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(3)受講した身体障害者O氏の手記
平成14年12月20日は、私に四級小型船舶操縦士の操縦免状が発行された日として、記念すべき日となった。国による障害者へのバリアフリー施策の一環としての小型船舶関連における欠格事項の見直しに伴う、船舶職員法施行規則の一部改正により、身体障害者の免許取得が可能となったその初年度において合格できたことは、久々に味わう感謝と達成感に満ちた快挙として素直に喜んだ。
11月8日ニューポート江戸川で行われた身体検査から始まり、横浜で4回の講習と試験に常に行動を共にしてくれた妻、マリンスポーツ財団の永来、梅田の両氏、懇切丁寧に学科と実技の講習を担当して下さった横浜マリンアカデミーの若田部氏、そしてマリンスポーツ財団を紹介し、励ましと応援を頂いた多くの友人、知人達に心から感謝の意を表したいと思います。
この体験の中で今も強く私の脳裏に刻まれた忘れられない場面があります。実技講習当日、身体障害者である我々2名の講習者に付き添うように永来、梅田の両氏が乗り込んだのだが、船酔いしながらも覚えるのに必死に動き回る我々とは対照的に、厳寒の中、風の吹き荒ぶ船の最後部に陣取り、丸1日無言で座り続けた姿は、形容し難い程の仕事に対する厳しさ、気迫、忍耐力を感じたのは私だけであったのだろうかと、今もその光景と感覚とが残り印象深いものとなっているのです。心の底から頭の下がる思いでした。
今回、5日間の出会いの中から、私なりに感じた4項目について述べてみたいと思います。
第1に、受講者が支払う諸費用に関しては、10万円を下回る金額は私個人としては破格の安さと感じました。私自身が経営者なら絶対に無理な金額として、事業としては扱えないでしょう。何故なら、一般受講者のように常に数多くの人数が望めないこと、特に実技講習や実技試験においては狭い船内に安全面等に配慮し適切な人員の配置を行った場合の少人数化による経費の増大や船舶そのものの維持・管理、その他を考慮に入れるなら、逆に割高になるのではと推測されることから、相当な努力を払ってもやればやるほど赤字が想定される。こうした面からだけでも国策として助成措置がなければ無理であろう。今後受講される身体障害者の方々にもその恩恵を受ける者として、感謝し、真剣に、誠実に取り組むべきであると感じさせられた。
第2に、実技に関する肢体不自由者の扱いについてお願いしておきたいことがあります。それは私自身が常に抱える問題でもあるのですが、車いすから降りての移動や作業はとても遅くなります。動かぬ足が邪魔となり、待って頂く方々に気を遣い、慌て、苛立ち、その怒りが自らの内面に向けられる状態となるため、平静さを失い、かえって悪い状態に陥ることがしばしば起こります。このような観点からも、受講者同士、或いは指導者も、常に慌てなくて良い旨の言葉をかけ続けることによって、緊張する者に対するメンタルヘルスの補助的な作業として行っていただければ、とても緩和され、安心して移動や作業がスムーズに進むものと思います。
第3に、実技試験官の我々に対する対応について、細かな配慮がなされていた点を深く感謝申し上げておきたい。すでに免許資格を有する友人達に聞いていた試験内容の順序等とは大きく異なり、例えば乗船時に口述試験を終わらせて下さるなど、随所に個人個人の状態を見ながらの、またやさしく確認しながらの試験によって合格に導かれたと改めて思い返している。
今、総合的に判断してみると、マリンスポーツ財団、海事代理士の若田部氏、試験官と、想像ではあるが身体障害者を扱った期間、人数に比して、その資質の高さに驚いている。どうぞこの質の高さを堅持し、身体障害者の免許取得とマリンスポーツの普及に末長くお付き合い頂けますよう祈念いたします。
第4に、ひとつの提案をしたいと思います。折角許可された身体障害者操縦免許ですから、使用もせず眠らせて置くのは勿体ないと思います。一定の資格取得達成者をもって、組織編成する等、海洋レジャーやスポーツを身体障害者が直接参加出来る領域にまで広げることを念頭に、事業展開を模索されてはいかがでしょうか。時間を要する事業ではあると思いますが、こうした経験は我が国にとって一度としてありません。身体障害者を巻き込むことは、その周囲にある環境の人々をも巻き込む必然的な要素なのですから。
マリンスポーツ財団の益々の繁栄と活躍を祈念し、擱筆したいと思います。
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