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7. 身体障害と講習に必要な介助
(1)身体障害者とは
 身体障害者に対する規定は身体障害者福祉法で次のように定義されています。
 「この法律において障害者とは、下表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう」
 1980年の国際障害者行動計画の中では、障害者について、次のように述べられています。
 「障害者は、その社会の他と異なったニーズを持つ特別な集団と考えられるべきではなく、通常の人間的ニーズを満たすのに特別な困難を持つ普通の市民と考えるべきなのである」
 国連は、障害者について「障害者」という特別な人たちが存在するのではなく、ひとりひとりが普通の市民であり、しかし、通常の人間的ニーズを満たすための困難さを持っている市民であるとしました。
 社会の役割は、この困難さを解消するための様々な配慮や手立てを講じることにあります。障害への配慮や手立てがあって、初めて社会への完全参加や平等な生活が実現します。操縦免許取得もこれに連なるものです。
 
1 視覚障害で、永続するもの
(1)両眼の視力がそれぞれ0.01以下のもの
(2)1眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもの
(3)両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
(4)両眼による視野の2分の1以下が欠けているもの
2 聴覚又は平衡機能障害で、永続するもの
(1)両耳の聴力レベルがそれぞれ70dB以上のもの
(2)1耳の聴力レベルが90dB以上、他耳の聴力レベルが50dB以上のもの
(3)両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50%以下のもの
(4)平衡機能の著しい障害
3 音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害
(1)音声機能、言語機能又はそしゃく機能の喪失
(2)音声機能、言語機能又はそしゃく機能の著しい障害で、永続するもの
4 肢体不自由
(1)1上肢、1下肢又は体幹機能の著しい障害で、永続するもの
(2)1上肢のおや指を指骨間関節以上で欠くもの又はひとさし指を含めて1上肢の2指以上をそれぞれ第1指骨間関節以上で欠くもの
(3)1下肢をリスフラン関節以上で欠くもの
(4)両下肢のすべての指を欠くもの
(5)1上肢のおや指の機能の著しい障害又はひとさし指を含めて1上肢の3指以上の機能の著しい障害で、永続するもの
(6)1から5までに掲げるもののほか、その程度が1から5までに掲げる障害の程度以上であると認められる障害
5 心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害で、永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの
(注)本マニュアルで使用する身体障害者とは、「操縦免許取得年齢以上の身体に障害を有する者」をいいます。
 
(2)身体障害の種類
 我が国では「障害者基本法」第2条で次のように定義されています。「第2条 この法律において障害者とは、身体障害、知的障害または精神障害があるため、長期にわたり日常生活または社会生活に相当な制限を受ける者をいう」つまり、障害者は行政的に身体障害、知的障害、精神障害の3つの障害区分でとらえられています。身体障害は肢体不自由、視覚障害、聴覚言語障害、心臓ぺースメーカーを使用したり、腎臓透析を受けている等の内部障害に分けられます。
 ここでは、操縦免許取得を目指す身体障害者は、船舶職員法施行規則の身体検査基準を満たす方に限定されるため、視覚障害者と聴覚障害者を除いた方についてのみ、記載することとします。
 
(1)身体障害者手帳
 身体障害者福祉法で定められた障害の範囲や程度に該当すると見なされた人には「身体障害者手帳」が交付されます。手帳には、障害の原因になった疾患の名前とともに、「体幹機能障害」「上肢障害」など、障害の生じている場所及びその障害の程度によって定められた等級(1から6級)が記入され、1級は最も障害の程度が重い級です。
 
(2)障害の種類(身体障害)
 平成8年度の調査より、身体障害者の数は約300万人と言われており、そのうち在宅で生活している人は約95%の293万です。障害の種類としては脳血管障害、脊髄損傷(頚髄損傷)、脳性麻痺、脳外傷、ポリオ、切断、リュウマチ、火傷、膠原病、パーキンソン病、進行性筋ジストロフィーなどがあります。
 
(3)各種の身体障害の特徴と注意事項
 肢体不自由には、体の一部分が動かなくなる麻痺を生じる脊髄損傷、脳性麻痺、脳血管障害、ポリオといった「麻痺」と体の一部分が欠損する切断に大別されます。ここでは、代表的な障害とその介助法を紹介します。
 
