でないこと。
※2 ワイパーの払拭状態が不良でないこと。 |
7 エア・タンク |
エア・タンクに凝水がないこと。 |
8 運行において異状が認められた箇所 |
当該箇所に異状がないこと。 |
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(注)※印の点検は、当該自動車の走行距離、運行時の状態等から判断した適切な時期に行うことで足りる。 (出典)運輸省自動車交通局監修(平成12年)「自動車整備関連法令と解説(平成13年版)」 |
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