ごあいさつ
潮のひいた磯では、たくさんの種類の生きものと触れあうことができます。その中で、貝殻をせおって潮だまりの中を歩き回っているヤドカリは磯遊びの人気者です。
このたびのマリンサイエンスギャラリー「ヤドカリの世界」では、このようなヤドカリたちについて、いろいろな話題をまとめました。親とはまったく違った形をしているヤドカリのこども、他の動物を利用して身を守るヤドカリ、「動く宝石」といっても過言ではないほど美しい南の島のヤドカリ・・・。磯遊びだけでは知り得ないヤドカリの興味深い話題は他にもたくさんあります。
ヤドカリだけにテーマを絞った展示をご覧いただき、ヤドカリについてより一層の興味をもっていただければ、こんなに嬉しいことはありません。
平成14年11月
千葉県立中央博物館 館長 千原 光雄
表紙 コブヨコバサミ Clibanarius infraspinatus(ヤドカリ科)
ヤドカリとはどんな生きもの?
ヤドカリは、エビやカニと同じ「十脚甲殻類(じっきゃくこうかくるい)」の仲間です。ヤドカリといえば貝殻(かいがら)をせおっている姿(すがた)が印象的(いんしょうてき)で、一見(いっけん)したところエビやカニとは大きく異なって(ことなって)います。しかし、この貝はヤドカリの体の一部ではなく、別の生きものである巻貝(まきがい)の殼(から)です。ヤドカリを貝殻から出し、その体をくわしく見てみると、エビやカニと共通(きょうつう)する部分がたくさんあることがわかります。ヤドカリやエビ、カニなど、十脚甲殻類に共通する特徴(とくちょう)として、頭(あたま)と胸(むね)が甲(こう)(頭胸甲(とうきょうこう))でおおわれていることや、胸脚(きょうきゃく)(はさみ脚(あし)と歩くための脚)の合計が10本であることなどがあげられます。
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ヤドカリは歩くための脚(あし)のうち、後ろの二対(つい)(左右二本ずつ)が前の二対に比べて小さくなっています。これは、狭い(せまい)貝殻(かいがら)の中に溜まった(たまった)ゴミをかき出したりするのに役立っています。また、ふだん貝殻にかくれている腹部(ふくぶ)はやわらかく、右にねじれています。この腹部には目立った節(ふし)がありません。これらは同じ十脚甲殻類(じっきゃくこうかくるい)の中でもエビやカニにはみられない“典型的(てんけいてき)なヤドカリ”の特徴(とくちょう)です。
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典型的なヤドカリ(背面)
わたしたちが磯遊び(いそあそび)などで目にするヤドカリは、大きくふたつのグループ(科(か))に分かれます。左右(さゆう)のはさみの大きさを比べると、簡単(かんたん)に見分ける(みわける)ことができます。左右のはさみがほぼ同じ大きさか、左側が右側に比べて大きくなっているのがヤドカリ科です。一方、右側のはさみが左側に比べて大きくなっているのがホンヤドカリ科です。まずはこれらふたつのグループを見分けると、ヤドカリの名前(なまえ)調べ(しらべ)はより簡単になります。
ヤドカリ科のケブカヒメヨコバサミ Paguristes ortmanni (両方のはさみがほぼ同大)
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ヤドカリ科のイボアシヤドカリ Dardanus impressus (左側のはさみが大きい)
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ホンヤドカリ科のアカシマホンヤドカリ Pagurus sp. (右側のはさみが大きい)
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