(1)脊髄損傷
 脊髄損傷者とは、背骨を通る太い神経の束である「脊髄」が交通事故や労災などの外傷、腫瘍や血管などの病気などによる後天性原因、あるいは先天性二分脊椎などの先天性疾患などにより損傷を受け、損傷部位より下の運動麻痺と感覚麻痺を起こしたものです。また膀胱機能や自律神経機能にも障害が生じ、生殖機能や、排尿排便等の障害をきたすこともある症状を持っています。損傷を受けた脊髄の部位、すなわち頚髄損傷と胸髄損傷と腰髄損傷では運動や感覚の麻痺が生じている範囲が異なります。すなわち頚髄損傷では、上下肢、体幹に麻痺が生じており、特に手指機能に障害があることでロープワークなど手を用いた作業が困難な場合が多くなります。加えて、体幹、股関節周囲の大部分の麻痺があり、乗り移り動作や坐位バランスに大きな問題があります。一方で胸髄や腰髄の損傷では、上肢は正常であり下肢に麻痺が生じます。
 完全麻痺と不全麻痺があり、その多くが車いすを使用しており、中には不全麻痩で歩行可能な人もいます。
 
(a)注意事項
褥創(じょくそう)=床ずれ防止
 講習の前に、必ず褥創や外傷がないかを受講者に確認します。場合によっては中止を要します。また、褥創は臀部に生じることが多いので、長時間固い場所や凸凹のある場所で座位を取るような場合は、講習中や試験中でも30分に1分程度は腎部を持ち上げるようにします(プッシュ・アップ)。
 また、脊髄損傷者の多くは、褥創防止の為、Jパット(17頁参照)を使用していることが多く、試験にも使用が認められています。
骨折しやすい
 麻痺している場所は骨が薄くなっており、また、関節の変形や制限をも伴っている場合もあります。これらのことから、少しの外力でも骨折を生じるので十分な留意が必要です。
講習、試験開始前にトイレヘ
 頚髄損傷や胸髄損傷の多くの者は、自律神経のコントロールが失われています。血圧が急激に上昇し、頭痛や顔面が真っ赤になり、汗がポタポタと滴り落ちるような多量の発汗、鳥肌現象などが生じます。また、眼底出血や脳出血を生じる可能性もあるので、非常に注意を要します。予防としては、講習や試験前に排尿するように指導します。必要とあれば収尿器の使用をすすめますが、万が一のため船内に尿瓶の用意をしておくのも良い方法です。
痛みが分からないことがある
 感覚に麻痺がある場所では、打撲や突起物への接触により切傷、捻挫、骨折や、エンジンの熱による火傷が生じても本人は分からないことがあり対処が遅れることがあります。受講後に腫れや内出血が生じてないか確認し、疑わしい場合は医師の受診をすすめます。
体温調整が困難
 自律神経機能の障害により、発汗機能の低下、ふるえ機能の低下により、温度変化に対する体温調節が困難になります。熱射病などにより意識を失う場合もあり注意を要します。特に頚髄損傷で多く見られ、暑い中でのクーリング、寒い中での防寒とともに、十分な観察やコミュニケーションが大切です。夏には水を入れて凍らせたペットボトルを準備しておくと、冷却や飲料用としても使用できます。冬には暖かいお茶や毛布を準備しておきましょう。
座位バランスがとりにくい
 頚髄損傷者や胸髄損傷者の中には、障害のため座った姿勢でのバランス感覚(座位バランス)が低下しているため不安定な場合があります。旋回などの操船時に転倒する可能性がありますので、座席の工夫や転倒防止ベルトなどの装着が望まれます。
突然、手足がぶるぶるふるえだす−痙性(けいせい)−
 受講中に突然に手足がぶるぶるふるえだす「痙性」という状態が出現することがあります。両下肢全体がガタガタと痙攣することも、関節周囲がピクピクと震えることもあります。しかし、意識を失うことはなく数分程度で回復します。これは頻繁に起こりうるもので、受講者の大半は対策を知っています。このようなときは、指導者は落ち着いて受講者に尋ねることが大切です。
 
(2)ポリオ
 ウイルスによる感染症で、過去に世界中で大流行を繰り返したくさんの人命が失われました。脊髄性小児麻庫とも呼ばれ、日本でも沢山の人が亡くなり、多くの障害を持った人が発生しました。しかし、1961年のワクチンの経口投与により激減し、現在では発症は殆ど見られなくなりました。2000年に世界保健機構(WHO)は日本を含む西太平洋地区のポリオ根絶を宣言しました。現在、40歳前後くらいの世代が日本でのポリオによる障害を持った最後の世代といえます。ポリオの麻痺の特徴は、筋肉が緊張を失いだらりとなった麻痺であり、そめために筋肉が細くなり、関節機能が障害されます。麻痩の発生する部位は下肢に多く、しかも、片側が多いです。次に多いのが片側の上肢ですが、両側片側の上下肢、四肢に及ぶこともあります。
 
(a)注意事項
 一般的な注意事項は「脊髄損傷」を参照のこと
   ・ だらりとなった麻痺のため、関節が異常に動くと炎症を生じ、関節の痛みや腫れなどを起こすので注意を要します。
   ・ 片側上肢が完全麻痺の場合、上肢がブラブラの状態になっています。
講習の際、麻痺している上肢の保護や保持を考えることが大切です。
   ・ 片側上肢の不完全な麻痺の場合は、ある程度上肢は動かせ、コントロールがききます。したがって、講習や試験に際しては、障害のある側も積極的に使うようにします。
   ・ 片側の下肢麻痺で完全に動かない場合は、杖や車いすを使用している人が大半です。不全麻痺の場合は、肢体不自由者の中では比較的操縦免許に取り組みやすい障害といえます。
   ・ 両下肢麻痺で完全麻痺の場合は、車いすを使用している人が大半です。疲労にも注意します。
 
(3)切断者
 切断者とは、交通事故や労災などの外傷、腫瘍や手術などにより四肢のある部分より先を失った人を言います。最近では糖尿病や血管の病気などにより余儀なく切断されることもあります。機能を保つためや、美容上の理由により義手や義足を使用している人も多くいます。しかし、失われた部分以外の機能は正常です。したがって、肢体不自由者の中では操縦免許に取り組みやすい障害と言えます。TPOに合わせて義足を使用したり、車いすを使用したりと使い分けしている人も多くいます。講習にあたっては、義足や義手の装着にこだわらず、操船するために機能の良い状態で受け入れるようにするべきです。近年では、パラリンピックなどの競技スポーツが発展し、ショックアブソーバー付きの陸上スプリント専用の義足なども開発されるようになりました。
 
(a)注意事項
   ・ 下肢切断では関節を痛める場合があるので、原則としてジャンプなど強い衝撃が加わる動作は避けるようにします。
   ・ 断端に傷を作らないように、断端の保護には十分気を配る必要があります。
   ・ 手指切断の場合には、ほぼ障害のない人と同等の扱いでよいと思います。
   ・ 上腕切断や肩関節での切断の場合には、運動時の身体のバランスが悪いので転倒などに注意を要します。
   ・ 断端に疼痛がある場合は、講習を中止して医師の診断を受けさせるようにします。
   ・ 最近は、糖尿病や血管の病気のため切断の障害を持つ人も増えています。血糖のコントロールが必要で、血糖コントロールの薬の飲み忘れにより発作を生じることもあるので注意を要します。
   ・ 糖尿病や血管の病気のため、切断の障害を持った人は傷が治りにくくなっています。小さな傷でも十分な注意が必要です。
 
(4)脳性麻痺
 医療関係者の間では英語名Cerebral Palsyを略して「CP」と呼ぶことが多い疾患です。脳性麻痺あるいは脳性小児麻痺とも呼ばれますが、昭和30年代に我が国で流行した脊髄性小児麻痺(ポリオ)とは異なる病気です。胎児から新生児の初期に色々な原因で脳細胞が損傷をきたし、そのため、手足や体の中心部が麻痺するもので、大きく4つのタイプに分けられます。痙直(けいちょく)型(65%)とアテトーゼ型(約20%)が大半を占めています。症状や障害の程度は大変幅広く、重度の両上下肢に麻痺があり、歩行不能で寝たきりの人もいれば、杖や装具も不必要で普通に歩行可能で、注意して観察しなければどこに障害があるのか分からない軽度の人もいます。脊髄損傷の麻痺のように筋力それ自体が低下しているのではなく、筋力のアンバランスや協調動作に障害があります。運動のコントロールが難しく、精神的緊張や意識的な動きを過剰にした場合や、気温などにより動きが変化することが特徴です。また、運動機能の障害が殆ど全身に及ぶのが大部分で、特に、両上肢・下肢ともに麻痺する例が多く、全体の6割以上に及んでいます。
 
(a)注意事項
   ・ 精神的な緊張時に、筋肉の緊張が高まることがあります。
急に声をかけたり、急な体の位置の変換は緊張を強めるので、できるだけ避けるようにします。
   ・ 軽度といわれる人でも歩行時はバランスを取るのが難しいことがあります。したがって、歩行空間はできる限りバリアのないほうがよく、手すりなどつかまれる物があるとよいでしょう。
   ・ 座ったときのバランスも保てない場合があり、手すりや背もたれなどで補助する必要が生じます。
   ・ 桟橋などでの移動は、健常者でも波が高くバランスをとるのが難しい場合は「はう」形で移動することも考えられます。
   ・ 電動車いすを使用している人は、桟橋の揺れでジョイスティックの誤動作を避けるため、使用を控えてもらうことが必要です。また、受験者の精神的緊張による操作ミスを回避するため、水際などでは電源を切って手動操作にするのがよいでしょう。しかし、機種によっては手動にするとブレーキが利かなくなる電動車いすもあるので、事前の確認が必要です。
   ・ 捻挫・打撲・骨折を起こしやすいので十分注意を要します。
   ・ てんかん発作を生じる可能性があり、厳重な注意が必要です。このため、発作の既往や、坑てんかん薬の使用歴を受講前に確認しておきます。
 
(b)発作が起きた際の対処法
   ・ 静かに寝かせます。
   ・ ボタン、バンド等、身体を締めつけているものを緩めます。
身体を揺すってはいけません。
   ・ 舌をかまない配慮が大切です。歯の安全上、割り箸にガーゼを巻いた物などを常に用意しておく必要があります。
   ・ 吐物を誤嚥しないように、頭を片方に向け、頭の下に柔らかい物を置きます。
   ・ 意識を取り戻したら休ませます。
  ・ 発作が数分以上続き、意識が回復しない場合は医師を呼び診断を受けさせます。
 
(c)タイプ別の指導ポイント
   ・ 痙直型
 最も多いタイプです。顔や上肢より下肢に障害が及ぶことが多く、足が内側を向きつま先で歩くといった歩行障害の原因になります。動作を急がせると、筋肉に硬さとつっぱりが見られることもあります。
   ・ アテトーゼ型
 痙直型とは逆にこのタイプの姿勢はたえず変化し、頚部や顔や手足、体の中心部に自分では意図しない動き(不随意運動)が生じます。急な環境の変化時に反応することが多いため、介助時などは声を掛けタイミングを合わせて実施します。
   ・ 失調型
 脳性麻痺のほぼ9割はアテトーゼ型と痙直型が占めるので、失調型はそれほど多くないが、よろけるような歩き方が特徴であり、筋力が弱いという特徴があります。
   ・ 混合型
 各種のタイプのうち、2種、またはそれ以上が混合したもので、障害の程度をよく把握することが大切です。そして、疲労による注意散漫に気をつけ、十分休憩を取らせるようにします。
 
(5)脳血管障害、脳外傷等による脳障害
 脳出血や脳梗塞などの生活習慣病からの発症が多く、加えて脳動静脈奇形や交通事故などの外傷性の脳障害、ウイルス感染による脳炎後遺症などからの場合もあります。多くの場合左右片側の上下肢、体幹に運動、感覚麻痺があり、失語症や認知障害、記憶障害などの高次機能障害を合併することもあります。また、薬などで血圧コントロールをしている人も多く、危険性などは事前に確認しておく必要があります。歩行と車いすを併用している人が多く、また、下肢装具や杖などの使用者がいるため、どのような方法で実施するか受講者の意向をよく聞き取る必要があります。
 
(a)注意事項
   ・ 坐位や歩行時に左右差ができ、バランスを崩しやすくなっているため、不安定な桟橋などでは麻痺側に添うような形で転倒を予防し、操縦席においてもベルトなどを施し安全対策をします。
   ・ 移動に際して
 移動方法は歩行と車いすの可能性が多いが、特に不安定な場面での移動に際しては、できれば麻痺側に補助的に介入し、危険な場面は回避します。
   ・ 発作に関して
 基本的にはコントロールされている場合が多いが、再発作時は直ちに救急救命活動を実施します。(発作時の対応と同様)
   ・ 高次脳機能障害
 失語症によりコミュニケーションが困難な場合や、記憶障害や注意障害、失行失認など様々な高次脳機能障害が合併することがあり、本人が気付いていない場合もあります。コミュニケーションや観察を通して、変だと思うことがあれば確認しておくことが重要です。失語症の場合、筆談も困難な状況があるため、できるだけゆっくりと聞き取りや話し掛けを行います。
 
(6)内部障害者
 腎臓疾患や心疾患などによる障害を言います。基本的には運動麻痺は殆ど見られませんが、稀に合併症などがある場合があります。
(a)注意事項
 発作や疲労の問題が多いので、薬の必要性や耐久性の問題を確認しておくことと、緊急時の連絡先等の情報を記録しておく必要があります。
 
 







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